訴   状

当事者の表示   別紙当事者目録記載の通り

著作権侵害差止等請求訴訟事件

訴訟価額  金1095万円也
貼用印紙  金5万3000円也

請求の趣旨

1 被告は、別紙目録1ないし9記載の図柄を使用してはならない。
2 被告が有する別紙目録1ないし9記載の図柄を使用したパッケージ、リーフレットは廃棄せよ。
3 被告は原告に対し、金1000万円及びこれに対する訴状送達の翌日から支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。
4 訴訟費用は被告の負担とする。
旨の判決並びに3、4項につき仮執行宣言を求める。

請求の原因

第1、はじめに――本件訴訟の概要と本質――
本件は、もともと自社商品の宣伝のため雑誌掲載用にイラスト制作を原告に依頼した被告会社が、5年ののちに、そのイラストを原告に無断で自社商品の本体商品、パーツ商品及びオプション商品のパッケージやリーフレットなどに全面的に使用したという至って単純明快な著作権侵害事件である。
従って、本来なら、その無断使用に気がついた原告から申入れがあった時点で、被告がその非を認め、誠実な交渉をすれば速やかに円満解決できるごく単純な事案であったが、しかし、本件の被告は、そうした交渉を一切しなかった。それどころか、そのイラストに誰が見ても質を落としたとしか言いようのない「改悪」を施して、無断使用の非難を免れようとしたため、その姑息な、人と人と思わない横暴なやり方に原告の忍耐の緒が切れたものである。
世の中では、知的財産権の保護が声高に叫ばれている。しかし、今、その保護が最も必要とされるのはほかでもない、価値の創造者である。つまり、著作権でいえば、かくべつ有名でなかろうが、きちんと創造的な作品を生み出しているごく普通の個々のクリエーターや実演家の人たちの保護である。なぜなら、彼らこそ、著作物の価値の創造者であるにもかかわらず、経済的な弱者であるがゆえに、経済的な強者たちの無断使用といった横暴に対し、通常、それを泣き寝入りせざるを得ない圧倒的に不利益な立場に置かれているからである。つまり、価値の創造者に相応しい正当な扱いを全く受けていないからである。このままでは、知的財産権の保護も掛け声だけの幻にすぎない。
 価値の創造者は、誰であろうとも、どこにいようと、価値の創造者である。彼らにはひとしく価値の創造者に相応しいフェアな保護が与えられるべきである。
それゆえ、本件は、クリエーターを人と思わないような不合理な事態に対してフェアな保護を求める、「弱者の実質的自由を回復する」ための裁判である。
現代は、市民が誰もがクリエーターになれる時代である。それゆえ、本件はまた「これまでまかり通ってきた経済的強者の常識に対し、普遍的な市民の常識でもってこれを問い直す」裁判である。

第2、当事者
原告は、高校卒業後社会人として9年間大手電気メーカーに勤務した後、1986年東京の中央美術学園に入学して絵を学び、同校を卒業後、1988年よりフリーのイラストレーターとして活動を開始し、以後15年間、リアルタッチのイラストレーションを中心に出版関係、学校教材、広告、新聞などで仕事をしてきた。
被告は、自動車用品の製造販売を主たる業務内容とする法人であり、主力商品の一つが、本訴訟で問題となったリモートコントロールによりエンジンの始動を行なう「スターボ」(STARBO)シリーズである。

第3、権利の目的たる著作物及び著作権者
原告は、1993年9月、(株)G(通称「Gデザイン」といい、以下、訴外G社という)の依頼により、被告の自動車用品「STARBO」シリーズ(以下、被告STARBOという)の新機種の雑誌広告に使用する目的で、イラストの制作を委託され、同社代表のK氏(以下、訴外Kという)と数回の打合せの上、翌10月2日に当該イラストを完成させ(以下、本件イラストという。甲1)、訴外G社に納入し、その後、本件イラストは、雑誌「ホリデーオート」(平成5年12月26日号)に掲載された(甲2甲3)。
 すなわち、原告が本件イラストの著作者であり、著作権及び著作者人格権を保有している。

第4、被告の無断利用行為
ところが、被告は、1995年頃から現在に至るまで、別紙目録1ないし4記載の図柄(以下、被告図柄Aという)もしくはその服の色だけ変えた図柄を、2002年11月頃から現在に至るまで、別紙目録5ないし9記載の図柄(以下、被告図柄Bという)もしくはその服の色だけ変えた図柄を、被告の主力商品の一つである「STARBO」シリーズの本体商品、別売のパーツ商品、オプション商品の各パッケージに大量に使用し(甲4)、或いはこれらの商品の広告宣伝に大量に使用している(甲5。同12。以下、被告図柄A及びBを総称して被告図柄という)。
被告図柄は、被告STARBOの本体商品のパッケージ(検甲2ないし4)や雑誌掲載されたもの(検甲8)と本件イラストのポジフィルムのデュープ(検甲1)を元にしてパソコンでサイズを調整して透明フィルムにプリントしたもの(甲6の1ないし4)とを重ねて対比してみれば一目瞭然の通り、
@.被告図柄Aについては、本件イラストの女性部分をそのまま再現して、その上で服の色を赤色からオレンジ色や黄色やグリーンなど別の色に変更したり、或いは
A.被告図柄Bについては、本件イラストの女性部分をそのまま再現して、その上で、
(1)、服の色を別の色に変えるのみならず、
(2)、髪の毛にウェーブをかけ、
(3)、右腕の上腕部分が前腕より細くなるくらい描き直され、
(4)、右手が全体的に肉付きが扁平で、親指が細く、とりわけ人指し指が異様に長く描き直され、
(5)、両肩の線も曖昧にぼかされ、
(6)、右腕の袖や服のしわも雑に描き直され、
これらは、全体として「人物を描く上で特に重要となる人体の骨格や筋肉の付き方などの人体構造が十分に理解できていないまま」(甲8の原告陳述書(1)25頁)殆ど素人の小細工を施した「改悪」であることが分かる(その詳細は、甲8の24〜25頁参照)。
従って、被告図柄は本件イラストの複製にほかならない。
また、被告図柄は、前述の通り、女性の服を別の色に変更したり、個々の細部に小細工を施しており、著作権法上、原告が有する同一性保持権の侵害行為に該当する。
さらに、被告は、被告図柄を利用するにあたって、原告の氏名を表示しなかったので、著作権法上、原告が有する氏名表示権の侵害行為に該当する。

第5、被告との交渉の経緯
原告は、2001年9月15日、たまたま立ち寄った自宅付近のカー用品専門店で、被告STARBOのパッケージに使用されている被告図柄Aを目にして、本件イラストが改変の上無断使用されていることを知り(甲4・5頁以下参照)、被害状況などを入念に調査する中で、原画を描いた原告でさえ、その本来の色合いが分からなくなるくらい様々な色に改変させられたことを知り、改めて大きなショックと怒りに襲われたが、意を決して、2002年3月15日、訴外Kと連絡を取り、前記無断改変・無断使用について、相談した。説明を聞いた訴外Kは原告に対し、『とんだことになってまして、大変申し訳なく思っております。』という題名のメールをよこし、
「さて、問題のイラスト著作権および二次使用に関しまして早急に確認と後処理に関しまして動きます。」(甲9
と対応したので、ひとまずこれに従うことにした。
 そこで、同月28日、原告は訴外Kの事務所を訪れ、本件イラストの原画を撮影したポジフィルムを見せてもらい、それを見て、改めて、被告図柄Aが本件イラストを無断複製・改変したものであることを確信した。のちに、原告は訴外Kに、前記ポジフィルムの貸出しを依頼したところ、4月13日、訴外Kから原告の元に、前記ポジフィルムを縮少して複製したものが送られてきた(検甲1)。
 しかし、その後、何の進展もないまま、半年以上の時間が経ち、膠着状態の中、2002年11月の下旬頃、再び、侵害行為を受けたまま、まだ癒されない原告の傷口にさらに塩を塗るような事態が起きた。それが被告STARBOの新機種(RS‐160i、RS‐210i、RS‐360i)の発売とそのパッケージに今まで使われていた被告図柄Aとは異なる「改悪」としか言いようのない被告図柄Bが使われていたことだった(甲4・13頁以下。甲9参照)。
 なぜこのような出来の悪いイラストに描き換えてまで、このようなことをするのか? 
 この疑問に対し、原告が考え抜いた末に辿り着いた結論は次のことだった――原作品である本件イラストのベースはそのまま使い続けたい、しかし、著作権侵害を主張されては厄介だ。だったら、そのベースを継承しつつとりあえずそこに手を加えてあたかも別の作品であるかのように見せかけ、それでもって著作権侵害の主張をはぐらかそう、と。
そこで、怒りを通り越してあきれるよりほかなかった原告は、解決する方向に向かうことを期待していたことが、解決するどころか180度正反対の方向に向かってしまったことを悟り、このような全面的な開き直りの姑息で卑劣な態度を取る被告に対して、従来通り、訴外Kを通じて話し合いをするような手ぬるいやり方では、もはや問題の解決などありえないと悟った。
こうして、インターネットを通じて知った原告代理人の弁護士柳原敏夫からアドバイスを受け、原告は、2003年9月30日、被告宛てに著作権侵害行為に対する解決を求める内容証明郵便を送ったが(甲10)、これに対して、被告は原告に対して何の返事も連絡もなく、やむなく、原告代理人の名前で、再度、最後通諜の内容証明郵便を送ったが(甲11)、これもまた完全に黙殺された。
 そのため、やむなく、本訴訟に及んだ次第である。
 なお、参考までに、以上の経過は別紙に「経過年表」としてまとめておいた。

第6、著作者人格権侵害に基づく差止請求
 以上の通り、被告は、原告の有する同一性保持権を侵害する被告図柄を現在も使用している。
よって、請求の趣旨第1項及び第2項に記載の通りの判決を求める。

第7、原告の損害
1、複製権侵害について
(1)、本件イラストの使用形態
本件イラストは、当初、被告STARBOの新機種の雑誌広告のために使われたものであるが、その後、被告の無断使用により、
(a)、被告STARBOシリーズの全ての商品本体のパッケージのみならず、
(b)、別売のパーツ商品やオプション商品の各パッケージまで、
(c)、さらにはそのリーフレットはもちろん、それらの商品を広く世間に認知させるための雑誌広告に至るまで
被告STARBOシリーズの全てにわたってすみずみまで使用されるに至り(甲4)、まさしく、本件イラストが被告STARBOを他社のSTARBO商品と識別するためのキャラクターとして機能するに至った。従って、本件イラストの使用形態は、単なる販促的使用ではなく、商品化的使用というべきものである。
(2)、商品化的使用における使用料率
一般に、商品化契約において、国内の作品の使用料率は、許諾商品の小売価格の「3〜5%」(東京通信ネットワークOnline Magazine2000年10月16日号「IT時代に新展開のキャラクタービジネス」)とされ、従って、商品化的使用と認められる本件イラストの場合、その使用料率は、控え目に見積もっても、被告STARBOの小売価格の2%を下らない。
(3)、著作権法114条2項の使用料相当額
被告図柄を使用した被告STARBOの小売価格の総額は、原告の計算によると、277億4330万4000円を下らない(甲8の原告陳述書(1)28〜29頁・別紙「定率制(従量制)の使用料計算」参照)。
従って、本件において、著作権法114条2項の使用料相当額とは、金277億4330万4000円×0.02=金5億5486万6080円を下らない。
よって、被告は、前記複製権の侵害に基づく財産的損害の賠償として、著作権法114条2項により、金5億5486万6080円を支払う義務がある。
2、同一性保持権及び氏名表示権の侵害について
前述した通り、被告図柄Aにおいていくつもの色の改変が行われ、また被告図柄Bにおいても、いくつもの色の改変が行われたのみならず、さらにリアルタッチで描いた本件イラストのイメージが著しく損なわれた。また、被告図柄を利用するにあたっても、原告の氏名が表示されなかった。
それゆえ、原告の被った精神的苦痛を慰謝するためには、その慰謝料の金額は少なくとも400万円を下らない。
3、損害(弁護士費用)
 前記の通り、被告が話合いに応ずる姿勢が全くなかったため、原告は、本訴訟提起を余儀なくされたものである。そして、前記賠償金額や本訴訟遂行の難易度等に照らし、本訴訟追行に関する弁護士費用は少なくとも金100万円を下らない。
4、よって、原告は被告に対し、前記損害合計金5億5986万6080円のうち、本訴においては一部請求として、請求の趣旨第3項に記載の通り、金1000万円及びこれに対する訴状送達の翌日から支払済に至るまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。

以 上 

証拠方法


甲第1号証    原告作成の本件イラストの複製物(検甲1を元に原画の原寸大に拡大したもの)
甲第2号証    原告代理人作成の電話聞き取り報告書
甲第3号証1〜3 雑誌「ホリデーオート」(平成5年12月26日号)
甲第4号証    被告STARBOの本体商品、パーツ商品及びオプション商品パッケージ・リーフレット一覧表
甲第5号証    被告STARBOの広告宣伝用の雑誌一覧表
甲第6号証1〜4 検甲1のデュープを元にパソコンで編集の上、透明フィルムにプリントしたもの(検甲2〜4、同8の被告図柄と対比するためのもの)
甲第7号証    原告作成の報告書(被告STARBOの販売状況)
甲第8号証    原告作成の陳述書(1)
甲第9号証    2002年3月15日付訴外Kから原告宛ての電子メール
甲第10号証    原告作成の被告宛ての内容証明郵便
甲第11号証    原告代理人作成の被告宛ての内容証明郵便
甲第12号証   原告作成の報告書(被告STARBOを宣伝した被告のホームページ)

検甲第1号証   訴外K作成の本件イラストのポジフィルムのデュープ(=複製物)
検甲第2号証   被告STARBOの本体商品(RS−651)のパッケージ
検甲第3号証   被告STARBOの本体商品(RS−1500)のパッケージ
検甲第4号証   被告STARBOの本体商品(RS−160i)のパッケージ
検甲第5号証   被告STARBOのパーツ商品(ST−028)のパッケージ
検甲第6号証   雑誌「ベストカー」1998年11月10日号(215頁参照。被告STARBO(RS−601、RS−651、RS−701)の広告)
検甲第7号証   雑誌「AV(アクティブ・ビークル)」2002年3月号(168頁参照。被告STARBO(RS−1500、RS−2000、RS−2500、RS−3500)の広告)
検甲第8号証   雑誌「AV(アクティブ・ビークル)」2003年2月号(164頁参照。被告STARBO(RS−160i、RS−210i、RS−360i)の広告)
検甲第9号証   被告STARBO(RS−3500〜1500)のリーフレット
検甲第10号証  被告のSTARBO(RS−360i〜160i)のリーフレット

添付書類

1、訴訟委任状             1通
1、会社の代表者事項証明書    1通




        平成16年 1月 23日


原告訴訟代理人
               弁護士   柳 原 敏 夫

東京地方裁判所民事部 御中