陳述書 (1)

村川 正敏     

目 次

第1、略歴

第2、本件イラストの発注を受けて納品するまでのデザイン事務所とのやり取り

第3、侵害行為の発見についてのいきさつ

第4、その後の調査とK氏との交渉のいきさつ

第5、最終決断に至った経緯

第6、侵害行為の詳細な分析

第7、著作権使用料相当額について

第8、最後に――本件の裁判に希望すること――

 

第1、略歴

 1959年3月28日、熊本県に生まれる。高校卒業後上京し、大手電気メーカーに9年間務めた後、20代後半で中央美術学園に入学して絵を学び直しました。中央美術学園卒業後、1988年よりフリーイラストレーターとして活動を開始し、以後15年間、リアルタッチのイラストレーションを中心に出版関係、学校教材、広告、新聞などで仕事をしております。主な取引先に、朝日新聞社、新学社、大阪書籍、日本標準、ダイヤモンド社、学芸通信社、等々、その他広告関係多数、企業とも直接取引きするなど、一貫してリアルイラスト(注:人物や動植物、風景、機械やメカニック、製品、視覚で捉えられない科学理論など、写真以上に写実的にリアルタッチで描くイラストレーションの分野のこと)、テクニカルイラスト(注:主に機械やメカニックを描くイラストの分野のこと。図面などを元に描き起こすことも多く、機械技術的な素養も必要とされるためテクニカルイラストと呼ばれる。車のイラストもこの分野に入る)の分野で活動をしてきました。
 1997年頃より、人物の似顔絵・肖像画を手掛けるようになり、一般の人からも依頼を受けて作画するようにもなりました。1999年、山梨県八ヶ岳南麓に引っ越し、翌2000年、似顔絵工房&ギャラリー『アトリエ絵む』を構え、現在、出版関係、似顔絵・肖像画の作成を中心にイラストレーター・画家として活動しております。

 

第2、本件イラストの発注を受けて納品するまでのデザイン事務所とのやり取り

 今回、著作権侵害が問題となった私が制作したイラスト(以下、本件イラストといいます)は、1993年9月の半ば頃、(株)G(通称Gデザイン)のグラフィックデザイナー、K・K氏(以下、K氏と略称します)より依頼を受けて制作を進めることになったものです。当時の私とK氏の関係は、K氏の友人が私の知人であったことにより、その知人の紹介により私に依頼が来たものと記憶しています。
 なお、グラフィックデザイナーの地位について一言補足しますと、ポスターやパンフレット、カタログ、チラシ、雑誌広告、社内報、パッケージデザインなど、商業目的の印刷物を企画制作する職業でして、ただ、自身が写真やイラストや掲載する原稿などの素材すべてを制作するのではなく、むしろ、写真家やイラストレータやコピーライター等に素材を発注したり、クライアントから提供される原稿素材等をコーディネイトする役割が中心業務となります。最終的に集まった素材を版下原稿に編集し、印刷所に入稿したり、刷り上がりの印刷物をクライアントに納入するなどします。
 本件イラスト制作依頼を受けた以降のやり取りの流れを、段階ごとに、記憶している範囲で箇条書きに記述します。その当時のメモを残した手帳を捨ててしまったため、正確な日付けや、やり取りの不明確な部分がありますが、ごく常識的な流れに沿ってその部分を補っています。なお、この当時私は、東京の練馬区に住んでおりまして、自宅アパートを事務所兼アトリエとしていました。

1、その知人の紹介がきっかけとなり、K氏より電話で制作依頼の打診を受けました。この時点ではまだ正式な発注にはなりませんが、第一回目の打ち合わせを約束をしました。

2、その翌日か翌々日に、K氏のデザイン事務所に第一回目の打ち合わせに向かいました。(余程のスケジュールの混雑がない限り、通常、これ位の日程で打ち合わせに臨む場合が多いです。)地下鉄の最寄り駅もあるにはありましたが、あまり近いとも言えず、渋谷駅から地図を頼りに徒歩で向かったことを憶えています。K氏とはこの時が初対面でした。
 その時の打ち合わせの内容は、

・イラストの使用目的は、STARBO(注:自動車のエンジンを離れた場所から、リモコンで始動させることのできる装置のこと。特に冬場の暖気運転や、夏場の高温になった車内をエアコンで事前に冷やすなどの場面で重宝する)の新機種の雑誌広告に用いること。

・リアルイラストレーションで制作する。

・後ろ向きの女性で、レザーの衣装やミニスカートなど、なるべく肌を露出した姿にする

・視野の前方に車が停めてあり、後ろ手に持ったリモコンの送信機からその車に信号を送っているイメージを描く。

・ただし、リモコンの送信機は、後で現物の写真を製版の過程で合成するので、描かないでおく。

・車はメタリックなイメージで描く。

・頭の先から足のつま先まで画面に描く必要はないこと。

・イラストの制作料金は250,000円であること。

・制作に要する時間は約2週間程度、打ち合わせで行き来する必要性も含めると、最大3週間を目安にすること。

等々を確認しあい、最終的に私自身の技量でイラストの作成は十分に可能であるという見通しを持ち、ここで正式の発注を受ける形となりました。
 そもそもは、知人からK氏に私のことが紹介された時点で、リアルイラストレーションで比較的低料金で引き受けられる人選という形で私の名前が挙がったものと考えられます。さもなければ、その当時、もっと有名なイラストレータに発注することもできたわけですが、その場合、作成料金がもっと高くなる懸念があるため、そこまで名前の知られていない私のようなイラストレータを、前述のような形でクリエーター仲間で紹介しあうというのはよく行われることです。
 実際にこの時の制作料金の250,000円という金額は、あまり奮発した金額ではないなという印象でした。K氏もその時に、予算があまりないからこの位で申し訳ないが‥‥という言い方をしたと記憶しています。また、雑誌広告に用いるといっても、どの雑誌のどの号にどれ位の期間掲載するかなどの明確な呈示はなかったので、高いのか安いのかの判断はできない状況でした。予算があまりないということははっきりと明言し、逆に使用の範囲を明確にしないのは、依頼する側のある種の都合のいい交渉術でもあるわけです。
 そして、下絵を制作した上で再度打ち合わせに来ることを約束して、その内容を持ち帰りました。

3、自宅にて下絵の制作を開始します。まずイメージを作り上げるための資料探しから始め、集めた資料を参考にB3サイズのトレーシングペーパーに下絵をまとめました。その期間、約2日間。他の依頼も同時進行の状態でありましたが、新しい依頼があった場合は、余程厳しいスケジュールでない限りまずその下絵をまとめることを最優先に行っています。下絵をまとめて、その下絵をもとにした打ち合わせの期日を電話で約束しました。これも、その翌日か翌々日であったと思います。

4、その翌日か翌々日、K氏の許へ出向き、出来上がった下絵をもとに打ち合わせを行いました。打ち合わせというより出来上がった下絵のひととおりの確認と、検討用にA3サイズに2枚に分けてコピーを取られた程度でした。検討の結果は後日連絡するということで帰宅しました。

5、その打合せの翌日か翌々日、K氏より検討の結果を電話で受けました。その下絵ではまだ十分ではないので、描き直す必要があること。また、参考になる資料を用意したので、打ち合わせおよび資料の受け渡しのため来訪するようにとの内容でした。打ち合わせの期日は、この時点である程度の日数が経過しているので、おそらくその翌日であったと思われますが、それを約束しました。

6、K氏の許へ再々度出向き、イメージを修正する打ち合わせを行うとともに、そのイメージに近い雑誌のページ(女性の肢体の写真)の拡大コピーを受け取り、持ち帰りました。

7、自宅にて下絵の描き直しを開始します。別の用紙に、女性の立ち姿を主に描き直しました。頭に中のイメージはほぼ固まっていたので、この時の作業は比較的速いものでした。1日で終えられる程度の作業です。そして、再度K氏の許に出向いて打ち合わせするのは、時間もかかり回りくどくもあるので、この時は下絵を描き直したその当日あるいは翌日の早い時間に、B3サイズの原紙をB4サイズに上半分、下半分と分けてコピーしたものをFAXで送ったように記憶しています。

8、下絵をFAXで送った当日か翌日、K氏より下絵OKの返事を電話で受けました。着色の作業に移ることを相互に確認し、おおまかな完成の期日を確認しあいました。こちらの立場としては10日程あれば大丈夫と答えておき、相手とすればその期日でOKであるが、なるべく早く欲しいという感じのやりとりでした。それ程差し迫った期日を要求された記憶はありません。

9、描き直した2枚目の下絵を決定稿として、着色作業に移行しました。作業時間は、1日8〜10時間で1週間弱、10日まではかからなかったように記憶しています。
 ほぼ完成となった状況で、夕方近い時間に、概ね完成したという電話をK氏にかけました。翌日、完成した作品を持っていく旨の約束をしました。なるべく早く欲しいというK氏の意向に沿うため、多少、見切り発車的な対応をしたものです。しかしながら、まだ100%完成しているわけではないので、フィニッシュ作業を急ぎました。

10、翌日、予想に反してまだ作業を少しばかり残していました。約束の時間に間に合うように、何とか残りの作業を終えました。しかしそのため、通常は完成した作品を写真に撮るようにしていたのですが、この時はその余裕がありませんでした。それと、写真撮影は作品が用済後返却された時でよいという考えもあって、撮影をしませんでした。
 そして、バタバタと荷物をまとめ、K氏の許へ出来上がった作品(本件イラスト)を持参し、手渡すこととなりました。当時、仕事で描いた作品をシリアルナンバーで管理していた記録によると、その日付けは、1993年10月2日です。
 特に問題点は指摘されず、後日、修正の要請もなかったのでこれが決定稿となりました。

11、その後、特に音沙汰もなく、問題なく雑誌広告への使用が進められているとの実感を持ちました。本件イラストの原画は、用済後しばらくの期間をおいて(3ヶ月〜6ヶ月)K氏の許へ回収に行くつもりでした。

12、ところが、本件イラストを入稿後、2ヶ月程経った時、別件の仕事をK氏より依頼を受けました。これについての詳述は省略しますが、これについての打ち合わせを行った際に、本件イラストについて「クライアントが絵を気に入ったと言っているから、原画を(クライアントに)譲って欲しい。」という主旨の要請がK氏よりありました。

13、結論を先に言いますと、結局このとき、渋々ながらその申し入れを承諾することになりましたが、しかし、譲ったと言うより戻ってこなかったというのが実際の状況でした。
 本件イラストを描き上げた時、当時の私の技量にしてみてもなかなかのいい出来映えだと思いました。多少不満に思う点はあったものの、年間でも1、2位に入るようないい作品でした。実際に、自分自身で本当にいい作品であると思えるものは、1年のうちで1〜2枚程しかありませんから、当然、手許に残しておきたいと思う作品になったわけです。
 だから、この話をK氏から聞いた時、困ったなと思いました。しかし、その時まっ先に考えたのは、知人の紹介でこの仕事をもらったという点でした。あまりこちらが我を通して、原画をどうしても返却するように要求することは、その知人の顔を潰すことになりはしないか?ということです。こういった問題に関しては、かなり気を使います。そして、原画が欲しいということはどういうことだろうと考えました。
 通常、広告関係で媒体の編集を行う際には、作品をポジフィルムに複製してそれをベースに作業を行うものです。原画はすでに、この段階で用済になったと言ってもいいくらいです。そして、複製したポジフィルムがあれば目的の企画はもちろん、その後新しい企画を立てて再利用することもできます。その場合、複製したポジフィルムだけがあればいいわけで、原画は必要ないのです。すると、原画を所望するということは印刷の目的のためではないということになり、残るはコレクションとして持っておきたいか、飾るなどして鑑賞したいという意味であると解釈されます。別の言い方をすると所有権と著作権の中の展示権を持ちたいということになります。
 おそらく、会社のロビーや応接室や社長室にでも飾られるのだろうと想像しましたが、そういう動機であるならば、まあやむを得ないか、そうしてくれるなら絵も喜ぶかもしれないと思い、私自身、所有しておきたいという希望をもっていたものの、その気持ちを抑えつつ最大限の厚意により、その原画を提供することに同意したのです。当然、展示権以外の著作権が私の許に残り続けることと、それが十分に尊重されることが大前提でした。

14、以上の通り、私の立場にしてみれば原画を譲った(返却されなかった)ことで、様々な場面で作品を展示する機会を失い、また画業を宣伝する材料として用いることができなくなり、別の一面として、不満の残る箇所に手を加えてより良い作品にする権利等を失ったまたは実質上行使できなくなったのですから、第一の信義則として、私に帰属するべき残りの著作権に関しては、同様に誠意をもって慎重に取り扱って欲しかったというのが偽らざる心境です。
 しかし、今回の一連の著作権侵害行為が発覚したことで、その期待はものの見事に裏切られてしまいました。そのような信義に反する不誠実な扱いを受けるのであれば、信頼をもって原画を譲り渡せる相手ではありません。

 

第3、侵害行為の発見についてのいきさつ

 それは、2001年9月15日のことでした。この時、本件イラストの制作当時独身だった私はすでに家族を持ち、山梨県に移り住んでいました。
 保有していた自家用車の走行距離が25,000Kmを越え、タイヤがかなり磨耗した状態になったので、近くにあるオートバックス韮崎店でタイヤを交換してもらうことにしました。作業に30分程を要するということで、その待ち時間の間、店内の様々なカー用品を見て廻ることにしました。日頃からあまり車に乗る機会の少なかった私は、カー用品専門店より、もっぱらホームセンターで日用品などと共に車の手入れ用品等を購入する程度でしたが、改めて専門店の品揃えの豊富さと量の多さに驚きました。様々なアイデアを凝らしたカーグッズや、最新の技術を投入して開発されたオーディオやカーナビ、オイルやエレメントやフィルターなど、車を運転する身ならばもう少しこういったものの知識も必要だななどと思いつつ眺めていたその時、店内の奥の一角に、そのものを発見したのです(甲第4号証2〜3頁)。
 それは、以前私が描いたイラストに非常に良く似た、というより、酷似したイラストをパッケージに用いた商品でした。商品は3種類、すなわち3種類のパッケージがあり、その一つを手に取ってその絵柄を子細に観察しました。一瞬、怒って頭に血が昇りかけたものの、私が描いたイラストとはどこか違う点があって、以前私が描いたイラストであると即断はできないため、冷静になってそれを詳細に検討する必要がありました。
 記憶を呼び起こしながら、自分の作品のイメージとそのパッケージの絵柄を比較しました。それと同時に、自分の描く技法やタッチ、色使いの特徴など、絵の個性が現れる部分を細かく観察しました。それらの行為はほんの数秒でしたが、見比べた結果は紛れもなく、私が以前描いたイラストであり、その商品はそのイラストを無断で流用した商品であると確信しました。そしてその商品の名は、忘れもしない、(株)サンヨーテクニカのSTARBOだったのです。
 なぜ私自身が描いたイラストであるのにそう即断できなかったかというと、3種類のパッケージのイラストは、それぞれ一部が色合いを変えてある、形は同じでも見た目は別の絵になっていたからです。後ろ姿の女性が描いてあるそのイラストは、確かに私が描いたイラストなのですが、パッケージのイラストはいずれも女性が着ているレザーのジャケットとミニスカートの色が、それぞれ、ピンク(商品型番RS‐1500)、緑(商品型番RS‐2500)、朱色に近い赤(商品型番RS‐3500)になっていました(甲第4号証2〜3頁)。よく見ると、他にもそれぞれ背景に描いてある自動車の色が違えてあるではありませんか。私の頭の中は、非常に混乱しました。なぜなら、私が描いたオリジナルのイラストは一枚きりであり、様々な色のバージョンがあるはずがないからです。
 あきらかに、著作権の侵害だと直感しました。
 なぜなら、確かにそのイラストは、そもそも、(株)サンヨーテクニカのSTARBOのために描いた作品ではありました。しかしながら、それを描いた当時(1993年)、イラストの使用目的は雑誌の広告用であるとして引き受けたものであり、商品のパッケージに使用することはもちろん、色違いの幾つかのバージョンを作るなどということは、一切聞いていなかったからです。
 勝手に使い回しをされた。それがこの事態を、最も端的に表す言葉でした。
 さらに店内では、それ以外に、必須の別売部品であるハーネス(注:自動車本体とSTARBOを接続する電線を束にしたもの、車種によって違った種類が必要になる)やアダプタのパッケージ、商品の値札、販売促進用の店内ディスプレイにもそれぞれ、本件イラストが使われているのが確認できました。
 そうこうしているうちにタイヤの交換が終わり、会計を済ませて店を後にしました。憤懣やるかたない気持ちと、一体全体なぜこのようなことが行われているのか真相を推し量ろうという気持ちと、これから自分はどう行動するべきなのか考えようとする心とで頭の中がいっぱいに溢れそうになる一方で、車の運転に集中しないとうっかり事故でも起こしかねないぞという気持ちが葛藤しながら、なんとか家に帰り着いたのでした。
 この日の発見は、ある意味大きな発見でしたが、ある一点をピンポイントで抑えたに過ぎない、単なる序の口でしかありませんでした。それは、もっと大きな広がりと、深い奥行きを持つものだったのです。

 

第4、その後の調査とK氏との交渉のいきさつ

 とにもかくにも、全貌はいったいどういうものなのか、調べる必要があると思いました。クレームをつけたり、問題解決のための交渉をしたり、場合によっては訴訟を考えるにしても、全体像を把握しなければ始まらないと思いました。
 まず、手許にあった分厚い法律関係の書籍を引っぱり出し、この侵害行為が著作財産権と著作人格権を侵すものであることをおぼろげながら確信しました。しかし、それだけではまだまだ十分ではありません。侵害の具体的な証拠をもっと探す必要がありましたが、現在進行中のものはともかく、過去に遡って行われているのであれば、それを調べるのはとても困難であろうと思いました。
 そこで私は、すでにかなり充実した状態にあったインターネットの世界で、それに関係する情報を探してみることにしました。私自身はすでに1997年よりパソコンを導入し、通常の電話回線を通じインターネットに接続しており、私自身のホームページを開設して運営しておりましたので、その行為は改まってするほどのことではありませんでした。とはいえ、通常の電話回線はスピードが遅く、また電話と兼用なので、深夜の時間帯に表示速度の遅い画面と格闘するようにして行う情報収集の作業は、別の意味で困難を極めるものがありました。
 しかしながらそこは、情報の宝の山のような場所でした。
 まず、(株)サンヨーテクニカそのものもホームページを探しましたが、その時点ではまだ開設されておらず、代わりに、 STARBOという商品名および具体的な商品型番でホームページの検索をしました。
 その結果、もっとも多くの情報が得られたのが、YAHOO!オークションのページでした。ここでは問題の商品が、個人間の売買として、あるいは販売業者がもう一つの販路として商品を出品しており、過去の古い機種も含め、STARBOシリーズのあらゆる機種がゴロゴロと転がっていたのです。それから、個人の愛好者が愛車のメンテナンスを紹介するために開設しているホームページや、業者がインターネット上に開いているオンラインショップなどでも情報を得ることができました。
 そこで得られた情報によれば、現行機種(2001年当時の)はRS‐1500、RS‐2500、RS‐3500の他にRS‐2000があること(甲第4号証2〜3頁)。現行機種のシリーズの中に、すでに廃番になったRS‐3000、CS‐7000があること。ロゴデザインの違うパッケージのRS‐2000があること。別売部品のハーネスやアダプタは少なくとも20〜30種類はあること(甲第4号証8〜23頁)。リーフレット形式のカタログ(注:リーフレットとは一枚の紙を二つ折り、三つ折りあるいは四つ折りなどで折りたたみ、簡単な小冊子のようにした印刷物のこと。ホチキスなどの綴じ目のないものを特にそう呼ぶ)が発行されていること(甲第4号証24頁)。そして特筆すべきは、現行機種以前にRS‐601、RS‐651、RS‐701が最初のシリーズとして発売されていたこと(甲第4号証1頁)を突き止めました。そしてRS‐601の発見により、混乱していた問題、すなわち、どれがオリジナルの色であったかを完全に思い出すことができたのです。それは、服の色がRS‐3500(甲第4号証3頁)、RS‐701(甲第4号証1頁)の朱色に近い赤、車の色がRS‐601(甲第4号証1頁)のシルバーメタリックであるということです。
 この時点で、色を変えたイラストのバリエーションは5種類に達していました。原画を描いた私自身でさえ、その本来の色合いがわからなくなる程に色を様々に変えられたことに、私は改めて大きなショックを感じずにはいられませんでした。私は大きく傷つきました。よくもまあ、人が心血注いで描いた作品を何の断りもなしにここまで勝手に作り変えるとは、ますますもって許し難い行為であるとしか言いようがありません。気持ちが空回りするくらいの強い怒りが私の中を駆け巡り、絶対に許さない絶対に泣き寝入りしないという強い決心が、ここで固まったのです。
 そしてさらには、インターネットでの調査と平行して、最寄りの図書館へ行きバックナンバーの自動車雑誌を調べたり、新刊の自動車雑誌を書店で調べて現行機種の広告を発見しました。また、親戚や友人に依頼し、同じく現行機種のリーフレット(カタログ)を手に入れるなどしました。時には、(株)サンヨーテクニカのサポートセンターに電話をかけ、それとなく最初のシリーズの発売時期を聞き出すなどのこともしました。そうこうしているうちに、(株)サンヨーテクニカのホームページ(現在のURLは、http://www.sanyotecnica.com/)が開設され、そこにも本件イラストが使われていることを発見しました(甲第12号証)。
 このとき、調査の途中で病気入院したこともあって、侵害行為のおよその全貌をつかむのに半年程かかりました。その結果は初めに予想したものより、はるかに規模の大きいものでした。1998年頃より2002年初頭まで足掛け5年間、パッケージや雑誌広告、リーフレット(カタログ)、販売促進物等、種類や点数にすると50点以上のものに使用され続けていることがわかったのです。販売台数も「2000年5月末日現在、出荷累計100万台以上」とリーフレット(カタログ)の下部に記載されています(検甲第9号証)。事実であれば、かなりの数量を売り上げたことになります。それから更に1年半以上経過しているので、実数はもっと多くなるでしょう。侵害の規模は、空前絶後のものであると実感するに至りました。

 そして、2002年3月15日、意を決して、さかのぼること9年前、私に本件イラストの制作を依頼した(株)G(通称Gデザイン)のK氏に事実関係を問い合わせる電話をしたのです。
 その時の電話の内容は、お互いずっと疎遠になっていたので、まずお久しぶりですというような挨拶からはじまり、本題に入る前に、(株)サンヨーテクニカと本件イラストであるSTARBOのイラストを思い出させる問いかけをしました。K氏は当然覚えていました。そして、前振りとして、(株)サンヨーテクニカと今も取引きがあるかという質問をしましたが、K氏はもう何年も前から取引きはしていない状態であり、その時、間に入っていた広告代理店と、まだ少しの付き合いがある程度だと答えを返しました。わたしはこの答えを聞いて、いくぶんほっとしたものです。なぜなら、彼が関係していたとすれば、このような事態になるとはとても思えなかったからです。
 そしていよいよ本題の質問をすることになります。STARBOのイラストがその時の話しと違うパッケージに使われ、販売促進のためリーフレット(カタログ)や雑誌広告その他に色の種類を変えてまで広く使い回しをされていると説明をし、そのことについて知っているかと質問したのです。彼はそれを聞いて特に驚く様子もなく淡々とした受け答えをしましたが、この一件が問題行為であることは認識した様子でした。そして間に入っていた広告代理店などとも連絡を取って、解決策を検討してみるというような返事をしてくれました。理想としてはその広告代理店のレベルで止めておいて、クライアントである(株)サンヨーテクニカには触れない形で解決できるのが望ましいとも言いました。まあどんな形にせよ、解決の糸口は彼にしかないので、ひとまずこの問題をゆだねるしかないと思いました。彼自身、自分の力でできる範囲で何とか努力してみますと答えてくれたのです。
 しかしながら、いかんせん、侵害の事実を電話で知らされただけではK氏もなんとも判断できないのではないかと思い、より具体的な事実を伝えるためにホームページとして構成したものを見てもらうよう、そのホームページアドレスを後ほど送ることを約束し、そのためのK氏のメールアドレスを教えてもらいました。
 そしてすぐさま、K氏のメールアドレスに、侵害の実情を一覧にまとめたホームページのアドレスをメールで送りました。
 K氏はその日のうちに返事(甲9号証)を送り返してくれ、『とんだことになってまして、大変申し訳なく思っております。』という題名のメールで、

『さて、問題のイラスト著作権および二次使用に関しまして早急に確認と後処理に関しまして動きます。ご迷惑をおかけしていること大変申し訳なく感じております。
私も、現在は株式会社サンヨーテクニカとは取引が無いとはいえ、アートディレクターとして監督不足だったと反省いたしております。
多くのクリエーターの発展、保護に常時、努力してきたつもりでしたが力の至らなさを痛感しております。
この件に関しまして、関係各社よりから謝罪文、使用に関するイラストフィー(注:イラスト料金のこと)など、できる範囲内で手を尽くすつもりです。
しばらく時間をいただきたいと思いますがよろしいでしょうか。』

という返答をしております。
 これによれば、一連の侵害行為が、彼自身、問題行為であるととらえ申し訳なく思っている点から、本件イラストの作成当時、イラストの著作権は私自身に帰属し、使用の許諾範囲も雑誌広告に使用する限りにおいてであったと理解していたことが見てとれます。同時に、彼自身取引きがなくなったため監督ができなくなり、それが要因の一つとなって起ってしまった事態であることもわかりました。
 このメールに対して、こちらもその日の深夜、日付けが変わった頃の時間ですが、

『結局のところは、サンヨーテクニカという会社と私との関係ということになると思いますので、直接の交渉も視野に入れた対応を考えておかなければならないと考えています。』
『解決に向けて力を貸していただけるお申し出、ありがとうございます。ただ、立場もあるでしょうから、あまり無理のない範囲で。』

という内容のメールを返信しました。
 そして、一週間ほど経った頃、東京へ出向く用事ができたので、その時にK氏の事務所へ寄って話を聞かせてもらおうと思い、その打診をする電話をしました。日時はもう少し先なので、直前になって改めて電話をするというようなやり取りをしたと思います。
 そして再び、明確な日時を約束する電話を、2002年3月27日にしております。約束の日時は、翌日、2002年3月28日の午後3時頃として電話を切りました。
 そして、2002年3月28日の当日、調べた限りの証拠の資料と、こちらの見解・要望等をまとめた書類を持ってK氏のデザイン事務所を訪れました。部屋の移動があったものの、その当時と変わらずその事務所はありました。
 久しぶりに面会してひとつ驚いたのは、原画をK氏自身が保管していると彼が思っていた点でした。探してみたが見つからなかったというふうに彼は言いましたが、それもそのはず、クライアントへ譲るよう、彼自身が私に要請してそうしたはずのことを、彼は忘れているようでした。原画を見ることは当然できませんので、ポジフィルムがないか尋ねました。もちろんありましたが、原画そのままで撮影したものと、原画に直接、STARBOのリモコン送信機の写真の切り抜きを張り付けて絵柄を完成させた状態で撮影したものの2種類がありました。それを見て、改めて自分が描いたイラストの正しい姿・全貌を確認することができたのです。朱色に近い赤色の服、シルバーメタリックの車で間違いありませんでした。
 そして、原画に直接、STARBOのリモコン送信機の写真の切り抜きを張り付けて絵柄を完成させた状態で撮影したものは、現行機種でもなく、現行機種以前のRS‐601、RS‐651、RS‐701でもなく、本件イラスト作成当時、目的の企画であった雑誌広告対象の機種、RS‐50であるということでした(甲第5号証2頁)。ちなみに、このRS‐50という機種の製品パッケージについては、本件イラストを使用していない、全く違った印象のものです。したがって、この機種の時点では雑誌広告に用いるという約束が、確かに守られていたということもわかりました。(なお、後の調査で判明したのですが、当初の目的の企画であった雑誌広告対象の機種は、実はRS‐50ではなく、もう一世代前のRS‐12であることがわかりました(甲第3号証)。かなりの年数を経ていたため、K氏自身も記憶が定かではなかったようです。)
 そして、こちらで調べた侵害の状況を説明し、見解や要望をしたためた書類を手渡しました。つまるところは、K氏が窓口として取り扱った件であるから、関わりを持っていないこととはいえ責任を感じることなので、自分が問題解決のために動いてみるとのこと。できる範囲で、解決の方向を探ってみますという答えをもらったのでした。それともう一つ、当時間に入っていた広告代理店は、(株)M 広告社であると知らされました。そしてこの代理店も、(株)サンヨーテクニカとは雑誌広告をほとんど儲け無しで請け負っている程度であると聞かされたと覚えています。
 そのようなやり取りをし、別の来客もあったので、1時間程でそこを引き上げました。
 翌日、重要な事柄を忘れていたので、それを要請するため公衆電話からK氏に電話をしました。それは、本件イラストを撮影したポジフィルムを貸して欲しいということでした。まだ東京にいたため、移動の途中の一番近い駅、渋谷から電話をして、時間が許すならこれから訪問して借り受けたいと申し出しましたが、その時は外出するか何かで都合が悪いとのことだったので、後日、デュープ(複製)したものを送りますという返事をもらいました。

 東京から自宅(山梨)へ戻り、しばらく日にちが空いた2002年4月13日、宅配便で本件イラストを撮影したポジフィルムのデュープが送られて来ました。包装の中には、12.5cm×10cmのデュープしたポジフィルム(検甲第1号証)が入っていましたが、それは、デザイン事務所を訪れた時に見たものよりもずいぶん小さいものでした。
 そしてその中には、当初の雑誌広告の制作時からの事実関係の流れと、この問題についてのK氏の考えをまとめた書類が同封されていました。
 それによると、当初この企画は、雑誌広告、リーフレットの作成のためであったことが書かれていました。なんと、リーフレットの作成も含まれていたとは、私はこの時初めて知りました。まあその位は容認するとしても、依頼した側としては、ますます安い原稿料で済んだということになります。
 当初の予定では、モデルを使っての写真撮影で行う考えであったこと。しかしながら、モデルやコストの関係で、(安上がりな)リアルイラストレーションで処理するいきさつになったことが書かれていました。
 当初の企画は一応完了する運びになるのですが、その後、同一機種のマイナーチェンジが行われた事により、服の色を赤から黒に変更して欲しいとの依頼を受けて、K氏自身が私に承諾を得ないままそれを行ったと述べ、それは自分のミスであったとも述べています。
 それ以降、クライアントである(株)サンヨーテクニカの当時の担当者は退職してしまい、K氏自身もデザイン制作物の取引きがなくなり、広告代理店も付き合い上、採算割れであるにも関わらず媒体(広告媒体)のみの取引きを続けているとも述べています。すなわち、当時の状況を知る者が次々と現場を離れ、誰も本件イラストの使用の管理や私の著作権に配慮する者がいなくなったことも、今回の侵害行為を生み出す土壌になったのではないかと想像されます。
 ここで一つ私が抱いた感想は、もしリアルイラストではなく初めの考えのとおりモデルで撮影した写真であったなら、はたしてここまで長い年月、幅広く多種類、多目的に用いられ続けたであろうかということでした。やや欲目もありますが、写真にはない魅力や可能性がリアルイラストレーションにはあり、それがゆえに、私のような表現技法や表現者が仕事としてそれを請け負う事ができるのです。永年使われ続けるということは、その作品がそれなりの利用価値があるという証でもあります。

 それともう一つの、この問題についてのK氏の考えの部分ですが、著作権については明言する事を避け、終止、目的という言葉を用い、その目的が著作権より優先するべきことであると説いています。そしてその目的は、『スターボに当てはめれば、サンヨーテクニカ社がスターボを開発し、消費者に向けて広く受け入れてもらう目的。』としています。なんとも幅が広くつかみ所のない表現ですが、ちょっとお待ちなさい、私は、「サンヨーテクニカ社がスターボを開発し、消費者に向けて広く受け入れてもらう目的のため、イラストを描いてください。」という依頼でイラストを描いたのではなくて、「スターボの(該当機種の)雑誌広告のため、イラストを描いてください。」という依頼を受けてイラストを描いたのです。
 K氏は続けて、『そこで、使用権や承諾無しでイラストレーションのバリエーション展開などに目がいくわけですが、イラストを依頼した時点では、現在の状況は想定していなかったのは事実ですし、想定もできませんでした。また、当時のコスト面の制約からイラストレーションフィーをタイトに捻出しなければなりませんでした。』とも述べています。これをわかりやすい別の表現にすると、イラストの使用目的は雑誌広告の他にはなかったし(実際にはリーフレットも含まれていた)、該当機種(RS‐12)の販売戦略の一貫で、広告費用として捻出できる予算の範囲の中から原稿料を出した。しかしその後、他にいろいろ使い道があることに気付き、承諾無しで別様々な目的のために使用した。ということになります。
 そのような認識を持ちながら、さらに続けて、『かといって、いまここまで広く使われている事に対して、新たにイラストレーションフィーを請求できるかと問われると、ビジネスの上では不可能だと思います。クライアントは最初のイニシャルで精算は終了し、スターボのみのクローズド使用で留めている訳ですから著作権の法的なことで追求しても、広告代理店以下の処理として返されるのが今日のビジネスだと思います。』としています。なかなか難解な言い回しですが、要約すると、当初の目的以外に使用したことについて、クライアントは追加の支払いはしないでしょう。なぜなら、クライアントは著作権の及ぶ問題ではなく、単なる物品の取引きだったと考えているからです。責任は広告代理店以下のレベルにあるとするのが、旧態依然とした今日のビジネスです。ということになるでしょう。
 そしてさらに続けて、『広告代理店と当社の事前承諾が無かった事が今回のことを招いたきっかけであるとすれば、二次使用料ということで当社が負担しなければいけないのが道義だと考えています。』と結んでいます。ここでもまた、著作権という法的なことよりも、道義が優先する論理のようです。K氏や広告代理店の関わりないところで行われた侵害行為であるならば、責任はあくまでクライアントの(株)サンヨーテクニカにあるはずで、そのような方法で解決しようとしても(株)サンヨーテクニカが自ら問題を認識しない限り、今後もずっと無断使用が続くことでしょう。それでは同じ事が繰り返されるだけで、なんの問題の解決にもなりません。K氏、クライアントそれぞれが、著作権についてこれ程までに無理解であることに、私自身、このとき、無力感を感じずにはいられませんでした。

 

第5、最終決断に至った経緯

 K氏を窓口として、話し合いでなんとか解決できるよう、また解決できると信じてその後も交渉を続ける事になりますが、そのための手段として、はっきりした形として残るようにメールでのやり取りを何度かしてみました。

2002年4月19日 こちらより1通送る。「質問事項と見解その1」
2002年6月11日 K氏より1通受け取る。その返答
2002年6月14日 こちらより2通送る。「見解その2 責任の所在」「見解その3
           裁判になったら」
2002年6月17日 こちらより1通送る。「見解その4 賠償額の推定」
2002年6月17日 K氏より1通受け取る。「見解拝見いたしました」

 これらのやりとりは、こちらから幾つかの質問をしてはっきりしない疑問に答えてもらうことと、この問題について認識を深めてもらうために、より具体的な見解を送ったものです。
 6月11日のK氏の返答をメール本文から抜粋しますと、

『返答事項にも書きましたが、私と広告代理店では村川さんの主張を尊重した上で、ク
ライアントとの取引も存続しなければなりません。その意味で今更ながらですが、パッ
ケージ使用料と言うことで二次使用料をお支払いしますと申し出ております。クライ
アントサイドにはその旨イラスト使用と言うことに対しての認識を持ってもらうよう
に努力はしますが、これについては様々なアプローチを模索しなければならないと思
います。』

とあるのですが、これは相変わらずクライアントの責任は置いたままにして、自分達が代りに責任を取りましょうと言う、筋違いの解決方法の提案です。
 もう一つの6月17日のメールからの抜粋では、

『私と広告代理店の考え方として、村川さんにしてもサンヨーテクニカサイドにしても
そこまでイラストに思い入れがあるのであれば、双方の発展のために良いパートナー
シップをこの機会に結んでくれればよいかと考えています。そういった手段のもとで
あれば、私どもも動きが取りやすく条件的な面でも双方の要求の折り合いを付けやす
いのではないかと考えていたわけですが。
あくまでクリエイティブ・ステイタスの認識を高めるという目的のもとで理解を得る
ということは、村川さんが言うとおりお金の問題ではないはずです。クライアントと
サポート側が共通認識を持ち、理解を深めた上で目的を成し遂げるというパートナー
シップの良い関係を築くのが目標だと思うのですが。違うでしょうか。
場合によっては使用料が支払われないケースもあるかも知れません。ただ、それなり
の認識をクライアントに持ってもらうということが第一だと理解してますが。』

とあり、幾分こちらの考えに歩み寄る姿勢を見せているように思えました。しかし、これはあくまでK氏の考えであって、クライアントである(株)サンヨーテクニカがどう言うかは全く未知数です。話し合いで解決できそうな幾分かの前進のようにも思えましたので、次にどういう返事を返そうか、重要なポイントになりそうだったので、なかなか考えをまとめられずにいました。
 ところがこの2002年、私は居住する地域で重要な役割を担う事になり、そのために多くの時間を割かなければならない状態にありました。それに加え、ちょうどこの時期、本業以外に、幾つかの仕事を副業として掛け持ちでやらなければならない事態となり、公私共に超多忙の状態に陥ってしまったのです。自分自身の日常的なことや、家族に対してもしわ寄せが出て来るようになり、忙しさに押し流されるまま、この問題の解決に振り向ける時間をほとんどなくしていました。何の進展もないまま、ずるずると時間が経つことにいら立ちを感じながら、事態を静閑するしかない状況でした。

 そのような膠着状態の中、半年程経った2002年11月の下旬頃、侵害行為を受けたまま、まだ癒されない傷口に塩を塗るような憤激すべき事態が起きたのです。
 それは、STARBOの新しい機種の発売でした。
 私はこの時期、パソコンインストラクターを兼業でやっていましたが、いつもの帰り道とは違う帰路にあるイエローハット韮崎店へ、その時点での商品の陳列状況を確認するために立ち寄りました。店内には、それまでの機種RS‐1500〜RS‐3500のシリーズと、新しい機種のRS‐160i、RS‐210i、RS‐360iが一緒に並べてありました。そして、新しい機種のパッケージにも問題のイラストが凝りもせず使われていたのです(甲第4号証4〜5頁)。またやられた、そう思いました。しかし、商品を手に取ってつぶさに見てみると、少し様子が違う事に気が付きました。
 新しい機種のパッケージに使われている問題のイラストは、遠目に見ると同じように見えるのですが、近くで見ると細かな部分があちらこちら違っているのです。しかしながら、前のシリーズに使われていた本件イラストのベースはそのまま受け継がれていました。誰かが描き変えて、とりあえず別の作品にしたものです。それは、「盗作」そして「改作」と呼ぶべきものでした。おそらく、本件イラストをパソコンに取り込み、写真修正ソフトなどで上からなぞって修正して描いたものでしょう。随所にその特徴が現れています。手書きで描いた繊細さは、そのイラストにはありませんでした。当然のことながら、原作品とは随分見劣りする出来映えでしかありませんでした。
 なぜそのような出来の悪いイラストに描き換えてまで、このようなことをするのか? 行き着いた結論は一つでした。それは、原作品である本件イラストのベースはそのまま使い続けたいものの、著作権侵害を主張されては厄介なので、そのベースを継承しつつとりあえず別の作品に描き変え、それで著作権侵害の主張をはぐらかそうという考えのもと、行われたのではないか?ということです。
 私は、怒りを通り越してあきれるより他にありませんでした。解決する方向に向かうかに思えた事態が、解決するどころか180度違う方向へ向かってしまったのです。推察するところ、K氏に対して交渉を行った経緯が何らかの形で(株)サンヨーテクニカに伝わり、やっと問題意識を持つに至ったのでしょう。しかしその問題解決の方法として、まず私に対して謝罪するとか、補償をするとか、何らかの是正措置を取るとかするべきところを、著作権侵害を指摘する鉾先をかわして我が身を守る事にのみ傾注し、そのようなことをしたのではないかと思えました。なんという事でしょうか。全く違う絵柄にするのであればともかく、ずっと本件イラストを使い続けることによって確立して来たイメージを捨て去ることができず、本件イラストに、見た目がほとんど変わらない程度の修正を施した改作イラストを用意することで問題を回避できると考えたのであれば、まさに姑息で卑劣な行為であるとしか言いようがありません。
 なぜなら、その描き変えた改作イラストは、どう考えても原作品である本件イラストに依拠して描かれたものであると考えざるをえませんでした。車は別の車種に置き換わっているものの、本件イラストのメインである女性は細部のタッチが違っているだけで、ポーズや身体の動きは原作品そのままだからです。そもそも、あれだけ幅広く長く利用されて流布された本件イラストの存在があって、しかも同じクライアントの監督のもと、本件イラストに全く依拠しないでこのイラストを描いたということなどあり得ないことです。
 これは本件イラストを無断で流用するより、もっと悪質な著作権侵害行為です。(株)サンヨーテクニカがこのように、さらに著作権侵害行為の上塗りをする会社であるのならば、K氏を通じて話し合いをするような手ぬるいやり方では、問題の解決などありえないと悟りました。

 こうした新たな事態も加わる中、他方で、多忙を極める状態は相変わらず続き、問題解決への新たな道筋を模索しなくてはならなくなりました。その間にも時間はどんどん過ぎて行きます。専門家すなわち弁護士に依頼して、問題解決のための助力を仰ぐしかないという結論に達しましたが、一口に弁護士に依頼するといっても、最終的には訴訟に行き着く道筋でもあり、そう簡単に進められる問題ではありません。誰にどう依頼したらいいかもわかりません。費用の問題、手続きや様々な実作業、公判を維持するために強いられる幾多の労力、それらを考えると一個人の小さな存在では、なかなかたやすく決心できるものではありません。
 時間だけが過ぎて行く中で、平行してインターネットで著作権問題を調べて行くうち、著作権問題を専門に扱っておられる柳原弁護士の存在を知り、依頼するならこの人しかいないと思うようになり、2003年8月27日、意を決して、長文の相談メールを送ったのでした。
 氏はそれに対し、快く相談に乗ってくれて、依頼を引き受けてもらうこととなりました。
 そして、柳原弁護士の指導のもと、2003年9月30日に(株)サンヨーテクニカ代表取締役沖島清氏に対して、私本人から著作権侵害行為の解決を求める通告書を内容証明郵便として送りました(甲第10号証)。が、それに対する返答は何もありませんでした。
 そして今一度、今度は柳原弁護士名より最後通告として、2003年10月27日に同社同人宛に、もう一通の通告書を内容証明郵便として送っていただきました(甲第11号証)。これに対しても、同社同人は何も返答することはありませんでした。
 こうして、誠意と寛容をもって何とか話し合いで問題を解決しようという、こちらの度重なる呼び掛けもことごとく無視され、かくなる上は訴訟を起こすしかないという最終段階に到達し、今日に至ったわけです。

 

 そしてさらに、最後通告を送っていただいた翌日、2003年10日28日、またさらに新たな機種が発売されたことを知ることになるのです。
 (株)サンヨーテクニカのホームページを開いて知り得たことですが、RS‐170i、RS‐220i、RS‐271i、RS‐370iの4機種を新しい機種として発売したことがわかりました。当然のように、これらにも問題のイラストが堂々と相も変わらず使われております(甲第4号証6〜7頁、26頁)。現時点では、店頭でもインターネットのオンラインショッピングでも幅広く販売されています。
 (株)サンヨーテクニカはいったいどこまで、このようなことを続けるつもりでしょう。どこまでも果てしなく続く終わりそうもない迷宮路を、そろそろこの辺で終わらせなければいけないと、切に願ってやまない気持ちでいっぱいです。

 

第6、侵害行為の詳細な分析

 本件は、単に本件イラストの使用許諾範囲を越えた無断流用であるだけでなく、

(1)、本件イラストを著作者である私に断りなく色を改変し、幾種類ものバリエーションを発生させて利用したこと(色の改変)、また、

(2)、おそらくはパソコンのデジタル編集技術により、本件イラストに依拠して本件イラストの「盗作」と「改悪」したイラストを描き起こし、これも幾種類ものバリエーションを発生させて利用したこと(形質の改変)

など、複雑な要因を含んでいます。

1、色の改変

本件イラストが、そのオリジナルの色のまま無断で流用されている対象物は、実は一つもありません。

(1)、まず、その内容の紹介をすると、甲第4号証のパッケージ・リーフレット一覧表の1〜3頁、24頁及び甲第5号証の雑誌一覧表の2〜7頁にある通り、本件イラストの色を変えて使用しています。これらはすべて、単なるデッドコピーではなく、原作品の形質を残したまま、法や倫理をわきまえない者がDNA操作で少しずつ特徴(色相)を変えて造った、クローンイラストとでも呼ぶべきイレギュラーな存在なのです。

(2)、この使われ方の意味するもの――キャラクター的な利用――

 では、なぜ、このようなことが行われたのでしょうか?
 それは、バリエーション展開の魅力にクライアントが誘惑されたからに外なりません。形や構図を一切変えずに色のみを変化させれば、一つ一つの差別化を計りながら、それら全体を一つのイメージに統一することができます。初めは一機種であったSTARBOも、いつしか消費者の多様なニーズに応えるため、シリーズ展開する必要が生じたのでしょう。RS‐601、RS‐651、RS‐701のように(甲第4号証1頁)、商品のグレードによる差別化の目的において、イラストのバリエーション展開は非常にマッチする有効な手段だったに違いありません。それに加えて、ハーネスやアダプタなどの別売部品にも同じイラストを用いれば(甲第4号証8〜23頁)、他の商品群とは明確に一線を画する、わかりやすい商品グループを形成することができます。その意味では、非常に有効で成功した販売戦略であったと言えるでしょう。それ以降に発売された新しいシリーズの機種に引き続き利用し続けたことは、さらにSTARBOシリーズのイメージを確立するという大きな利益をもたらしたに違いありません。つまり、本件イラストは、(株)サンヨーテクニカのSTARBOシリーズのイメージを決定づけるキャラクタ−として機能したと言っても過言ではないと思います。

(3)、色の改変のやり方

 どのようにして、これが行われたのでしょうか?
 まず、原作画者である私以外の誰かが、色の変化の数だけ手描きで描いて作品を新たに用意した可能性が考えられます。しかし、たとえ熟練した誰かが描くとしても、別の誰かが手描きで同じタッチを出すのはまず不可能です。数量に比例して作業量も膨大なものになります。それは、原作画者でさえ大変難しいことであり、熟練した技能を要します。また仮に、そのような卓越した技能を持つイラストレーターがいたとしても、そのような他人の著作権を侵すような仕事の依頼を引き受けるはずがありません。ゆえに、手描きで描いて新たな作品を用意したとは思えません。
 では、どのような方法でそれを実現するのか? 考えられる方法は2通りあります。
 一つは、印刷の製版時に色指定をすることによってその部分だけ色を置き変える方法。
 もう一つは、パソコンのデジタル編集技術によって、その部分だけ色を変更する方法。
 本件イラストを制作した当時は、前者の方法が主流だったでしょう。しかしその後、印刷物編集のデジタル化が急速に進み、RS‐601、RS‐651、RS‐701が発売された1998年当時、その技術はかなり末端のクリエーターにまで浸透するような勢いでした。私自身、1997年にパソコンを導入し、その時すでにそのような編集環境を手に入れていました。いわんや、デザイン関係の職種であれば、もはや必須といえる程に広く普及していたと思われます。そのような時代背景と合わせて考えると、本件イラストの色を変更して様々な印刷物に利用できるようにした方法は、パソコンのデジタル編集技術によると考えるのが合理的です。
 特に、RS‐651の絵柄(甲第4号証1頁)はRS‐2000へ(甲第4号証2頁)、RS‐701の絵柄(甲第4号証1頁)はRS‐3500、RS‐3000へ(甲第4号証3頁)2年あまりの時間の隔たりを越えて用いられており、また、RS‐1500(甲第4号証2頁)、CS‐7000(甲第4号証3頁)、ハーネスやアダプタのパッケージ(甲第4号証8〜23頁)など、同じ図柄が同時に幾つかの種類に用いられてもおり、さらに、リーフレット(カタログ)や雑誌広告、商品値札等、同時に複数の目的に用いられてもいます。さらにRS‐3500(RS‐701)の画像はホームページにも用いられていました(甲第12号証)。
 このように、複数の編集物をなおかつ時間の隔たりをおいて色合い等を同じ仕上がりに確保したい場合は、本件イラスト原作品の図柄からその都度ひとつひとつ、それぞれの編集物の上で色変更するという方法もありますが、そのやり方では、作業効率も悪く仕上がりを同一にすることは難しいでしょう。
 そうではなく、本件イラストの原作品をパソコンに取り込み、色を変更する処理をしてデジタルデータとして保存しておき、それぞれの編集物の編集作業の都度それを利用するようにすれば、非常に作業の効率が良くなり、また仕上がりの安定性も確保できます。方法論としては、こちらの方が合理的で自然です。つまり、それぞれの色ごとにデジタル画像として固定した形にしておいて、それらがすぐに再利用しやすいように、それぞれの色の数だけの画像が保存してあるだろうということです。これは、単一の画像として固定してあっても、商品ロゴや商品説明などの文字を組み込んだ、完成したデザインの一部(通常レイヤーなどと呼ばれる)として固定してあっても、同様に再利用することができます。
 すなわちこれがどういう意味を持つかというと、原作品を踏み台にした形で生み出された、それぞれの色のバリエーションのデジタルイラストが、パソコン上の記憶装置や着脱式の記憶媒体上に、改変作品として存在すると考えられるということです。そしてそれは、原作品の印象を大きく変える改変行為であり、著作者人格権を侵害する行為であるとともに、原作品の画像を隅々まで無断で拝借する「盗用」とも呼べる行為なのです。

(4)、色の改変作業の容易さ

 このような、原作品を土台にして、パソコンで様々な色のバリエーションの改変作品を生み出す作業は、比較的簡単に実現することができます。
 それには、画像編集ソフトや写真レタッチソフトと呼ばれるソフトウェア(代表的なものには、アドビ社のフォトショップ)を使います。
 例えばフォトショップで、同様の作業を行う場合の簡単な手順の説明をしてみます。すでに原作品は、パソコンに取り込まれているものとします。

 まず、このソフトウェアで土台になる原作品の画像を開きます。編集可能な状態にして画面に表示するということです。そして、選択ツールという機能で、色を変えたい部分だけをうまく選択して取り囲みます。例えば、女性の着ているレザージャケットの上着とミニスカートです。選択して取り囲むと、その範囲が点線で示されます。すると、通常はその内側が編集対象の領域となり、外側の部分はそのまま変更しないでおくよう、一線を画することができるのです。
 その状態で今度は、色調補正機能の色相・彩度を呼び出します。すると、色相・彩度とタイトルされた四角い枠が現れ、その中に色相:、彩度:、明度:と表示された、スライダ(調整のつまみ)が現れます。この中では特に、色相:が色を変えるのに最も大きな役割を果たします。そして、この色相:のスライダにある三角形の印(つまみ)を左または右に動かすと、点線で囲んだ部分の色が劇的に変わるのです。元の色が赤色であるならば、

   水色←青←紫←ピンク← 赤 →オレンジ色→黄色→緑→水色

という具合にです。とても簡単な操作です。
 車の色は元がシルバーメタリックで白っぽい色なので、もう少し違った手順を要しますが、基本は同じです。実際には、もう少し微妙な調整や修正が必要になります。
 そして思い通りの色合いを出すことができたら、最後に別の画像として保存します。すると、元になった原作品の画像はそのまま残り、色を変えた新たな画像が出来上がります。あとはその繰り返しです。
 私自身がこの作業を行ったとして、5種類の色のバリエーションの処理を終わらせるのに、おそらく1日あれば十分でしょう。なんと簡単なことでしょうか。何度も足を運んで打ち合わせをし、資料探しから下絵作り、下絵の描き直しを経て着色作業も含めて、2週間前後もかけて描いた作品を、このように安直に「盗用」するようなやり方で幾つも作られては、元の作品を描く人間はたまったものではありません。デザインの作業としては簡単な作業かもしれませんが、だからといって安易にやるべき作業ではないと思います。本来ならば、原作画者であり著作権者である私が改めて依頼を受けて、その正しい筋道の中でやるべき作業のはずです。このようなルールをわきまえない無法なやり方は、断じて許すことはできません。

(5)、色の改変作品に対する評価

 のみならず、私自身の意志が全く反映されずに出来上がっている幾多の侵害行為の改変物は、もし私自身が作業を行っていれば、このようにはしなかったと言うべき出来上がりになっています。例えば、RS‐601の図柄の場合(甲第4号証1頁同5号証6頁)、服の上下の色(黄色)を全体的に明るくし過ぎて、服のしわや服に落ちる手などの影が弱くなり、絵の力強さを失っています。また、RS‐651(RS‐2000)(甲第4号証1頁)とRS‐701(RS‐3500)(甲第4号証1頁)は、服の色合いが同系色の近い色で、ぱっと見た感じでの区別がつきにくいなど、問題点が少なからずあります。いずれも私の画業の実績や、私の著作者としての人格を傷つけるものでしかありません。
 それに加え、これだけ広く長く流布された作品でありながら、私自身の作品であると公表する機会を奪われたという、無形の損失を被ってもおります(氏名表示権の侵害)。かといって、これらの作品を正面きって私の作品であると公表するのも、改変の出来栄えが、私自身納得していない使われ方であり、また問題の残る仕上がりであるためにためらわざるを得ないという、愛憎相反する側面も生じてしまいました。これだけの大々的な使用をしかも色を意図的に変えるという手順を含みながら、私という存在を全く無視して行ったという行為は、著作権が著作者の死後50年間まで存続するということを考えれば、私という人間を死人以下の扱いにする行為であると言う外ありません。

2、形質の改変

 またもう一つの改変作品、つまり、おそらくはパソコンのデジタル編集技術により、本件イラストに依拠して本件イラストの「盗作」と「改悪」したイラストを描き起こし、これも幾種類ものバリエーションを発生させて利用したこと(形質の改変)、具体機種名をあげると、RS‐160i、RS‐210i、RS‐360i、EG‐100(甲第4号証4〜5頁)、加えて最新機種のRS‐170i、RS‐220i、RS‐271i、RS‐370i(甲第4号証6〜7頁)のパッケージ等に用いている点について分析します。

 これについては先に述べましたとおり、原作品のイメージをそのまま受け継ぐよう、誰かが描き変えて、別の作品にした「盗作」と呼ぶべきものですが、しかもその出来栄えたるや、原作品の繊細で存在感のある仕上がりとは随分見劣りする、杜撰な「改悪」作品といわざるをえません。
 商品パッケージやリーフレット、雑誌広告等への使用の実態を見ると、後ろ向きの女性の部分と背景の車の部分は一体になったものではないという印象を持ちます。
 それは、商品パッケージの方では車が女性の膝付近の高さに配置してあり、リーフレット表紙では女性の部分が単独で使用され、リーフレット内面では車が女性のミニスカートの裾付近の高さに配置され、また雑誌広告ではリーフレット内面の配置にほぼ近いものの、車のヘッドライトの片方が女性の足に隠れてしまっているという微妙な差異があります。これらのことから、女性の部分と車の部分は、その都度適当な位置に配置され組み合わされていると考えられ、車の部分は車だけ、女性の部分は女性だけという形で画像が作られているものと思われます。車はかなり遠近感が強調され、女性を眺める視点とはうまく一致しない違和感を感じます。車は全体的な視点から作画されているようには思えず、後からすげ替えたという印象を強く持ちます。おそらく、別のイラストあるいは写真から取り出されたものでしょう。
 車単独は別として、二つを組み合わせて作られた図柄のイラストも、また女性の後ろ姿単独の図柄のものも、結論から言うと、本件イラストに依拠して作られた改変作品という以外にありません。

(1)、本件イラストに依拠した点

 二つを組み合わせて作られた図柄のイラストは、車が違う車種である以外は構図がまったく一緒に描かれています。また、女性の後ろ姿単独の図柄をとって見ても、髪の毛を頭頂部まで描いている追加の部分はあるものの、その他のポーズや細かな仕草、衣装デザインなど、原作品である本件イラストそのままなのです。
 このことは、問題の女性の後ろ姿単独の図柄を、縮尺を合わせた原作品と重ね合わせてみると、よりいっそうはっきりします。それを実行したのが本件イラストを撮影したポジフィルムのデュープ(複製)を雑誌広告の絵に縮尺を合わせて作成した透明フィルム(甲第6号証)です。これと、たとえばAV(アクティブ・ビークル)2003年2月号の雑誌広告の絵(検甲第8号証)と重ね合わせてみると、右脚を軸にして開いた脚の角度や傾き。上半身のひねり方。右手を後ろに回した位置と、その指の組み方。ミニスカートの丈や上着の丈。短い上着のとミニスカートの間からのぞく、女性のウエストの部分。上着やミニスカートや袖から、女性の身体の各部位に落ちる影、脚の間から見える向う側のスカートの構造や、上着の右袖の開いた構造、右袖のボタンなどなど、ほとんどの箇所で一致します。
 とりわけ、脚の部分の微妙なラインは、太腿から膝を経てふくらはぎ部に至る流麗で絶妙な線で描かなくてはなりませんし、また、ピッタリしたミニスカートが太腿に微妙に食い込んで大腿部をわずかに窪ませている表現など、いずれも、本件イラストを土台にしたとしか考えられない一致を見せています。

(2)、本件イラストを改変(改悪)した点

 また、このRS‐160i〜EG‐100、RS‐170i〜RS‐370iに用いられている「改悪」したイラスト(甲第5号証8頁同4号証4〜7頁)は、その作画力の点からも、様々な矛盾した問題点を見い出すことができます。例えば、

(a)、まず、女性の後ろに回した右腕について、(本来なら上腕のほうが前腕より太い筈なのに)上腕のほうが前腕より細く描かれ、腕の長さも長過ぎ、素人目にも極めて奇異に感じます。

(b)、また、この右腕の袖の部分について、本来はもっと複雑なしわができるはずなのですが、ここではごく簡単な筒状に処理してあるだけです。

(c)、或いは、リモコンを持つ手も、全体的に肉付きが扁平で、親指が細くて、特に人指し指が異様に長い(指の一関節分くらい長い)バランスの悪い漫画のような表現がされています。

(d)、さらに、両肩の線も曖昧にぼかしてあり、本件イラストとそっくりなヒップラインや脚のラインの仕上がりに比べてみると、ここは美しさやバランスを欠くものと言わざるを得ません。

(e)、また、髪の毛はウェーブの表現が何とも不自然な幾何学的表現がされており、これなどは作画力には関係ない、パソコンの画像処理機能(前述のフォトショップの波形フィルタ機能など)を用いているだけのものだと推測されます。

(f)、服のしわも、画像編集ソフトを用いた際の限界を感じさせるものであり、不十分な仕上がりと言わざるを得ないものです。

 そもそも、人体構造の上にまとわりつく衣服のしわなどは、その人体構造の理解なしには簡単には描けないものでして、ここで指摘したもろもろの特徴は、人物を描く上で特に重要となる人体の骨格や筋肉の付き方などの人体構造が十分に理解できていないまま描いていることの証拠であります。

(3)、結論

 このような状況から考えると、この「改悪」されたイラストは、本件イラストを土台にして画像編集ソフトで上から色を塗り替えながら、多少の輪郭を削って調整する程度の作業によって作られた「改悪」作品と結論せざるを得ないのです。

 

第7、著作権使用料相当額について

1、本件においては当初より、STARBOシリーズのパッケージへの本件イラストの無断使用・改変使用を問題にしております。その後の調査により、パッケージへの使用が始まるまでの空白と思われた時期(1995年〜1997年)にも、雑誌広告への無断使用・改変使用がされていることを新たに発見しました。これに該当する機種、RS‐50、RS‐60については、全体の規模からすると非常に小さい割合であることもあって、この場に改めて引きずり出して損害の算定に加えることはやめておこうと思います。

 したがって、STARBOシリーズのこれまでのパッケージについては、以下のように分類して、その著作権使用料相当額を検討したいと思います。

(1)、RS‐12の雑誌広告(甲第5号証1頁
 本来の著作権使用許諾範囲(知らされずにリーフレットにも使用されたようですが、証拠未発見でもありこれは容認します)

(2)、RS‐50、RS‐60の雑誌広告(甲第5号証2〜3頁
 保留(リーフレットにも使用された可能性あり)

(3)、RS‐601〜RS‐701以降のパッケージ・雑誌広告その他(甲第4号証1頁以下同5号証4頁以下
 無断使用・改変使用として、損害の算定を検討。

 

2、当初の使用目的である、RS‐12の雑誌広告(リーフレット含む)への使用がそもそもの使用許諾範囲であり、作成料金250,000円がその対価として、デザイン事務所(株)G のK氏より支払われております。クライアントである(株)サンヨーテクニカにはその金額そのままではなく、デザイン事務所から広告代理店を経由する過程においてイラスト作成管理等の意味合いで、それにいくらか上乗せした金額がイラスト作成料金として請求されていると思われます。したがって、(株)サンヨーテクニカはもう少し多い金額をこのイラストに支払ったことでしょう。上乗せ額がどれくらいかは想像の域を出ませんが、それは大した問題ではありません。ある意味納得ずくのことでもあり、そのようなことは通常よく行われていることでもあります。
 問題なのは、もし本件イラストを作成する際に、その時の当面の目的機種であるRS‐12以外にも使用目的があると知らされたなら、こちらの立場として、作成料金250,000円という金額では低すぎるという点であり、また、その追加の使用目的を明確にするよう求めたであろうという点であり、そして、その追加の使用目的すなわち、将来の本件イラストの使用の計画を、その時点で明確に示すことなど誰にも出来なかったであろうという点であります。
 ここまで大々的に使用することになるとは、当時誰の頭にも思い浮かばなかった事でしょう。直接の当事者であるデザイナーのK氏が、私に対して宛てた弁明の書類に、いみじくもそう書いてあるとおりです。したがって、この時点において、将来に渡る本件イラストの正当といえる著作権使用料を算定する事は、全く不可能であったと言わざるをえません。もし仮に、当初の250,000円をもって、将来に渡る本件イラストの著作権使用料であると被告が言うのであれば、それは、使用目的について最低限の過小な申告をし、私をだまして本件イラストの使用権を不当に奪おうとする詐欺的行為でしかありません。
 すなわち、ここまで大々的に使用することになるとは誰も考えていなかったというのが、全体の一致する考えであると思われます。したがって、新しい使用目的が出て来た時には、その都度、その分についての著作権使用料を計上するのがもっとも正鵠を得たやり方であったわけです。通常はそういうやり方をするのが普通なのです。
 ところが、被告の(株)サンヨーテクニカはその果たすべき責務を果たさず、新機種発売の度ごとに、繰り返し本件イラストを無断使用・改変使用をし、本件イラストがSTARBOというシリーズのイメージ確立にどれほど貢献しようが、STARBOという製品の製造販売にどれほど役立とうが一顧だにすることなく、己の利益追求の目的のためにのみ、ありとあらゆる場面で本件イラストを利用してきました。
 本件においては、他の著作権侵害事件にみられるように、単一商品、単一年度(多くても数種類の商品で2〜3年度)という小規模の侵害事件ではなく、商品種類にしておよそ百種類、10年間にも渡るイメージ戦略として雑誌広告やリーフレット(カタログ)等に使い続けてきたこと、商品単価も数万円(RS‐651は定価が58,000円)もするものであることなど、極めて大規模でなおかつ複雑な要素がからみ合い、その正当な著作権使用料を算定するのは非常に困難な作業になります。
 全体で一括していくらになるというような考え方は、採用するにはとても無理があります。侵害者の立場からすると、なるべく安く上げるためそういう考えを採りたいところでしょうが、事ここに至っては、衆目にも納得してもらえる合理的で根拠のある数字を、一声いくらで出すことなどできようはずもありません。
 本件の場合は、当初のRS‐12のための広告に1994年頃にまっとうに用いた(甲第5号証1頁)ものの、1995年頃よりRS‐50、RS‐60のための広告として無断使用・改変使用を数年間行い(甲第5号証2〜3頁)、RS‐601〜RS‐701の商品パッケージに使用を始めた(甲第4号証1頁)1998年頃には、すでに本件イラストが、STARBOの商品識別をするための有効なビジュアル要素、すなわちキャラクター的な性質を持つに至っていたというべきでしょう。
 そのようにキャラクター的な使われ方をするのであれば、本件イラストの著作権使用料を算定する考え方としては、単なるイラスト使用としてではなく、キャラクター的な利用に対する料金として通常行われている、売り上げに対するロイヤリティ計算をするのが最も合理的な算出の方法であると思われます。この場合、一般的には、該当商品の売り上げに対して数パーセントとする例が多いようですが(販売額に対して一定の使用料率を掛けるという計算をするので、この方式を【定率制】と呼ぶことにします)、この方式ならば、売り上げが伸びればそれに比例して著作権使用料も増えるので、一括いくらとするような考えよりは、ずっとフェアで公正な考え方でもあります。
 しかしながら本件の場合は、侵害者である(株)サンヨーテクニカが、その侵害の実態、すなわち、本件イラストを、いつの時期どの商品、どの雑誌、どの印刷物に、どれぐらいの数量・回数、どれぐらい出荷して、どれぐらい売り上げたかということを明らかにしなければ、正確な計算をすることはできません。
 とはいっても、ある程度の目安になる数字を出すことが必要であると思いますので、私が調査した範囲のデーターで算出を試みることにします。

 

3、【定率制】による計算

 この方式で考える際、雑誌広告やリーフレット(カタログ)等の販売促進物に本件イラストを用いる行為は、間接的に該当商品の売り上げにつながるものと考え、パッケージに使用した商品の売り上げの中に含まれるものとし、これらの分を計算上は著作権使用料に含めることはしないでおくことにします。したがって、どの商品がどれだけ売れたかを把握すれば良いことになります。
 しかしながら、被害者すなわち私の側から、どの商品がどれだけ売れたかなど明らかにすることは不可能ですので、ある程度の推定を交えながらその辺の数字を出してみることにします。

 まず根拠になるのは、

(1)、RS‐1500〜RS‐3500シリーズのリーフレット(カタログ)の表紙の下部に、“※2000年5月末日現在出荷累計100万台以上(当社調べ)”とはっきり書いてあり(検甲第9号証)、

(2)、RS‐160i〜RS‐370iシリーズでは、リーフレット(カタログ)の表紙(検甲第10号証)のほか、商品パッケージそのものにも“累計100万台突破”と表示してある(検甲第4号証)、

この100万台という数字です。自ら謳っている以上は非常に有力な根拠になるので、この数字の信憑性は疑わないことにします。現段階は、この2000年5月末日以降さらに年数が経過しているので、もう少し売上が伸びて120万台であると推定します。
 もっとも、RS‐601〜RS‐701以前の、本件イラストをパッケージに使用していない機種や、さらにそれ以前のリモコンスターター機能を持たない機種もSTARBOという名前を冠しているという事実もあり、それらは対象から除外すべきであると考えられるので、そこで、侵害行為によって売り出された機種の総数は、ごく控え目に見積もって、その半数と推定します。従って、その数は60万台となります。
 そして、その総数をシリーズ毎に適切な割合で按分します。シリーズ毎の機種の種類の数や発売していた年数などが、それを判断する要素となります。
 そして、シリーズ毎に按分した割合を今度は、機種毎に按分します。この場合は、低価格帯の機種が普及の中心であると考えて、安いものから順に割合を多く設定していきます。
 そしてさらに、按分した二種類の割合をそれぞれ掛け合わせると、全体の中での各機種の売り上げた比率が算出されます。そしてこの比率に売り上げた総台数を掛けると、機種毎の推定売り上げ台数が算出できます(実際はこの部分に、(株)サンヨーテクニカが情報として呈示すべき実際の売り上げ台数をあてはめればいいわけですが)。これが別紙定率制(従量制)の使用料計算の1、機種別販売台数です。
 これで求めていた機種毎の売り上げ台数が推定できたので、次に、それぞれに各機種の小売価格を掛ければ各機種の売り上げ高が求められ。そしてそれぞれのその結果を合計すれば、全体の総売上高が求められます。これが別紙定率制(従量制)の使用料計算の2、全体の総売上高にある、277億4330万4000円です。
 なお、著作権の使用料率は個々の事情により契約で決定すべきものですが、私の場合そのような契約事例がありません。そこで参考にしたのが、類似の著作権侵害裁判の判例です。そこでは、3パーセントもしくは2パーセントとした例が多く見られますので、それに準じて、ただし、ここでも控え目に2パーセントと設定します。それでもって計算したのが、別紙定率制(従量制)の使用料計算の2、全体の総売上高です。
 これによれば、もっとも妥当であろうという計算結果が、5億5486万6080円という数字になります。これが、【定率制】により計算した本件の著作権使用料相当額ということになります。こうした事実を踏まえて、適切な損害賠償額が認定されることを希望するものです。

 

第8、最後に――本件の裁判に希望すること――

 本件は、侵害行為者の著作権についての認識の浅さから生じたことはもちろんのことですが、侵害した者と侵害された者の間の歴然とした力の差も、それを生み出す背景になったと考えるべきではないかと思います。私のような一個人で創作活動をしているクリエーターは、非常に非力で小さな存在でしかありません。会社組織を相手にするならば、巨像とアリのような関係と言ったら言い過ぎでしょうか。
 今回、私自身の名と代理人の柳原弁護士名で著作権侵害の通知書(甲第11号証。同12号証)を内容証明郵便で出しても相手の会社は何の対応もしないという態度に端的にその体質が現われていますが、そのような小さな相手であれば、その存在を無視する、あるいは存在に気付かないほど軽視する、それともその存在を意図的に踏みつぶす、など、そのような扱いをする会社も少なからずあるのです。さらにそのような会社が、他人の著作権についての正しい取扱いができない会社であるならば、本件のような事がこれからも幾度となく起きるでしょう。私と同業のクリエーター達も、少なからず同様の事態に巻き込まれるに違いありません。私自身この事態に直面し、今日までの間、相当な時間と労力と、相当な覚悟を費やしてここまで来ました。できることなら、このような事態に出会わずに済んだ方がどれほど良かったかと思います。それがゆえに、本件裁判で得られる結果が他のクリエーター達、特に若い人達の立場や利益を守るための一つの礎となり、一方で、著作権侵害の事件を起こしそうな予備軍とも呼ぶべき企業等に対して、大きな警鐘になって欲しいと望みます。
 特に、確信犯的な著作権侵害者は、見つからなければ儲けもの、見つかって訴訟になってもその程度の軽い判決で済むならば、あるいはわずかな支払いの損害賠償で済むならば、やってしまった方が得という思考に流れてしまいかねませんので、そうならない、公明で正大な判決が下ることを希望します。

 また本件は、もう一つの側面として、デジタル技術の著しい進歩がもたらした著作権侵害事件でもあり、パソコンのマウスクリックひとつで非常に良好な複製を簡単に作ることができ、多少の操作を習得すれば、画像編集ソフトが画家やデザイナーの高度な熟練した技術の多くを肩代わりしてくれる環境にあって、専門家でなくても素人に近い人が、ひととおり見栄えのする作品や印刷物デザインを作ることのできる時代に起きた、新しいタイプの著作権侵害事件でもあります。専門家だけでなく一般に、そのような創作環境が広がることは、新しい作品や表現を生み出す可能性を広げる素晴らしいことでありますが、他方で、他人の創作に寄りかかって安易にデジタルコピーしたりそれに準ずる行為で、作品を創作するのではなく、作品を手早く用意するという方向に向かう危険性を併せ持っています。本件のように色のバリエーションを変えるなどはその端的な例ですが、元の作品の著作権など全く考慮されない、むしろ、著作権についての知識さえほとんど持ち合わせていないという、低次元なレベルでそのような操作が行われてしまう危険性があるということでもあります。こうした方向で行われる著作権侵害の行為は、今後益々増えて来ることでしょう。
 苦心して生み出した作品が、デジタルコピーで簡単に複製され、さらにはそれを土台にいろいろ手を加えられ改変され、行き着くところ無断使用では、真に創作性のある作品が生み出される環境ではなくなってしまいます。そのような意味で、デジタル編集技術の発達には諸刃の剣の側面があり、その安易な活用が、イラストや絵画にかかわらず、写真、音楽、映像、文学、プログラム、ゲームなどの分野の多くの著作権者の権利を脅かすことのないような明確なルール、すなわち、著作権を守ることの大切さを広く世の中に知らしめるため、この裁判の結果が活かされていくことを強く希望しております。

 

              2004年  1月  23日

 村川 正敏          

 

東京地方裁判所 殿