著作権法と情報公開法との交錯・調整について

2000年9月12日火曜日
 弁護士 柳原敏夫

◆ 問題は?

 
 情報公開法の制定に伴って、公開される情報(著作物)についての公表権・氏名表示権・複製権等が扱いが問題にとなり、その調整をするために、公表権・氏名表示権・複製権等を制約する著作権法の改正がなされ、情報公開法の施行と同時に施行される予定です。

 そこで問題は、この著作権法の改正をどのように考えるべきか、或いは著作権法の改正前の現段階における公開される著作物の公表権などをどのように考えたらいいか。

◆ コメント

 元々、著作権は、財産権としての著作権と著作者個人としての著作者人格権の2つの要素からできています。

 後者の人格権は、小説や音楽や絵画を考えてみればすぐ分かりますが、作品を公表するかどうか、どういう形で公表するかどうかといったことは、あくまでも作品を制作した著作者にそれを決定する権限があるというもので、これは作品の私的性格に由来するもの、つまり私的な領域の問題については、著作者自らがコントロールすることが出来るという原理に由来するものです。

 ところが、人々の生命・健康に直接かかわる食品の安全性に関する資料などというのは、たとえそれが形式上は著作物に該当するとしても、元々私的な性格を強く帯びた小説や音楽や絵画などの芸術作品とは異なり、極めて公共的な性格を持つもので、そういったものに、作品の私的性格に由来する著作者人格権をそのまま適用できないことは当然です。その意味で、そのような提出された資料についてもともと公表権などは原則としてないというべきです。

 また、前者の財産権としての著作権については、著作権が今や、有体物に関する所有権と並ぶ無体物に関する財産権(無体財産権)の中核として財産権の二大柱となったことを自覚すべきでしょう。だとすれば、財産権としての著作権についても、当然、憲法の枠組みを当てはめることになります。つまり、憲法29条の財産権の規定が財産権としての著作権についても適用されるということです。だとすれば、財産権としての著作権についても、憲法29条2項に基づき、公共の福祉のために必要な制約が認められることになります。

 今回問題になっているのは、小説や音楽や絵画などといった芸術作品ではなく、人々の生命・健康に直接かかわる食品の安全性に関する資料、つまり極めて公共的な性格の強いものです。それゆえ、このような資料の複製権などが、人々の生命・健康の維持という公共の福祉のために一定の制約を受けること、つまり情報公開のために複写が認められることになるのは当然といえましょう。また、そのことによって、資料の著作権者が、複製権行使により得られる経済的な利益を不当に害されたことにはならない筈で、複製権保護の本来の趣旨が失われるわけでもないのです。

 来春、情報公開法の施行にあわせて、著作権法の著作者人格権の規定などが改正されますが、それは、以上の説明からも明らかなように、そこで初めて著作者人格権の制約が認められたというのではなく、元々制約されて当然のものを単に確認したと理解すべきものでしょう。

以上

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