批評空間社の設立手続でのやり取り(00年3月20日〜5月16日)

以下は、批評空間社の設立手続を担当した内藤裕治氏と私(柳原敏夫)との間で、設立手続きをめぐってメールでやり取りをした記録です。
私も、生前の内藤さんもまた、こうした批評空間社の設立に関する情報は、市民が共有すべきパブリックな財産として公開すべきであると考え、彼の了解を得ていましたので、以下において、必要な限りで彼とのやり取りを公開します。

7.3/03


内藤さん→私:最初のメール(3.20/00)

Subject: 批評空間

‥‥柄谷行人・浅田彰両編集委員とは、われわれ数人に加えて何人かにも呼びかけ、皆で出資して独立した出版組織を立ち上げ、そこで第三期を創刊するという方向で話を進めているところなのです。

その組織の形態に関して、できることなら株式会社や有限会社といった会社組織ではなく、出資額の多少に拘わらず平等な経営参加を理念的にも制度的にも謳っている「組合」という形態を選択できなだろうか、と考えております。
ただ、会社設立に関する本に比べて、組合設立に関する本は非常に数が少ない。それらの本によると、組合設立に関しては、中央会という組合設立手続きの初歩的相談から設立実務一切を引き受けてくれる半公的組織に話を持っていくそうですが、その前に、会社組織という選択肢も始めからまったく除外してしまうのではなく、会社/組合という組織の違いを、運営面のみならず経済・財政的側面でもどういう法的な差異があるのかということを、専門の弁護士の方に相談させていただき、こちらでもそれを了解した上で、組織形態の選択をあらためて決定しようとこうという話になったのです。‥‥

著作権がご専門の柳原さんに伺うのは、ご迷惑かとは存じますが、あるいは会社法関係が専門の弁護士をご紹介いただくことも含めて、一度、お会いさせていただき、話を聞いていただけないでしょうか。

私→内藤さん:返答(3.20/00)

Subject: Re: 批評空間

内藤さんへ

はじめまして。柳原といいます。
メールを拝見しました。
‥‥
ご相談の内容は、既に柄谷さんから聞いていましたので、了解です。
但し、正直言って、今回は、商法や組合法がらみの私の専門外のことなので、どこまでお役にたてるか分かりません。
しかし、私自身、今、インターネットの普及と歩調を合わせて、音楽や出版や映画など著作権の様々な分野で、クリエーターやプロデューサーや編集者が資本から自立して自前で制作・販売をしていくシステムを作ることにかかわっておりまして、その中で、組合法のことを否応無しに勉強しておりますので(といっても、まだ始めたばかりですが)、ちょうどいいです。

本当はお会いして話をしたらいいのですが、あいにく離れてしまっていて、戻るのは4月13日なので、どうしましょうか(^_^)。選択肢としては、
1、私が戻るまで待ってもらう
2、それまで待てないから、別の(できればその方面の専門家)人を紹介する
3、不十分ですが、ネット上でやりとりする。

ここから選んで頂けますか。

ちなみに、会社/組合という組織の違いについて、私は詳細に関して素人なのですが、最近、
「中小企業等投資事業有限責任組合契約に関する法律」
という新法ができまして、この法律の画期的なところは、これまで
会社=株主の有限責任/組合=組合員の無限責任
という基本原理を崩しまして、組合にも有限責任を導入したことです。今回、もし組合にするとしても、どうせなら是非とも、この新法を活用して、有限責任で多くの人から出資してもらうのがいいのではないかと思っています。
そこで、この法律についてもっと詳しく勉強したらと思うのですが、その解説本が通商産業省;中小企業庁振興課から\3,900で売っていますので、手に入れてください。

という感じで、こんなのがもっか私がネット上でアドバイスできる情報ですが。
‥‥
私の手に余る事が明白になった時点で、別の方に代わるようにします。それまで非力ですが私がやりましょう(というのは、恐らく、この手の問題の専門家なんて誰もいないと思うからです)。

とりいそぎ御連絡まで。

内藤さん→私(4.5/00)

Subject: 有限責任組合法

柳原敏夫様

おすすめいただいた本をようやく入手したので、パラパラ読み始めているのですが、この法律を使うにあたって一点、伺っておきたいことがあります。まだ数十ページでしか読んでいないので、あるいはこののちに以下の質問に対する答えが書いてあるのかもしれませんが。

この法律によると、投資事業有限責任組合は法律上中小企業と認められる事由を満たしている「株式会社」への投資をその主要な事業目的とし、そのほか他の投資事業組合や海外のlimited partnershipへの投資もこれに含まれる、とあります。

質問1
柳原さんのお考えでは、私や柄谷さんが起ち挙げる組織を投資者としての「投資事業有限責任組合」として設立する、という方向で想定されているのでしょうか、あるいはこの組合から投資を受ける「株式会社」(ないし投資事業組合)として想定されているということなのでしょうか。

質問2
質問1の前者でお考えだとすると、投資を主な事業とするこの組合で出版事業を行うことは可能なのでしょうか。

質問3
私が調べて柄谷さんに言った「企業組合」はこの投資事業有限責任組合どういう関係に法的あるのでしょうか。つまり、投資事業有限責任組合は「企業組合」への投資が可能なのでしょうか。また「企業組合」はいわゆる中小企業等協同組合法(これは民法に分類されるんですか?)に規定されるものですが、この企業組合は負債に関して連帯無限責任なんでしょうか。

調べる必要があれば、ご帰国されてからでも結構です。これからいろいろとお世話になったり、ご迷惑をおかけることもあるかと存じますが、どうぞよろしく。

内藤裕治

私→内藤さん(4.5/00)

Subject: Re: 有限責任組合法

内藤さんへ

こんにちわ。
メール、ありがとうございました。
‥‥

> おすすめいただいた本をようやく入手したので、パラパラ読み始めているのですが、
> この法律を使うにあたって一点、伺っておきたいことがあります。まだ数十ページで
> しか読んでいないので、あるいはこののちに以下の質問に対する答えが書いてあるの
> かもしれませんが。

実は、私もまだこの新法の中身を十分理解していません。
知り合いの人が是非、これを活用したいというので、それで私も慌てて解説書を買っただけで、まだ十分読んでいません(^^;)。

それを前提に、分かる範囲でコメントします。

> 質問1
> 柳原さんのお考えでは、私や柄谷さんが起ち挙げる組織を投資者としての「投資事業
> 有限責任組合」として設立する、という方向で想定されているのでしょうか、あるい
> はこの組合から投資を受ける「株式会社」(ないし投資事業組合)として想定されて
> いるということなのでしょうか。

のっけから本質的な質問で、恐る恐るコメントしないといけないのですが。

恐らく、これまで、柄谷さんたちが立ち上げる組織として頭にあるのは、
株式会社か或いは協同組合
だと思うのですが、それらに共通しているのは、その組織がお金を集めると同時に営業活動も行なうという両方を兼務していることです。

それに対し、今回の新法で作られた投資事業有限責任組合という発想は、
お金を集めることと営業活動も行なうということをとりあえず切り離して
前者のことに専念する組織として、投資事業有限責任組合を考えようということです。

で、この投資事業有限責任組合にどういうメリットがあるのかというと、これまでは、
お金を集めることと営業活動も行なうということをとりあえず切り離した場合に、
前者のことに専念する組織としては、民法上の組合しか事実上なかったのですが、これだと出資者が無限責任を負うということで、もしこの(投資)組合が投資に失敗した時には出資者は無限に責任を負う羽目になって、そのリスクを考えると簡単には出資者になれないという不都合があったのです。
そのリスクを克服しようというので、今回、組合でありながら、出資者の責任が出資金だけにとどまるという有限責任を採用して、出資者が気軽に出資できるような組織を作ろうとしたのがこの新法の狙いです。

> 質問2
> 質問1の前者でお考えだとすると、投資を主な事業とするこの組合で出版事業を行う
> ことは可能なのでしょうか。

厳密なチェックをしていないので、最終的な確信はないのですが、前述の考えからは、投資事業有限責任組合でなおかつ同時に出版事業を行うのは認められないと思いますね。


> 質問3
> 私が調べて柄谷さんに言った「企業組合」はこの投資事業有限責任組合どういう関係
> に法的あるのでしょうか。つまり、投資事業有限責任組合は「企業組合」への投資が
> 可能なのでしょうか。

投資事業有限責任組合がいかなる組織に対して、投資が可能で、いかなる組織に対しては投資が不可能かというのは、実は私もまだ調べてないのです(^^;)。(注1

先ほど、内藤さんが書かれた
> 法律上中小企業と認められる事由を満た
> している「株式会社」への投資をその主要な事業目的とし、そのほか他の投資事業組
> 合や海外のlimited partnershipへの投資もこれに含まれる、

ここの意味を、もっときちんと確認しないと、今回の「企業組合」が投資先として許されるものかどうか、分かりません。

> また「企業組合」はいわゆる中小企業等協同組合法(これは民
> 法に分類されるんですか?)に規定されるものですが、この企業組合は負債に関して
> 連帯無限責任なんでしょうか。

中小企業等協同組合法の条文を読まないと確かなことが言えないのですが、「企業組合」は、ほぼ間違いなく、民法上の組合だと思います(注2)。
そうだとすると、この「企業組合」は、負債に関して連帯無限責任ですね(←注:これは間違いで、正解は、「組合員は、その出資額の限度でしか責任を負わない」という有限責任です【中小企業等協同組合法10条5項】)。

とりいそぎ、コメントでした。

では.

私→内藤さん(4.26/00)

Subject: 批評空間の今後の体制について

内藤さんへ

こんにちわ。
17日は、失礼しました。

内藤さんと会ったあと、最近までずっと(今まで経験したことのないような)偏頭痛に悩まされまして、それと精神的に、NYとこちらの生活とのバランスを崩していて、どうにも冴えない感じで、連絡もせずに失礼しました。

今週から、気を取り直して、地を這うように仕事を再開しました。
それで、昨日、弁護士会の図書館に行って、協同組合の関係の文献を調べてきたのですが、驚くことに、大半の資料は、昭和20年代のものばかりで、残念ながら、最近のものは皆無といってよい感じでした。

そういう意味では、あんまり当てになる文献はなくて、企業法なり、金融法なりの基本原理から、我々自身の頭で、創造的に応用していくしかないということになりそうです。

ただ、生憎、私は、(これまで金儲けの主戦場みたいだった)企業法や金融法は意識的に避けてきたというよろしくない経緯があるので、今、急に、こうした問題をズラズラッと解説しろと言われても、その勉強をしていないので、どこまでお役に立てるか、分かりません。←とはいえ、これから自分なりに勉強して、対応できるようにしたいと思ってはいます。

その意味で、今回の事態に即戦力として役に立つ(企業法や金融法に通じたリベラルな)実務の人材が欲しいというのが、率直な感想です。
           ↑
私なりに、そういう人材がいないものか捜してみます。

そうは言っても、今すぐどうこうなるわけではないので、この間、私なりに、気がついたことを述べさせてもらいます。

17日にお話を伺ったとき感じたのですが、内藤さんは、既に或る程度、法律の枠組みを頭に入れて、これから批評空間の出版事業をどう立ち上げていこうか、かなり具体的に考えていたように思えたのですが(或る意味、当然のことですが)、これに対し、私などは、あんまりそういうことはしません。
まず、一体、何をこれからしたいのか、その目指すところを、法律の枠組みを一度カッコに入れて、徹底的に明らかにしてみる。
その上で、その目指すところを実際に満たすように、いかなる法律をどう導入したらいいか、あとから考える。いわば正当化としての理屈である法律を見つけ出す、というやり方です。

もともと法律なんていい加減なもので、法律の極意は臨機応変ですから、初めから、あんまり法律の枠組みを考えすぎない方がいいと思います。

こうした発想で行った場合、まず、何を目指すのかというレベルのことについては、次の2つのレベルのことがあると思うのです。

1、一方で、生産者の協同組合的な側面を持つ、批評空間の書き手・作家・編集者の人たちが、資金面と活動面の両面について、どのような形で協働するのが望ましいか。

2、他方で、消費者の協同組合的な側面を持つ、批評空間の読み手・支援者たちが、単に資金面のみならず活動面についても、その両面について、どのような形で協働するのが望ましいか。
また彼らは、批評空間の書き手たちとどのようなネットワークを作っていくのが望ましいのか。
とりわけ、全国(のみならず世界レベルで)批評空間の読み手・支援者たちが資金的な協力をしたいと思う場合、その協力したいという要求をどのような形で生かしていくのがいいか。単に、批評空間の出版社に寄付やカンパをするという形にするのか、それとも、こうした人たちの資金を別個に集めて運用するファンドのようなもの(前回、話題になった投資事業有限責任組合法に基づく組合もその一例ですが)を想定するのか、といった問題です。

このことに関連して、今、インディー系の映画のプロデューサーや脚本家の人たちと、インターネットを活用して、新しい映画作り(映画の製作スタッフや俳優をインターネットで募集するのみならず、映画の資金も広く、ユーザーから募って集める)を模索していますが、その最中に、別のところに、このアイデアを先に実行されてしまいました。
我々は、不特定多数の人からネットを通じてお金を集める場合、出資法に抵触するおそれの問題があったり、また下手に寄付やカンパの形を持ち込むと、税務上、贈与ということで、ガバっと贈与税をかけられるという問題があったり、どのような方法を取ったら、最も無駄無く有意義にお金を生かせるか、そういった処理のことで、マゴマゴしていたのです(^^;)。(←どうも、こうした新規事業を立ち上げる場合、税の専門家の助言が不可欠ですね)

参考までに、この一足先を越されたホームページについての記事とURLを紹介しておきます。

>映画制作支援できるホームページ「シネマネー」開設
>
>伊藤忠商事の関連会社インフォ・アベニュー(東京)は
>5日、映画ファンが個人として映画づくりにかかわること
>ができるホームページ「シネマネー」
>(http://www.cinemoney.com/)を開設した。制作予
>定の映画の題名やあらすじ、配役をネットで公開し、「ぜ
>ひ見たい」という応援団を1口5000―1万5000円
>で募集する。1作目は「天国から来た男たち」(三池崇史
>監督)。(01:27)

http://www.cinemoney.com/


なお、投資事業有限責任組合法のことを少しずつ調べつつありますが、(既にご承知でしょうが)以下のようなことを参考までに指摘しておきます。
1、組合員は、有限責任の組合員だけではダメで、必ず無限責任の組合員もそろっていることが必要。但し、その人数には限定はなく、1名だけでもよい。
2、組合員の数の上限は有限と無限の合計が49名までで、それを越えてはならない(:2001年に政令で100名まで拡大)。そして、組合員は結成のときに集まった者で構成し、その後、やむを得ない事情で脱退することはあっても、のちに中途参加することは認めていない(ようですね。再確認)。←もしそうだとしたら、沢山の支援者の支援は受けにくいですね。
3、組合の事業は、メインは中小企業の株式会社の株の取得(従って、有限会社の株の保有は認めていないようです)。また、組合への投資(3条1項6号ロ)、但し、その投資額は出資総額の50%以下に限る(施行令2条)。

なお、不特定多数の者からお金を集める場合に、気をつけることは
1、出資法に抵触しないこと
2、無用な税金に引っかからないこと
       ↑
1について、サイトに載っていた情報を参考までに添付書類として紹介しておきます。

とりいそぎ。
では。

内藤さん→私(5.11/00)


Subject: Re: 批評空間の今後の体制について

柳原敏夫様

メールありがとうございました。
‥‥
法律の知識を一度カッコに括り、法律の枠組みにとらわれることなく、まずやりたいことを先行して考え抜く、というのは大変貴重なアドヴァイスでした。生半可な知識しかないと、かえってそれに発想が縛られてしまうというのはよくあることですからね。

事業の財政的な問題ですが、僕は基本的にはこう考えています。僕の方で「批評空間」の出版を基軸に据えた大まかな事業計画と経営計画(バランスシート)を立案し、最低限必要な資金額を予め算出しておく。まず、当面は、私・X氏・Y氏・V氏・W氏で出し合う金額に事業を開始するにあたって最低限度追加必要な資金の調達先(個人)への呼びかけを、事業計画の説明とともに行う(だいだい2500万−3000万円ぐらいを目安に考えているのですが、知りたいのは出資金をどの程度運用資金に回していいのかという事です。それによって、金額に差異が生じますから。
この場合の個人とは著者を中心とした人的関係のある人にまず限定する。ここまでは、通常の会社の立ち上げとプロセスとしては同じでいいと思います。ただ、組織をできれば組合形式にして、出資者に組合員になってもらい、総会などにも出席してもらって参画意識をもってもらいたい、ということです。その後の経営はなんとか自分たちでやりくりできるよう、事業の運営をやらなければいけないと思っています。

問題はその先なのですが、これと相即して、われわれの事業計画をネット上あるいはなんらかのメディアで公開し、協賛者を募る、ということをやってみたいとは思っているのです。しかし、これは事業計画そのものに変更を迫る可能性もあるので慎重にやるべきことでしょうし、また「批評空間」の愛読者の方々のなかには何らかのかたちでの参画を望んでいらっしゃる方もいると思うので、そういう方々の思いをうまく掬い上げられるいい方法はないか、と思うのです。むろん、彼らにも組合員になってもらう。「組合員」のなかにもいくつか区別があるそうですから、それを利用できればと思っています。

それと、さらにご相談したいのは、前者の資金と後者の資金を経営上、区別してプールしておくべきなのか、そういうことは考える必要がないのか(また考えるとしたら、どういう条件が必要になるのか)という点です。

以上、お伺いまで。

内藤裕治

私→内藤さん(5.16/00)

Subject: Re: 批評空間の今後の体制について

内藤さんへ

メール、ありがとうございました。

私も最近は国際取引の相談が増えてきまして、にもかかわらず、まだ英語力が追いつかないのが実情で(^^;)、この間、それの対応でバタバタしていまして、返事が遅れて失礼しました。

まず、ご質問の件。

> まず、当面は、私・X氏・Y氏・
> V氏・W氏で出し合う金額に事業を開始するにあたって最低限度追加必要な資金
> の調達先(個人)への呼びかけを、事業計画の説明とともに行う(だいだい2500
> 万−3000万円ぐらいを目安に考えているのですが、知りたいのは出資金をどの程
> 度運用資金に回していいのかという事です。

> それと、さらにご相談したいのは、前者の資金と後者の資金を経営上、区別してプー
> ルしおおくべきなのか、そういうことは考える必要がないのか(また考えるとした
> ら、どういう条件が必要になるのか)という点です。

確か、以前、お会いしたときにも同様の質問をされていて、私がお茶を濁したことがありました(^_^)。
というのは、この点は組合の場合と株式会社等の場合とで状況がちがうからです。
まず、組合の場合ですが、前者の資金であれ後者の資金であれ、何であれ出資金について、経営上、それをプールしておくといったことは一切問題になりません。なぜなら、出資者である組合員は無限責任を負うのですから、とくに出資金についてプールしておく必要がないからです(出資金がなくなったら、債権者は組合員の個人資産を追求できるので)。

問題は、そうした無限責任をカットした有限責任の原則を採用した株式会社や有限会社の場合です。この場合、債権者は、あくまでも出資者の株主の出資金にしかかかっていけないので、こうした出資金を経営上プールしておくべきではないかというのが要請として出てきて当然だからです。
それで、具体的に出資者についてどのような拘束が生じるのか私もよく分からなくて、お茶を濁してしまったのです(失礼しました)。
          ↓
で、20年ぶりに、司法試験で勉強した商法の本を再び引っ張り出しまして、思い出しながら読み直して確認してみた結果、
出資者が有限責任しか負わない株式会社や有限会社の場合でも、株主の出資金を経営上プールしておく必要は一切ないことが分かりました(^_^)。つまり、こうした出資金は、どこかの金庫にしまっておく必要などなく、会社運営のために自由に使っていいわけです。
では、そんなに自由に使っていいとして、株式有限責任の原則からみてそれでいいのかということですが、それに対しては、次のようなレベルで、出資金の確保を図っているのです。
(1)資本金は必ず株主が払い込む(つまり、払い込んだような仮装をしてはいけない)
(2)株主に配当するにあたって、会社資産が資本金と準備金の合計(←これがいわゆる株主の出資金にほぼ対応する)を越えた場合に限って可能にするという条件をつけることによって、数字上で出資金を維持する。
(3)会社は、自分で会社の株を持つことを禁じられている←つまり、会社が、株主から自社の株を購入することは、株主に出資金を払い戻すことを意味するからで、会社財産を減少させることになるからです。
(4)会社は、一度決めた資本金の額を減少することはできず、もし減少したい場合には、株主会議の特別決議が必要となります。
           ↑
以上のようなレベルで、出資金である会社財産の確保を図っているのでして、言い換えれば、それ以上、前者の資金であれ後者の資金であれ、こうした出資金は拘束を受けるようなことは一切ないということです。
(私自身、昔、知識で勉強していた頃には、この点まで詰めて理解していなかったことが分かりました)。

ということで、内藤さんが心配しているようなことは基本的に問題ありませんね。

次に、

> 事業の財政的な問題ですが、僕は基本的にはこう考えています。僕の方で「批評空
> 間」の出版を基軸に据えた大まかな事業計画と経営計画(バランスシート)を立案
> し、最低限執拗な資金額を予め算出しておく。まず、当面は、私・X氏・Y氏・
> V氏・W氏で出し合う金額に事業を開始するにあたって最低限度追加必要な資金
> の調達先(個人)への呼びかけを、事業計画の説明とともに行う(だいだい2500
> 万−3000万円ぐらいを目安に考えているのですが、 ‥‥ここ
> までは、通常の会社の立ち上げとプロセスとしては同じでいいと思います。ただ、組
> 織をできれば組合形式にして、出資者に組合員になってもらい、総会などにも出席し
> てもらって参画意識をもってもらいたい、ということです。その後の経営はなんとか
> 自分たちでやりくりできるよう、事業の運営をやらなければいけないと思っています。

お話を聞いていて、どうも、
コミューンの精神をできる限り追求したいという要望と、他方で出資者に無限責任を課すような過酷なことは避けたいという要望とがうまく調和しない印象を持ちました。
つまり、コミューンの精神→組合組織 となるが、しかし、組合員に無限責任を課するのは困る。
かといって、有限責任→株式会社 では、ただの会社と同じことになってしまう。
ここがもし、有限責任→組合→コミューンの精神 と繋がれば問題ないのですね。で、こうしたことができるように何とか法律的にでっち上げてみましょうか(^_^)。


>問題はその先なのですが、これと相即して、われわれの事業計画をネット上あ
>るいはなんらかのメディアで公開し、協賛者を募る、ということをやってみた
>いとは思っているのです。しかし、これは事業計画そのものに変更を迫る可能
>性もあるので慎重にやるべきことでしょうし、また「批評空間」の愛読者の
>方々のなかには何らかのかたちでの参画を望んでいらっしゃる方もいると思う
>ので、そういう方々の思いをうまく掬い上げられるいい方法はないか、と思う
>のです。むろん、彼らにも組合員になってもらう。「組合員」のなかにもいく
>つか区別があるそうですから、それを利用できればと思っています。

私みたいに、読者側の立場にいる者にとっては、これは非常に刺激的なアイデアです。
私などが読者の側で、勝手連ではありませんが、勝手に、批評空間の読者クラブを立ち上げてしまう。つまり、ネット上で「批評空間」の消費協同組合みたいなものを立ち上げてしまい、そこから批評空間の生産者側に色々な申入れをしていって圧力をかけていく(^_^)。
ともかく、こういったことは、本来ならば、消費者側から真剣に考えていっていいことだと思うのです。

‥‥

とりいそぎ。


注1

中小企業等投資事業有限責任組合契約に関する法律では、当初、投資の対象は、「中小企業者」に該当する株式会社に限定されていましたが、2003年5月に法改正があって、株式会社組織以外でも次の者が投資の対象となれると拡大されました。

 中小企業者に該当する合名会社、合資会社、有限会社及び個人
 企業組合及び協業組合(注)
中小企業等投資事業有限責任組合契約に関する法律2条1項2号と3号の追加)


注2
「企業組合」といった聞きなれない団体の性格(たとえば、組合員は、組合の負債に対して、無限責任を負うのかどうか、といった)を考えるときに、ついつい、「その団体は民法上の組合のことなのか、それとも法人なのか?」といった問題を立ててしまうことがあります。
しかし、これは端的に誤解に基づく間違った問題の立て方です。というのは、そもそも民法上の組合かどうかといった問題は、もっぱら団体の内部組織のあり方を規律する場合のひとつの典型のことを指すのであり(だから、組合に対立する概念は、社団です)、これに対し、法人というのは、もっぱら団体の外部(債権者など)との関係で、規律のひとつの典型であり、両者はもともと次元の異なる場面での規律のことだからです。

それは、大雑把に言えば、以下のように整理されるでしょう。

組合 中間 社団
法人 企業組合 合名会社 株式会社・公益法人
非法人
(任意団体)
民法上の組合 権利能力なき社団


しかし、ここでややこしいのは、団体の外部との関係を問う問題が、上の「法人かそれとも任意団体(非法人)か」といった問題の立て方だけでは尽くせないという点にあります。
なぜなら、団体の外部との関係で法人であるかないかという問題から、直ちに、団体の構成メンバーが、債権者に対し、どのような責任(無限責任か有限責任か)を負うかについての回答が出るわけではないからです。
たとえば、商法で認められた合名会社は、法人ですが、にもかかわらず、その構成員は、債権者に対し、連帯無限責任を負います(商法80条)。
また、逆に、非法人だからといって、常に、その構成員が債権者に対し、連帯無限責任を負うわけではありません。権利能力なき社団においては、構成員は、団体の債権者に対し、責任を負わないとするのが判例・学説です(もっとも、営利団体の場合については、反対説があります)。

以上のことを上の表で示すと、緑色部分の団体が、構成員が有限責任しか負わない場合ということになります。
つまり、法律は、現状では、いかなる基準でもって、構成員が債権者に対し有限責任或いは無限責任を負うかを説明することはできず、いわば、その時勝負の、行き当たりバッタリでやっているということです。