投資事業有限責任組合の設立手続のポイント・苦労について

7.2/03

最初の構想段階が大変だった

一番最初の段階で、実際にどんな形態を採用するか、そのために現行法で可能な形態をピックアップして、その中から1つを決定するまでが、それなりに大変でした。

というのは、
1、これまでに、そのまま手本になるような前例のケースがなかったこと
2、やっていきたいと思う経営形態にピッタリの法律上な制度がなかったこと、そのため、既存の法律制度にいろいろとアクロバット的な工夫を凝らさなければならなかったこと、
からです。


国(中小企業庁・登記所)の方も初めてのことで、実はそんなによく分かっていない

投資事業有限責任組合契約は、役所も初めてのことで、その中身についてよく分からないことが多かったこと。
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そういうときには、ビビらずに、我々市民が適正な実例を作り上げていくのだという心構えで、条理に適ったやり方を見つけ出す積りで臨めばいいのです(法律の極意は、つまるところ、正義公平と臨機応変の2つなのですから)。

予想外の難問:契約書の署名捺印

これは難問というより、単に難儀(面倒くさい)という感じのことです。
それは、投資事業有限責任組合契約書の署名捺印が予想以上に厄介だったことです(←しかも、そんな情報はどこにも書いてない!)。

 通常、契約の当事者が3人以上になるケースはそんなになく、多くても5、6人ですが、今回は、20人近い人が当事者になりました。そのため、思ってもみなかった難問が発生しました。
それは、この20人近い人たちのハンコ(捺印)をどうやってもらうか?
これには、2つのレベルの問題があって、

海外在住の出資者や日本全国に散らばる出資者から、どうやってもらうか。
近くに住む人についても、ひとりにつき、普通にやるとハンコを押す箇所が合計40箇所以上にもなるので、そんなことは絶対面倒くさがって嫌がる出資者の人たちばかりなの)、予想外のこの厄介な問題をどうやって解決するか。


Aについては、今回の契約書では実印が要求されなかった(但し、無限責任組合員だけは実印が要求される)ので、遠方の出資者には、こちらで三文判を用意し、それを押す旨の了解を予め得て、それで済ませました。

Bについては、
最初、23頁にも及ぶ長文の契約書の末尾の署名捺印の頁の部分だけ、各当事者に送るなり見せるなりして、それに署名捺印をしてもらい、あとから残りと合体させるというアイデアが出ましたが、これは以下の理由でダメでした。

今回、捺印してもらうのは、末尾の署名欄だけでなく、全部で次の3点です。

(1) 記名捺印(署名欄の名前のあと) ←これは1箇所でOK
(2) 捨印(訂正用に、各頁ごとに) ←各頁にするため、合計20箇所以上に及ぶ。
(3) 契印(各頁と頁の間に) ←各頁にするため、合計20箇所以上に及ぶ。


そして、(3)の契印を押すためには、契約書全体が綴じられていることを前提にしますから、捺印された署名欄を正式の契約書本文と後で合体させるわけにはいきません。
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そこで、これを如何に臨機応変に身軽に処理するかが課題となり、 
   
(2)について、
契約書末尾の空欄に、一箇所だけ、捨印を押して、そこに、
 第○条中○○字削除
 第▲条第1項○○字加入
などと、訂正のコメントをまとめて記載するといううまい手があることを発見。
これが今回のような場合、ベストです。

(3)については、
袋綴じという方法で契約書を作成することが今回はベストです。
これによって、契印を押すのは、裏表紙に1箇所だけでいいことになります。
その具体的な方法については、たとえば「ひとりでできる株式会社の作り方」(長門昇。発行 オ−エス出版社)の104頁に解説してあります。

こうして、ひとりにつき、40箇所もハンコを押印しなくてはならないのを、3回に軽減することができました。

登記の申請について


 通常は、登記手続専門の司法書士に依頼するのですが、次の理由から今回は、自分たちでやりました。
1、経費節減の立場から、
2、また投資事業有限責任組合の登記という新しい制度について少しでもいろいろ経験しておきたかったので(反面、新しい制度ゆえに司法書士に頼んでも、彼らも分からなくて、頼んでもたいして変わらないだろうと)、
3、なおかつできるだけ自主的に成し遂げる精神を重んじたこと

それで、何も分からないので、そういうときの大原則として、
その道の専門家に尋ねるという作戦で、
大手町にある法務局の登記相談所に行って、一から説明を受けて、準備しました。

結果的に、株式会社の設立の場合とそう変わらないことが分かったのですが、初めてのことで、最初、緊張しました。しかし、こうした登記相談所は意外に親切で、どんな分からないことも聞けばちゃんと教えてくれます。もともと我々市民の貴重な税金で運営されているものなのですから、大いに活用すべきでしょう。

組合員の責任について

これまで、組合といわれた民法上の組合においては、そこに参加する組合員はいわゆる無限責任を負いました。従って、組合の借金(債務)について、組合員は、出資した金額だけではなく、その組合員の個人財産すべてをもって責任を負わなければならないのです。

こうしたリスクの大きさが、投資家にとって民法上の組合を使った投資組合に参加することには慎重にならざるを得ないという反省から、もっと安心して投資できる制度を充実させようという目論見から、今回、参加する組合員に、出資額の限度しか組合の債務について責任を負わないといういわゆる有限責任を導入した投資事業有限責任組合の制度が認められるに至った訳です。

しかし、注意したいことは、この制度もまた、完全に、組合員に有限責任を認めたわけではないのです。というのは、投資事業有限責任組合の運営を担当する組合員は必ず無限責任を負う組合員(これは無限責任組合員といいます)でなければならないからです(7条)。

もちろん、無限責任組合員は複数でも構いません。しかし、最低一人は必要となります。さもないと、投資事業有限責任組合の運営を担当する者がいなくなるからです。

今回は、株式会社批評空間社の代表者である内藤さんが、無限責任組合員となりました。これは、彼に限らず誰にとっても、本来、望ましいことではありませんでした。なぜなら、協同組合的に運営する積りでいながら、法律制度の理由で、ほかのメンバーはすべて有限責任でいいのに、ひとりだけ無限責任を負わなければならないからです。
そのことを、彼は、こうコメントしています。

投資組合は確かに基本的に組合員の「有限責任」が確保されています。この場合の有限責任とは組合が負債を負って解散した場合の債務支払に関するものです。だから組合が借金をして仮に倒れても、組合員は自身の出資額が返ってこない、という範囲に留まる。それ以上お金を支払え、といわれるこはありません。

しかし、無限責任組合員は違います。個人財産をもってしても返済の義務があります。この組合に関して有限責任ばかりが強調されますが、組合の立上げには無限責任組合員が最低1名は必要です。組合設立をお考えの方は、この点も、しっかり把握されておくべきだと思います。

批評空間投資事業有限責任組では無限責任組合員は私がやっています。しかし、前提として組合としては一切借金をしない、換言すると組合としては借金が発生するような活動はせずそういう可能性が付随する生産活動は株式会社批評空間の方で行う、ということを想定しているのです。

つまり、彼は、投資事業有限責任組合では借金が発生するような活動は一切せず(なぜなら、基本的に彼が投資組合の運営を任されているので、どのような活動するか、或いはしないかを彼が決定できる)、そのようにして、無限責任組合員としてのリスクを解決しようとしました。
このことは、大いに参考になることだと思います。

(文責 柳原敏夫)