投資事業有限責任組合法式はなぜ発案されたのか
−−批評空間社の設立にあたって−−

9.30/01


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 地方小流通という取次ぎから原稿依頼されて、書いたもの。



1、はじめに

 本年2月、書き手・編集者(以下、生産者と呼びます)自らが運営する出版社として批評空間社が設立され、その際、資金調達のために投資事業有限責任組合という方式が採用されました。投資事業有限責任組合とは、98年に施行されたばかりの「中小企業等投資事業有限責任組合契約に関する法律」によって認められた新しいタイプの投資組合です。なぜこれが導入されたのか。

 結論を一言で言うと、批評空間社は「自由で平等な生産者たちのアソシエーション」という生産協同組合を理念として設立されたものですが、この理念を単に生産者たちの内部で実現する(一人一票の議決権)だけではなく、生産者たちの外部(出資者)に対しても貫く必要があり、このために採用されたのです。

2、資金調達における課題

 今回、企業設立に必要な資金を生産者だけではまかなえず、外部から調達する必要がありました。とはいえ、金融機関や企業ではなく、幸い、有志からの出資が実現できたので、彼らの出資をどのような形で実施すれば前述の理念が守られるのか検討する必要がありました。
 まず、株式会社の株主という方法ですが、これだと外部の有志の人たちが持ち株に応じて会社運営の議決権を持つことになって、生産者たちの手による企業運営の理念が損なわれる恐れがあります。

 そこで、出資は受けられるが、そのために自らの運営決定権を損なうこともない方法を見出す必要がありました。そのような方法として従来、投資組合というものがありました。しかし、投資組合の本質は民法上の組合であり、従って、投資した組合員は、投資組合に対して無限責任(もし経営が失敗した場合には、単に出資額にとどまらず、組合員の全個人財産までその負債にあてられる)を負わなければならず、そのような危険な立場に有志の人たちを置くわけにはいきません。

ところが、幸い、うまい手があったのです。98年に、組合員に出資額の限度しか責任を負わさない投資組合が初めて認められたのです。それが投資事業有限責任組合でした。

これによりまず、有志の人たちに過大なリスクを負わせる危険から解放したのです。
しかも、この投資組合は、民法上の組合と異なり、無限責任を負う組合員の手にその運営を委ねるというやり方でした。そこで、生産者の誰かがこの投資組合の無限責任組合員になれば生産者の手で投資組合を運用することができます。従って、有志の人たちの資金は、いったん全てこの投資組合に出資され、そこから再び批評空間社に投資されるのですが、そのとき名義は個々の有志ではなく(生産者が運用する)投資組合です。こうして、批評空間社に投資するための投資組合を批評空間社自らのイニシアチブで作り上げることにより、出資は受けながら、そのために自らの運営決定権を損なうこともない方法を見出したのです。

3、生産者たち同士の平等の実現

 しかし、投資事業有限責任組合には大きな問題がありました。それは投資組合の投資先が中小の株式会社に限定されていたことです。民法上の組合や企業組合やNPOなど我が国で認められた生産協同組合的な組識に対しては、投資が認められていなかったのです。

ところで、株式会社では、保有する株式の数に応じて議決権が与えられるので、これをそのまま採用したのでは、出資額の異なる生産者同士の法的な平等は不可能になります。

そこで、この問題を解決するため、生産者全員に同じ数だけの株式を割り当てることにして(残りの出資金は全て投資組合に出資してもらい)、株式会社制度の下でも、生産者たちの平等を実現するようにしたのです。

4、批評空間社の具体例

 批評空間社は、5人の生産者が設立したものですが、出版事業を行なう株式会社批評空間はこの5人に対して、全員10株50万円ずつ割り当て、残りの500株2500万円は5人の生産者の残りの出資金と有志の出資金によって作られた投資組合に割り当てました。

こうして、投資組合は株式会社批評空間の筆頭株主でありながら、それは生産者の運営決定権を損なうことがないものとして機能するようになっています(もちろん株式会社批評空間は、経営内容について、出資者たる有志の人たちに十分な情報公開を行ない、適正な運営を目指すものです)。

5、投資事業有限責任組合の長短

 出資にあたって、外部の出資者により生産者の運営決定権を損なうようなことがなく、なおかつ外部の出資者に無限責任といった過大な責任を負わせなくても済むやり方として最適です。

しかし、現行法は、投資組合の投資先が中小の株式会社に限定されていること、投資方法が限定されていて、融資が認められていないことなど問題点も数多くあります。

6、今後の課題

 今回の設立の苦心は殆ど、理念に対する法律の不備に由来するものです。そこで、今後は投資事業有限責任組合の法律を改正して、投資組合の投資先をもっと幅広く、民法上の組合、企業組合、NPO法人、中間法人、有限会社などまで拡大すべきです。

 しかしそれ以前に問題なのは、そもそも我が国ではまだまともな生産協同組合の法律が制定されたことがないということです。

 協同労働法の制定をめざした市民フォーラムなどが活動していますが、「労働者等市民が協同労働を通じて自発的な就労の機会を創出・拡大する」ためにも、スペインなど欧米の協同組合法などを参考にしながら一刻も早い法制化が望まれます。
     


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