「煮豆売り」無断複製事件

----99年6月11日原告準備書面(3)----

6.11/99


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 原告の第4回目の準備書面。
 本書面は、主に、被告の質問に対する回答を述べたもの。

事件番号 東京地裁民事第29部 平成10年(ワ)第14180号 著作権侵害差止等請求訴訟事件
当事者   原 告 三谷一馬
       被 告 株式会社 新橋玉木屋
            
訴えの提起    98年6月25日
判決        99年9月28日


平成一〇年(ワ)第一四一八〇号 著作権侵害差止等請求訴訟事件

     原 告  三  谷  一  馬

     被 告 株式会社 新橋玉木屋

           平成11年6月11日

                                原告訴訟代理人
                                           弁護士 柳 原 敏 夫

東京地方裁判所
民事第四七部 御中

原告準備書面(三)

 平成一一年六月一四日付被告準備書面(3)の求釈明その他に対する原告の見解は以下の通りである

一、被告の求釈明について
 被告の求釈明は、

原告が制作した「煮豆売り」の絵(本件絵画)の原画は、いつ、如何なる形で世に出されたか。何部位出して、主としてどのようなところに頒布販売されたか。(六頁)

というものであるが、しかし、原告は、既に二年前の、平成九年五月一九日付の調停申立書の中で、昭和三八年五月に本件絵画を収めた「江戸商売図絵」を初版発行した旨を明らかにしており(甲六)、にもかかわらず、この期に及んで、被告準備書面(3)でも、また被告代表取締役田巻章子の陳述書(乙一九)でも、未だに

《そもそも原告三谷一馬氏の原画なるものは、いつ、どのような形で世に出され、何部位が市場に出たのか、被告らは全くわからない。》(準備書面V四頁末行以下)
《三谷氏の絵がいつからどういう形で世に出たのか不明です》(乙一九。五枚目表五行目)

などと口にしているのは全く信じ難い。まず、このことを断った上で、被告の求釈明に以下の通り、回答する(なお、被告も準備書面(1)一六頁で指摘する通り、甲一九の原告自身の記述を参考されたい)。
                          記
 本件絵画を収めた「江戸商売図絵」は、これまで四つの出版社から一般書店を通じて、次の通り、出版販売されてきた。
  発行元                             部数
@青蛙房(検甲一) 初版 昭和三八年五月     二〇〇〇部
             再版                 二〇〇〇部
A三樹書房     初版 昭和五〇年七月     一〇〇〇部
             再版(二回)            計四〇〇部
B立風書房     初版 昭和六一年三月     三〇〇〇部
C中央公論社    初版 平成七年一月     二五〇〇〇部
             再版                 五〇〇〇部

二、被告自身による「独自著作の抗弁」の否定について 
 ところで、今回何よりも特筆すべきことは、被告が、右求釈明の最後において、婉曲ながらも、

《被告としては、むしろ被告の元絵に依拠して原告(の本件絵画)が作成された可能性の方が強いと考える》(六頁)

という主張をとうとう口にしたことである。これは、単に原告に対する冒涜という名誉毀損的な行為にとどまらず、これまでの被告にとって最大の拠り所であった「独自著作の抗弁」なるものがそのまま維持できず、むしろこれを自ら否定する主張にほかならない。

 なぜなら、これまで被告は、「独自著作の抗弁」として、

《このように著作権は、偶然の暗合により併存が可能である》(被告準備書面(1)一五頁)

と「偶然の暗合による併存」論なるものを主張していたので、これに対し、原告が、この間、《二人の画家がお互いに無関係に同じ原画を元に絵を描いた場合に、出来上がった絵がそっくりになること》がいかにあり得ないか、を証明したところ(原告最終準備書面三頁以下)、この証明に対して、被告は黙して何も語らず、ただ単に《むしろ被告の元絵に依拠して原告(の本件絵画)が作成された可能性の方が強い》とのみ言ったのであり、これは、とりもなおさず、被告もまた、原告の右証明に対し、出来上がった絵がこれだけそっくりになることはお互いに無関係に書いた場合にはあり得ないことを認めざるを得ず(「偶然の暗合による併存」論の否定)、そこで残された道は、その原因を、被告が原告の絵を盗用したからではなく、その反対に原告の方こそ被告の元絵を盗用したからなのだ、という最後の賭けに出たものというべきだからである。

 そして、これに対しては、原告の方こそ、

《そもそも「額入りで飾られて」「家宝」として伝わった被告の元絵なるものは、いつ、どのような形で世に出され、何部位が市場に出たのか、原告には全くわからない。》

と言いたい。それゆえ、いったい原告がどのようにして、その被告の元絵なるものに依拠して本件絵画を制作することが可能であったのか、原告こそ皆目わからない。

三、被告の証人申請について
 被告は、被告代表取締役田巻章子とデザイナー酒井成男両名の証人調べを申請するが、原告にとって、既に提出された両名の陳述書(乙一九、一六)だけで十分であり、改めて両名に尋ねたいことはない。よって、両名の証人調べは不要と考える。

四、ワン・レイニイ・ナイト・イン・トーキョー事件最高裁判決について
 被告は、くり返し、被告の「独自著作の抗弁」が成立する根拠として、ワン・レイニイ・ナイト・イン・トーキョー事件最高裁判決を持ち出している(四頁。乙二三)。しかし、一般論としてならともかく、本件に関する限り、右事件と同様に考えるのは的外れも甚だしい。

 なぜなら、右事件は、原告の主張自体が「被告楽曲の旋律のうちの六割は原告楽曲と同一または類似である」(甲一九)と主張したにとどまる事件であって、もともとその程度の類似性しかなく、そもそも著作物の同一性すら危ぶまれた事案であった(現に、一審では、著作物の同一性がないとして原告の主張を斥けた。甲一九)。従って、そのような著作物の同一性が危ぶまれた事案である以上、それはまた、そのような被告の曲が原告の曲とは無関係に独自に制作されたという「独自著作の抗弁」も自ずと容易に認めることのできる事案であったのに対し、これとは全く対照的に、ほぼ全体にわたって著作物の同一性を認定できる本件において、右事件のときと同じような容易さでもって「独自著作の抗弁」を認めるわけにはいかないことは当然だからである。

以上

書証の提出

一、甲第一九号証の一〜二  原告著作の「江戸商売図絵」中公文庫版(抜粋)
一、甲第二〇号証の一〜二  著作権判例研究会編「最新著作権関係判例集T」(抜粋)

以上
                                       

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