12.18/98
原告の第1回目の準備書面。
本書面の日付から明らかな通り、訴え提起(6月25日)から半年も経っている。それは、ひとえに、交渉段階で被告の代理人を務めた弁護士が、鼻くそのような答弁書だけ書いて、さっさと辞任してしまい、その後、被告の後任の代理人がなかなか見つからなかったからです(ふざけるのもほどにせい、と言いたい)。
その意味で、本件の実質的な審理期間は、ほぼ半年です。
事件番号 東京地裁民事第29部 平成10年(ワ)第14180号 著作権侵害差止等請求訴訟事件
当事者 原 告 三谷一馬
被 告 株式会社 新橋玉木屋
訴えの提起 98年6月25日
判決 99年9月28日
平成一〇年(ワ)第一四一八〇号 著作権侵害差止等請求訴訟事件
原 告 三 谷 一 馬
被 告 株式会社 新橋玉木屋
平成10年12月17日
原告訴訟代理人
弁護士
柳 原 敏 夫
東京地方裁判所
民事第二九部 御中
原告準備書面(一)
第一、氏名表示権の侵害の主張の追加
原告は、当初、訴状の第三、被告の無断利用行為のところで、被告の複製権侵害と同一性保持権の侵害を主張したが、被告の侵害行為の全貌を網羅するために、今回、さらに被告による氏名表示権の侵害も主張しておきたい。
すなわち、
被告は、「江戸商売図絵」に収められている原告作成の絵「煮豆売り」(以下本件絵画という)の複製物である訴状添付別紙目録記載の図柄(以下被告図柄という)に、単に原告の氏名をきちんと表示しなかったばかりか、被告自身自認する通り、これに《商号の「玉木屋」》と《玉木屋の家紋を入れ》(被告準備書面・九頁一五行目以下)、あたかも被告或いは被告関係者がその著作者であるかの如き表示をし、このようなものを二年近くにわたって朝日新聞の全国版の広告に使用して(甲第二号証)、広く世間の目に触れるに至ったことは、本件絵画の著作者である原告にとって到底許し難いことであり、原告が本件絵画について有する氏名表示権の重大なる侵害に該当する。
それゆえ、訴状の第八、著作者人格権侵害に基づく謝罪広告の請求のところで、さらに追加として、同一性保持権の侵害のみならずこうした重大なる氏名表示権の侵害に対して、著作者としての名誉を回復するための適切な措置として朝日新聞の全国版に謝罪広告を掲載することが一層相応しいことを主張しておきたい。
また、訴状の第七、原告の損害のところで、二、同一性保持権の侵害に追加して、同一性保持権の侵害のみならずこうした重大なる氏名表示権の侵害に対して、原告の被った精神的苦痛を慰謝するためには、その慰謝料の金額は少なくとも一〇〇万円を下らないことを主張しておきたい(その意味で、請求の趣旨は従前と変わらない)。
第二、被告準備書面(1)について
これに対する原告の正式な反論は、以下に述べる通り、被告の主張の確定をまって行ないたい。ここでは気がついた看過できない点をコメントしておきたい。
一、請求原因に対する答弁について
1、請求原因第四について、被告は以下のように答弁する。
《 第四のうち、原告より被告に対し、要求書、再要求書を送付された事実、原告が東京簡易裁判所に調停の申立をなしたが不調に終わったことを認め、その余は否認又は争う。》(二頁九行目以下)
そうすると、原告の次の主張
《 原告の代理人として弁護士がついて平成八年一二月一三日及び翌平成九年三月五日、代理人名で被告図案の作成経緯を明らかにするよう要求書及び再要求書を送付した際にも、被告はこれを全く無視した。》(訴状六頁一行目以下)
のうち、《被告はこれを全く無視した》の主張に対しても、被告はこれを《否認又は争う》ことになるが、では、いったい被告はこれについてどのような対応をしたのか、具体的に明らかにされたい。とりわけ、今回、被告は、《独自著作の抗弁》なるものを主張するに至った関係で、原告にとって、この点も是非とも知りたいものである。
2、請求原因第五の第一項について、被告は以下のように答弁する。
《原告の本件絵画は単なる模写であり、著作物性はないとの点は認め》(二頁終わりから二行目)
しかし、原告は訴状で、原告の主張として《原告の本件絵画は単なる模写であり、著作物性はない》と主張した覚えは一度もない。これが被告の願望であることは否定しないが、自分の願望をそのまま相手の主張であるかのように見なす乱暴なやり方はもはや慎むべきである。
3、請求原因第五の第二項について、被告は以下のように主張する。
《 原告の主張によれば、単なる模写が成立する余地はなく、殆どすべての模写には創作性が認められることになり不当である。》(三頁三行目以下)
しかし、ちゃんと原告の主張を読んでから批判をして欲しいが、原告がここで言っているのは、著作権法の諸々の文献を吟味検討した結果、
《以上から、模写において、それがガラス板をおいて丹念に技術的に模写するだけのような「機械的模写」でない限り、そこに模写制作者の個性・創作性が認められる》(訴状九頁六行目以下)
ということであり、模写が「機械的模写」か非「機械的模写」かで創作性が認められるかが決まるといっているのであり、ぜんぜん不当ではない。
4、請求原因第五の第三項について、被告は、
《殊更に、本件絵画と原画との違いを浮き上がらせようとして誇張したものとなっており、不当である。》(三頁六行目)
と反発するが、しかし、もしそれが《誇張》だというのであれば、《誇張》であることを被告の側で具体的に示してもらいたい。《誇張》《不当》だけ叫んでも何の反論にならない。そしてまた、被告は、
《請求原因第三で主張する本件絵画と被告図柄との対比における一刀両断的主張とは際立った対照をなしており、我田引水のそしりを免れない。》(同頁八行目)
と反発するが、しかし、本件絵画と被告図柄とは、訴状でも述べた通り、本件絵画を透明フィルムにコピーしたもの(甲第四号証)と被告図柄の拡大コピー(甲第三号証)と重ねてみれば複製であることが良識ある万人にとって一目瞭然なのであって、あくまでも被告図柄の具体的な表現という現実が、我々を否応なしに《一刀両断的》に複製という結論に導くのである。これを《我田引水のそしりを免れない》と嘆いてもしょうがない。
二、被告の主張について
被告の反論の柱は、とりあえず、次の三つになっている。
(1) 被告がいうところの独自著作の抗弁(七〜一〇頁・一五〜一七頁)
(2) 本件絵画と被告図柄との類似性の否定(一一〜一四頁)
(3) 本件絵画の著作物性の否定(本件原画との関係)(一七頁)
しかし、第一にまず、(2)本件絵画と被告図柄との類似性の否定については、既に、被告は今回の被告準備書面(1)で次のように告白している。
《原告の主張するように、被告図柄と本件絵画は、確かによく似てはいる。》(一六頁終わりから二行目)
もし本気で、本件絵画と被告図柄との類似性を争う気ならば、こんなことは決して口にしてはいけない。要するに、被告には、当初から首尾一貫して、両作品の表現形式上の酷似を争う気はもともとないことをここでも白状したのだといえよう。
そして、被告が被告準備書面・の一二頁以下で羅列している両作品の「ちがい」というのも、《点が存在しないか、存在するか》(一二頁ロ)とか《帯の幅が狭いか、広いか》(一三頁ワ)といったまさしく「複製における修正増減」の典型にほかならず、所詮、「同一性の中におけるちがい」にすぎない。
第二に、(3)本件絵画の著作物性の否定(本件原画との関係)について、被告は、《原告は請求原因第五において、詳細な主張を展開している》(一七頁一二行目目)ことに対して、単に
《殊更に、本件絵画と原画との違いを浮き上がらせようとして誇張したものとなっており、不当である。》(三頁六行目)
《一言で言えば、偏見ないし独りよがりのきらいがある》(一七頁一二行目以下)
と、一言しか言わない。これでは何の反論にならないことは前述した通りである。もし被告が本気で、本件絵画の著作物性を否定する積りならば、そのことを具体的に明らかにするしかない。
その意味で、被告が本気で争う気があるのは、残された唯一の論点(1)独自著作の抗弁である。
そこで、原告としては、この最終争点にケリをつけたいと願っているが、しかし、残念ながら、この抗弁について、今回提出された被告準備書面(1)では基本的な事実関係が曖昧にされたままで被告の正確な主張がどうしても掴めない。よって、以下の諸点について、改めて被告の正確な主張を明らかにしていただきたい。その上で、原告は全面的な反論を展開したいと思う。
第三、求釈明
前述した通り、独自著作の抗弁に関する被告準備書面(1)の主張には、諸々の点で基本的な事実関係が曖昧なままになっている。よって、以下の諸点について、明確な事実関係を明らかにされたい。
一、(一)被告図柄の元絵の存在と所在(七頁以下)
1、原画の説明文と創業時の状況
(1)《原画には仮名書きの説明文(甲第七号証)があるが、それを読みかえると創業は越後の百姓とある(乙第八号証)》(七頁終わりから六行目以下)
ここで、《創業は》というのは、「教草女房形気」の中の誰のことについて言っているのか、明らかにされたい。
(2)《初代七兵衛は、故郷越後で禅宗の往持から黒豆を砂糖味で煮ることを伝授され、江戸に出た後、これを「ザゼン、ザゼン」と呼び歩いたのが始まりと言われている。》(七頁終わりから四行目以下)
(a)、《始まり》とは何についての始まりなのか。
(b)、これによると、「座ぜん豆」という言葉の始まりの時期は、初代七兵衛が江戸に出た後のこととなるのか。具体的に、それは天明二年(一七八二年)(被告準備書面・四頁四行目参照)以後ということか。
(c)、《‥‥始まりと言われている》というが、それはいかなる根拠に基づいてそう言われるのか、その根拠を明らかにされたい。
(3)《他の業者は「座ぜん豆」の名称の使用は許されないものである》(八頁四行目)
これは、《「座禅豆」は、現在被告の登録商標商品となって》(同頁三行目)いるから、他の業者はそれを使用することは許されないというごく当たり前のことを言っただけのことか、それとも江戸時代より使用することが許されなかった特別な慣行でもあったという特段の主張をする積りなのか、この点を明らかにされたい。
(4)《このように諸般の状勢を勘案すれば、この原画のモデルは被告の先祖であることはほぼ間違いがなく》(八頁六行目)
ここでいう《被告の先祖》というのは誰のことか、初代七兵衛のことか。
2、被告図柄元絵の存在
(1)《前記のとおり、この元絵(乙第四号証)は被告の創業者玉巻家に永らく収めれれていた。》(八頁一〇行目)
(a)、ここで《永らく収められていた》というが、いったい何時頃から収められていたのか。
また、この元絵について、次の諸点を明らかにされたい。
(b)、その制作時期は何時頃か。
(c)、誰が制作したものか。それはいかなる経歴の人物か、その人物に関する情報。
(d)、さらに、この絵の制作経緯及びこの絵を被告の創業者玉巻家が入手した経緯。
(2)《「貴社(玉木屋)が従来より使用してきた創業者・玉木屋七兵衛のイラストレーションが適当である」と述べられている》(九頁三行目以下)
(a)、ここでいう《イラストレーション》とは何を指すのか。
(b)、また、そのイラストレーションを《貴社が従来より使用してきた》というのは、具体的に何を意味するのか。
(3)《その結果この座禅豆売りの絵画を、デザイン事務所に持ち込んでこれを元に商標化することを依頼した》(九頁七行目以下)
(a)、ここでいう《デザイン事務所》の名称・所在地を明らかにされたい。
(b)、また、既に(株)総合コミュニティーセンターに依頼しておきながら、どうしてさらに《デザイン事務所》に依頼することになったのか。
(4)《このときのデザインの元になった元絵はネガで残してあるが》(九頁末行)
(a)、ここにいう《ネガ》は誰が何時頃、制作したものか。
(b)、また、その制作の目的は何か。
(c)、さらに、《ネガ》そのものを検証物として提出されたい。
(5)《その後、事務所移転等で紛失し》(一〇頁一行目)
(a)、元絵の紛失に気がついたのは何時のことか。
(b)、また、紛失の原因について《事務所移転等》という言い方をしているのはどうしてか。
以 上
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