「エージー出版」無断複製事件

----資料16:出版差止の仮処分決定について司法記者クラブでの発表資料----

5.28/98


コメント


 以下の当事者における無断複製事件に対する東京地裁の出版差止の仮処分決定を司法記者クラブで発表したもので、その際、配布した資料。

 皮肉なことだが、この種の記者会見で口にしてはならないことは、「インターネット」「ホームページ」。我々債権者は、裁判を起こすと同時に、独自にホームページを立ち上げ、インターネットを通じ世界に情報を発信してきたが、この貴重な事実は、既存のメディアの会見の場では、タブーであった。

 この作戦が功を奏したのか(その夜、パキスタンの核実験という電撃的なニュースにもかかわらず)、翌日、読売朝刊で、3段で取り上げられ、債権者一同、喜びを味わった。

事件番号 東京地裁民事第29部 平成10年(ヨ)第22009号 著作権仮処分事件
当事者   債権者 叶精作ほか20名  
       債務者 株式会社エージー出版
            代表取締役 和田光太郎
                    
仮処分の申立  本年2月 3日
仮処分の決定      5月28日 



司法記者クラブ  様

★本件著作権事件の特徴
 事件自体は、イラストの無断出版事件のひとつですが、今回特徴的なのは、それが昨今大きな話題になっているデ
ジタル著作物を食い物にしようとする極めて悪辣な事例であることです。これをひと言でいうと、以下の通り、4つ
の悪辣さを重ねた事例と言えましょう。

1、事件の概要
 平成8年9月ころ、「あなたのCG作品を豪華本でPRしてみませんか」といったふれ込みで、全国中のイラストレー
ター65名からCG作品を無償で提供を受け、同年12月「MAC DE DESIGN Vol.2」という書籍(定価1万6千円)として
日本及び海外で販売していた(株)エージー出版という会社が、その後平成9年8月、中身はそっくりそのまま、題
名と表紙とISBNを変えて「マックでデザイン」という普及版(定価4700円)にして無断で印刷・出版し、販売
し、不法な利益をあげていたものです。
この無断出版が、第1の悪辣。

2、裁判以前の交渉段階
 8月下旬、債権者らのひとりが「マックでデザイン」が書店に並んでいるのを発見し、著作権侵害の事実を知り、
同年11月、債権者らのうち叶精作、塚崎健吾、駄場寛、福間晴耕及び寺田克也5名が、エージー出版に対し、著作権
侵害の抗議と良識ある円満解決を目指した謝罪広告等の和解案の申入れをおこなったところ、エージー出版から、弁
護士名で、「マックでデザイン」を無断で出版した事実は認めたものの、にもかかわらず、肝心の損害賠償や謝罪広
告の要求には一切応じられないという著作権侵害事件としてちょっと信じられないほどの非礼な回答、さらにまた、
実際は債権者らのCG作品のデジタルデータを手元に保存しておきながら
「株式会社エージー出版の保存機器からのデータ削除も完了しておりますのでご心配にはおよびません」
とぬけぬけと虚偽の回答をしたのです。これが第2の悪辣。

3、裁判準備にむけて
 そこで、この5名の債権者らは、エージー出版が著作権無視の横暴な態度を何一つ改める気がないことを悟り、正
式に公的な救済を求めるしかないと決断し、代理人を選任し、同年12月下旬、劇画家及びイラストレーターとして著
名な平田弘史氏及び加藤直之氏の支援の下に、今回、同じく著作権侵害の被害を受けた(日本中に散らばっている)
他の著作権者に対し、訴訟参加の呼びかけを行ない、16名の著作権者(合計21名)がこれに賛同したものです。
 すると、こうした債権者らの動きを知ったエージー出版会社の代表取締役和田光太郎は、そこで債権者らの憤りの
深さを思い知り反省するどころか、こともあろうに、債権者らが訴訟参加を呼びかけた各著作権者に対し、年末から
年始にかけて、負けじとばかりに、電話で本件書籍に関する著作物の利用を事後承諾してほしいと懇請するという、
我々の訴え提起を妨害する行為に出たのです(一定数が集まらないと、差止の仮処分申立を起こせない)。
 これが第3の悪辣。

4、裁判(仮処分事件)
 こうしたエージー出版の妨害行為をはねのけて、本年2月3日、東京地裁民事第29部に、出版差止の仮処分の申立
をするところまでこぎつけ、3月9日から裁判所の審理(審尋)が開始されました。審理の中で、エージー出版の主
張は、予め債権者らの許諾を得ているというものでしたが、それを裏付ける証拠はどこにもなく、彼らの無断出版は
明白でした。 
 そこで、早期に適正な解決を目指した債権者の意向を汲んで、著作権侵害を前提にした、裁判官による和解の話に
入りましたが、結局、エージー出版は初めから誠意ある対応をする気がなかったにもかかわらず、時間稼ぎのため
に、債権者提案の和解を検討する素振りを見せて時間を稼ぎ、5月14日に至るや、突然牙をむき出したかのように、
1.債権者提案の和解には応じられない
2.発売元の証明書を付けて、「マックでデザイン」は既に回収済みで店頭には並んでいない、発売も中止したから、
差止の必要性はなくなった(つまり、差止も認められない)
と言い出したのです。
 ビックリ仰天した債権者らは、即刻、書店を見回り、その結果、今なお、東京、横浜、京都などの大手書店の店頭
に堂々と並べられ、売られているのを発見し、さらに、「発売元あるいはエージー出版から回収の指示はない」こと
も突き止めました。また、債権者のひとりが書店を通じて、「マックでデザイン」を注文したところ、ちゃんと出荷
され、販売されたことまで、つまりエージー出版は発売を全く中止していないことも確かめられたのです。
 こうして、エージー出版は、しまいには、仮処分の決定を免れるために裁判所まで欺こうとして、故意の虚偽の主
張までするに至ったのです。債権者代理人は、これまでこんな悪質な仮処分決定を妨害する行為を見たことがありま
せん。
 これが第4の悪辣。

 それで、債権者らの(憤りが爆発した)反論を受けて、裁判所は、前日の5月26日、審理を終了し、仮処分の決定
を出すことになったものです。

5、本件事件の問題点
 これは単なる無断出版事件ではありません。
 出版差止をくらった相手方であるエージー出版の悪辣な体質ぶりが、コンピュータの発達によりにわかに脚光を浴
びるに至ったデジタル著作物の特徴を(見事!と言っていいくらい)悪用したとき、どんなにひどい著作権侵害行為
がいとも容易に可能になるかを見せつけてくれた、その意味で、デジタル著作物の時代の幕開けにふさわしい象徴的
な著作権侵害事件だということです。
 たとえば、今回、エージー出版は、
1.元本は、海外で販売しており、債権者らのデジタル著作物はいとも簡単に海外に売ったり、利用することができる
こと。
2.それゆえ、エージー出版は、債権者らのデジタル著作物のデータを会社のMOという記憶媒体から削除した、と嘘を
ついてまで、このデータの保存にやっきになったこと。
3.「マックでデザイン」以外にも今回と同様なアイデアでCG作品を無償で提供を受け出版物にしており、今後も、同
様な方法で出版をしていこうと企んでいること(とりもなおさず、今回と同様の手口で無断出版をして不法な利益を
あげようと思っていたのです)

6、今回の教訓
 一番大変だったことは、被害者であるイラストレーターが多数おり、しかも全国に散らばり、お互いに行き来がな
いことでした。
 そのため、いろんな工夫が必要になりましたが、最も強力な武器になったのは、パソコン通信でのパティオ(私設
のミニ会議室)でした。昨年11月に開設して今日まで、毎日のように全国どこからでも議論に参加でき、今日まで、
千件以上の発言がおこなわれました。
 今後ともデジタル時代におけるこのような悪質な著作権侵害に対処していくために、今回の成果や教訓を生かしな
がら、頑張りたいと思います。

以 上 

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