「エージー出版」無断複製事件

----資料10:エージー出版代表者の陳述書----

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コメント
 
 これはイラストの無断出版事件という一見ありふれた著作権侵害事件のひとつにすぎないが、しかし、侵害の目的物がデジタル著作物という20世紀の最大の発明のひとつであったため、それを利用していかに悪辣なことができるか(といってもその全貌が明らかになった訳ではないが)を示した、その意味で、デジタル時代の先駈けを示すような象徴的な事件だった。

だから、この悪辣な事件の情報をできるだけ公開することは、すこぶる意味があると思い、ここに可能な限りの情報を公開する。
実際に、この資料の整理をしてくれたのは、被害者のイラストレーターのひとり塚崎健吾氏であり、この事件のビジュアルな紹介は、彼のホームページ《デジタル時代の著作権》を参照されたい。

このページは、エージー出版の代表取締役和田光太郎氏の陳述書。


事件番号 東京地裁民事第29部 平成10年(ヨ)第22009号 著作権仮処分事件
当事者   債権者 叶精作ほか20名  
       債務者 株式会社エージー出版
            代表取締役 和田光太郎
                    
仮処分の申立  本年2月 3日
仮処分の決定      5月28日


陳述書

           
1、株式会社エージー出版は、平成三年に設立した会社で、
グラフィックの書籍を専門に出版しています。これまで
に出版した書籍はおおよそ三五種類ぐらいです。もっと
も、専門的な書籍なので、各出版物の部数はあまり多く
ありません。
 私は、株式会社エージー出版設立当初より代表取締役
社長を務めています。

2、今回、ハードカバーで製作した「MAC DE DE
SIGN」をさらにソフトカバーとし、「マックでデザ
イン」という題名として販売したことが問題となってい
ますが、このようなことは私どもの業界ではよく行われ
ることです。
 乙第二号証として提出したパンフレットはグラフィッ
ク関連書籍を多数出版している会社のものです。たとえ
ば、11ページの左上の広告は、「ダイアグラム コレ
クション」という三七〇〇円の書籍を紹介するものです
が、ハードカバータイトルとして「DIAGRAM G
RAPHICS Vo11」と紹介されていることから、
同じ内容がすでにハードカバーで出版されていることが
わかります。

3、書籍をハードカバーで出版した後、ソフトカバーとし
て出版するのは、出版社の事情によるものです。
たとえば、半年から一年売れ行きを見て、評判が良い
場合、さらに販路を広げる目的で、普及版としてソフト
カバーの書籍を出版する場合があります。また、売れ行
きが悪く在庫が残ってしまった場合に、在庫処分の目的
で、ハードカバーをはがしソフトカバーとして値段をさ
げ、販売する場合もあります。
 出版社としては少しでも利益を上げたいという気持ち
もありますが、この類の書籍には作家の方々のPRとい
う意味あいもあるため、せっかく企画に賛同して作品を
応募してくださった作家の方々のためにも、少しでも多
く世に出したいと考えて、このような方法をとっている
のです。

4、私は、ハードカバーの書籍をソフトカバーに変えて出
版するについて、業界のすべての会社が、すべての場合
に、作家の方々一人一人にあたって全員から許諾を得て
いるという話しを聞いたことはありません。
 ハードカバーの書籍をソフトカバーに変えて出版する
場合、印刷屋では全く同じ製版を使うという特徴があり
ます。すなわち、ハードカバーの書籍を製作する際には、
出版社でも様々な編集をし、そのうえで、印刷屋にまわ
し、印刷屋で一枚の板に八枚の版を組み込んだ製版を製
作するという過程を経ます。ところが、このソフトカバー
の書籍を出版する場合には、本文についてはハードカバー
の時に作った製版をそのまま便います。だからこそ、廉
価に提供できるわけです。
 このような印刷の事情は、言い換えると、ソフトカバー
の書籍を印刷する場合には、その本の一部だけを掲載し
ないという取扱はできないということを示しています。
かりに一人の作家の二ページ分だけ印刷しないというこ
とになると、そのページを諸めることはできず、その部
分は白紙となってしまい、書籍として成立しなくなるの
です。
このような工程から考えても、ソフトカバーの書籍を
印刷するについて、個々の作家一人一人にご連絡をし、
承諾を得るということは大変難しいことが現状です。

5、本件では、作家の方に、「MAC DE DESIG
N」の企画書に対し応募していただき、この書籍はでき
ました。
この書籍はなかなか好評でしたが、値段が高いため、
じき売れ行きが下火になってきました。
 私としては、利益追及もさることながら、この書籍を
たくさん販売し、作家の方々の作品を世にPRし、啓蒙
し、少しでも作家の方々の仕事に役立てたいという気持
ちから、「マックでデザイン」を出版することとしたわ
けです。
 企画書には、作家の方々のデザイン技術のPRを大き
くうたっています。ソフトカバーの書籍を出版すれば販
路は広がり、よりPRができるので、企画書の趣旨から
して適うことはあってもクレームが出ることはないと思
い、出版したのです。
 また、この本の作家の方々はプロなので、グラフィッ
クの書籍がハードカバーで出版されたあとソフトカバー
になって出版されることを予測しておられると考えられ
ます。そのため、当然承諾の範囲であると考え、ご連絡
をせずに出版しました。

  平成一〇年四月六日
    
      東京都新宿区四谷四丁目一三番六号
      四谷グリーンハイツ2A
            (株)エージー出版 
               代表取締役  和田光太郎

東京地方裁判所民事第二九部 御中