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これはイラストの無断出版事件という一見ありふれた著作権侵害事件のひとつにすぎないが、しかし、侵害の目的物がデジタル著作物という20世紀の最大の発明のひとつであったため、それを利用していかに悪辣なことができるか(といってもその全貌が明らかになった訳ではないが)を示した、その意味で、デジタル時代の先駈けを示すような象徴的な事件だった。
だから、この悪辣な事件の情報をできるだけ公開することは、すこぶる意味があると思い、ここに可能な限りの情報を公開する。
実際に、この資料の整理をしてくれたのは、被害者のイラストレーターのひとり塚崎健吾氏であり、この事件のビジュアルな紹介は、彼のホームページ《デジタル時代の著作権》を参照されたい。
このページは、仮処分申立書に対する相手方エージー出版の答弁書。
以下、塚崎健吾氏のコメントを紹介する。
下記の文書はAG側弁護士遠藤幸子氏が作成提出した答弁書の全文です。
改行など、そのままです。住所等は載せませんでした。
事件番号 東京地裁民事第29部 平成10年(ヨ)第22009号 著作権仮処分事件
当事者 債権者 叶精作ほか20名
債務者 株式会社エージー出版
代表取締役 和田光太郎
仮処分の申立 本年2月 3日
仮処分の決定 5月28日
平成一○年(ヨ)第二二○○九号売掛金請求事件
平成一○年三月九日
〒一○一−○○五二
東京都千代田区◯◯◯◯◯◯◯◯◯
電話 ○三−◯◯◯◯◯◯◯◯◯
フアックス○三−◯◯◯◯◯◯◯◯◯
東京地方裁判所 民事第二九部 御中
第一 申立の趣旨に対する答弁
一 債権者らの請求を棄却する。
二 訴訟費用は債権者らの負担とする。
との裁判を求める。との裁判を求める。
第二 申立の理由に対する答弁
「一当事者」について
認める。
「二権利の目的たる著作物および著作権者」について
1 法人著作
著作者とは著作物を創作した者であり、通常自然人た
る個人である。
本件の場合、法人著作の主張があるが、法人著作が認め
られるためには、さらに要件が必要であるところ、債
権者らはその主張をしていない。
また、その法人名義で公表されることが必要であると
ころ、たとえば、有限会社西日本シールなどは法人名で
公表していない。
2 債権者らの製作部分について
本件のグラフィックは、コンビユーター画面に作出さ
れたものをΜΟ等に固定して提供されており、本件書籍
はその複製物である。
債権者らは、本件書籍の担当ぺ−ジの著作権を主張す
る。しかし、債権者らは、本件グラフィックを製作し提
供したのであって、提供を受けたものを収録し、グラフ
ィックの大きさなどを調整して配列を考え、見開きぺ−
ジに掲載したり、解説文の長短や語調を整え、本件書籍
全体を通して統一性のあるものとしたり、解説文に英文
の翻訳文を付したりして、編集し、本件書籍としたのは
債務者である。この編集には明らかに債務者の創作性が
認められる。
したがって、債権者らが主張する各担当ぺ−ジには、
債務者の著作権も重畳的に発生している。
よって、債権者らの四一パーセントという主張には理
由がない。
3 なお、津熊清嗣の製作部分は三六頁からではなく四○
頁からであるので訂正を求める。
「三債務者の無断出版行為」について
1 複製権
債務者は、企画書(乙第一号証)にしたがって債権者
らの許諾を得て、債権者らの本件グラフィックを複製し
本件書籍とした。
「ΜΑС DΕ DΕSΙGΝ」と「マックでデザイ
ン」は表紙の一部と、題名がローマ字か日本語かという
違いしかない書籍である。書籍自体にも注意書きしてあ
るとおり。内容はもちろん順番などにいたるまで、何の
変更もない。債権者ら自身も認めているように、すべて
中身は同一である。したがつて、「マックでデザイン」
は、いわば「ΜΑС DΕ DΕSΙGΝ」の増刷版で
あって、債権者らの許諾は、「ΜΑС DΕ DΕSΙ
GΝ」のみならず、「マックでデザイン」にも及んでい
る。
したがって、債務者は、「マックでデザイン」を複製
権の範囲で出版したものである。
2 販売先等について
「ΜΑС DΕ DΕSΙGΝ」の日本での定価は一
六○○○円であるが、海外に販売するについては、専門
会社がこの書籍を廉価で買い取り、各国の市場価格で販
売している。
また、「マックでデザイン」は海外で販売していない。
「四債権者らと債務者との交渉」について
1 債権者らのうち五名から平成九年一一月四日付けの申
入書が送付されたこと、それに対して回答したこと、債
務者が本件グラフイックの提供者に、本件のいきさつを
説明し、事後的にではあるが、「マックでデザイン」に
掲載することの承諾を求めたことは認める。
2 債権者らは円満解決をめざした和解案の申し入れを行
ったとするが、その内容は、「マックでデザイン」につ
いての金銭支払ばかりか、すでに無料で提供することを
約束済みの「ΜΑС DΕ DΕSΙGΝ」についての
金銭支払いまで求め、また、関係書籍や雑誌への謝罪広
告などをも要求するもので、とても円満解決をめざした
とはいえないものであった。
3 債権者らの申し入れは、五名の連名であって、その他
の提供者との委任関係等は一切示されていなかったが、
申し入れの内容からは、六○名余りの本件グラフイック
提供者全員を代理するかのごとき口吻が見て取れた。
そのため、債務者としては、五名の申し入れ者に対し
て、五名に関する事実を文書で回答した。
一方、債務者は、「マックでデザイン」の発行につい
て、グラフィック提供者の事前の承諾を得る方が望まし
かったと反省したため、各提供者に対し個別に事情を説
明した。また、債務者は、「マックでデザイン」の発行
を許諾の範囲内と考えていたところ、右のような申し入
れもあったため、事後的になってしまったが、念のため
承諾を書面としていただきたいという申し入れをしたの
である。
4 債務者は、債権者らからΜΟの形で本件グラフィック
の提供を受け、これをコンピユーターに移し、その中で
アレンジをして、書籍の原稿を作成する。そして、その
ようにして作成した原稿をΜΟに移して印刷会社に渡し、
印刷会社はその原稿をもとに製版フイルムを製作して本
の印刷を行う。
このような過程が終了した段階で、債務者は、債権者
らから提供を受けたΜ○はすべて返還している。また、
債務者のコンビユーターからも削除している。
もっとも、書籍の増刷のために、印刷会社に渡したΜ
Οや製版フィルムは印刷会社において保存しているし、
また債務者もバックアップのために印刷会社に渡したΜ
Οのコビーを一部所持している。債務者が「ΜΑС D
Ε DΕSΙGΝ」を出版する権利を有していることは
争いのない事実であり、印刷会社へ渡したΜΟのコピー
を所持することは、その書籍の増刷に不可欠なことであ
るので、このΜΟの所持は債務者の正当な権利行使であ
る。
したがって、債権者らの主張するデータを消却してい
ないという非難が、もし、印刷会社へ渡したΜΟやその
コビーを意味するのであれば、債権者らの主張こそ、権
利の濫用であり、失当である。
5 申立書六ページ一一行目から七ぺ−ジ一一行目は、事
実無根の債務者に対する誹誹中傷で考って、債務者の名
誉を毀損するものであるので、撒回を求める。
「五」について
争う。
以上