2.3/98
コメント
これはイラストの無断出版事件という一見ありふれた著作権侵害事件のひとつにすぎないが、しかし、侵害の目的物がデジタル著作物という20世紀の最大の発明のひとつであったため、それを利用していかに悪辣なことができるか(といってもその全貌が明らかになった訳ではないが)を示した、その意味で、デジタル時代の先駈けを示すような象徴的な事件だった。
だから、この悪辣な事件の情報をできるだけ公開することは、すこぶる意味があると思い、ここに可能な限りの情報を公開する。
実際に、この資料の整理をしてくれたのは、被害者のイラストレーターのひとり塚崎健吾氏であり、この事件のビジュアルな紹介は、彼のホームページ《デジタル時代の著作権》を参照されたい。
このページは、98年2月3日に、東京地裁に出版差止を求めて仮処分の申立てを行なった仮処分申立書。
事件番号 東京地裁民事第29部 平成10年(ヨ)第22009号 著作権仮処分事件
当事者 債権者 叶精作ほか20名
債務者 株式会社エージー出版
代表取締役 和田光太郎
仮処分の申立 本年2月 3日
仮処分の決定 5月28日
当事者の表示 別紙当事者目録記載の通り別紙当事者目録記載の通り
著作権侵害差止仮処分申立事件
一、債務者は、別紙著作物目録記載の著作物を出版、販売又は頒布をしてはならない。
二、債務者の別紙著作物目録記載の著作物の製品、半製品及び紙型の占有を解いて、
東京地方裁判所執行官にその保管を命ずる。東京地方裁判所執行官にその保管を命ずる。
との裁判を求める。
一、当事者
別紙当事者目録記載の二一名の債権者らは、デザイナー、漫画家、或いはイラスト
レーターを職業とする個人又は法人であり、債務者は書籍の出版・販売を主たる業務
内容とする法人である。
二、権利の目的たる著作物及び著作権者
債権者らはいずれも、左記の通り、別紙著作物目録記載の著作物(以下本件書籍と債権者らはいずれも、左記の通り、別紙著作物目録記載の著作物(以下本件書籍という。疎甲第一号証)に掲載された美術著作物の著作権者である(以下、これらの美術著作物を総称して本件著作物という)。本件著作物は、「マックでデザイン」という題名からも明らかな通り、コンピュータを使って美術著作物を制作した、いわばデジタル著作物であり、そのトータルは本件書籍に掲載した著作物のうち約四一%(合計一一四頁÷総頁数二七六頁=〇・四一三〇‥‥)を占める。
本件書籍の掲載頁 著作権者
六〜七頁 藤森美能
三六〜四三頁 津熊清嗣
四四〜四七頁 鴨原幸男(ラックワン)
五六〜六一頁 有限会社阪田量士写真事務所
七四〜七七頁 オプテック株式会社
七八〜七九頁 UFOデザインこと花城俊司
八二〜八三頁 有限会社西日本シール(PlanningStudioS&C)
一〇〇〜一〇一頁 福間晴耕
一〇二〜一〇五頁 駄場寛
一四二〜一四三頁 株式会社アイ・キユー
一五四〜一七五頁 叶精作
一七六〜一七九頁 上口睦人(上口デザイン研究室)
一八四〜一八五頁 株式会社プレストジャパンアート
一九八〜一九九頁 横山弥生
二〇二〜二〇五頁 塚崎健吾
二二二〜二二三頁 株式会社八木スタジオ
二二六〜二三七頁 唯登詩樹こと加藤正
二三八〜二三九頁 寺田克也
二四〇〜二四九頁 細井敏昭(クリエイト・システム・サポート)
二五〇〜二六一頁 遊佐光明
二六八〜二六九頁 福間晴耕
二七八〜二八一頁 谷口広樹
三、債務者の無断出版行為
平成八年九月ころ、債権者らは債務者の求めに応じて、本件著作物を「MAC平成八年九月ころ、債権者らは債務者の求めに応じて、本件著作物を「MACDEDESIGN
Vol.2」という書籍(以下本件出版物という。疎甲第二号証)に掲載することを同意し、本件出版物は平成八年一二月二〇日、債務者より日本のみならず海外
において定価一万六千円の豪華本として出版された。なお、本件出版物はデジタルイ
ラストの普及と啓蒙を謳い、及び債権者らのデザイン技術のプロモーションを目的と
するものであったので、債権者らは本件出版物の出版にあたって著作権使用料を取らなかった。
ところが、その後、債務者は、この種の出版物が商売になることを知って、今度ところが、その後、債務者は、この種の出版物が商売になることを知って、今度は、本件出版物を表紙と題名だけ変更し、中身をそっくりそのままの形で本件出版物の廉価版(定価四七〇〇円)として出版することを企画し、平成九年八月三一日、本
件書籍を、債権者らをはじめとする本件出版物に掲載した著作権者たちに何のことわりもなく無断で、同じく日本のみならず海外において出版し、これにより少なからぬ不当な利益をあげたものである。
四、債権者らと債務者との交渉
その後、債権者らは、平成九年八月下旬、債権者らのひとり叶精作がたまたま本件その後、債権者らは、平成九年八月下旬、債権者らのひとり叶精作がたまたま本件書籍が書店に並んでいるのを見て初めて本件著作権侵害の事実を知り、同年一一月四日、債権者らのうち叶精作、塚崎健吾、駄場寛、福間晴耕及び寺田克也五名は、債務者に対し、著作権侵害の抗議と良識ある円満解決を目指した謝罪広告等の和解案の申入れをおこなった(疎甲第三号証)。
しかし、これに対し、債務者から、同年一一月一四日、弁護士名で、本件書籍を債しかし、これに対し、債務者から、同年一一月一四日、弁護士名で、本件書籍を債権者らに無断で出版した事実は認めたものの、にもかかわらず、肝心の損害賠償や謝罪広告の要求には一切応じられないという著作権侵害事件としてちょっと信じられない非礼な回答、さらにまた、実際は本件著作物のデータを債務者の元に保存しておきながら「保存機器からのデータ削除は完了しております」という虚偽の回答をする(その理由については、疎甲第五号証塚崎陳述書の3頁の(4)で説明)という回答書が届けられた(疎甲第四号証)。
そこで、この五名の債権者らは、債務者が根本的にはこうした著作権無視の横暴なそこで、この五名の債権者らは、債務者が根本的にはこうした著作権無視の横暴な態度を何一つ改める気がないことを悟り、かくなる上は、正式に公的な救済を求めるしかないと決断し、そこで、代理人を選任し、同年一二月下旬、劇画家及びイラストレーターとして著名な平田弘史氏及び加藤直之氏の支援の下に、今回、同じく著作権侵害の被害を受けた(日本中に散らばっている)他の著作権者に対し、訴訟参加の呼びかけを行ない(疎甲第六号証の一〜三)、その結果、一六名の著作権者がこれに賛同したものである。
すると、こうした債権者らの動きを知った債務者会社の代表取締役和田光太郎は、すると、こうした債権者らの動きを知った債務者会社の代表取締役和田光太郎は、そこで債権者らの憤りの深さを思い知り反省するどころか、こともあろうに、債権者らが訴訟参加を呼びかけた各著作権者に対し、年末から年始にかけて、負けじとばかりに、電話で本件書籍に関する著作物の利用を事後承諾してほしいと懇請するという行為に出たのである(疎甲第五号証塚崎陳述書の5頁参照)。
こうした行動のうちには、債務者の著作権無視の横暴な本質が余すところなく見てこうした行動のうちには、債務者の著作権無視の横暴な本質が余すところなく見て取れる。さらに、日本の著作権者には手の届かない海外において、堂々と海賊版同然の販売行為を行なう点においても悪質なこと極まりない。その上、債務者は、今回の出版物を足がかりに、もっかこの種の書籍の刊行を積極的に進めており、再びこうした無断出版行為がくり返される虞れが大いにある(疎甲第五号証塚崎陳述書の6頁参照)。それゆえ、債権者らは、そもそもの無断出版行為といい、その後の非礼な回答書といい、さらにこのたびの厚顔無恥な著作権者らの抱き込み工作といい、海外での海賊版同然の行為といい、首尾一貫して著作権を無視して止まない債務者の横暴で悪質な行為を断じて容認することができない。
のみならず、本件の著作物は、デジタル著作物としてコンピュータにより誰でも容のみならず、本件の著作物は、デジタル著作物としてコンピュータにより誰でも容易に複製・加工・編集ができるという特質を有しており、それゆえ、これだけ堂々と首尾一貫して著作権侵害を実行し、今なおデジタル著作物のデータの削除に関し真っ赤な嘘をついている債務者に対して、本件の著作権侵害以外にも、債務者の元でひそかに保存されている本件著作物のデータそのものが、債権者らが知ることが極めて困難な形で、例えば海外などでひそかに販売されているのではないかという大いなる危惧を抱かざるを得ない。
五、そこで、債権者らは、本件がデジタル時代におけるこうした新たな著作権侵害問題をはらんだ重要な事件であることを自覚し、一方で、インターネット上に「デジタル時代の著作権問題
デジタルアーティストは著作権侵害といかに闘うべきか----AG出版「マックでデザイン」問題-----」というホームページを開設し(そのURLは
http://www.bekkoame.or.jp/~kengyu/cyosaku.html)、デジタル著作物をめぐるこのような悪質極まりない著作権侵害事件の根絶を目指して世界に向けてアピールしていくと同時に、他方で、司法的救済を受けるため、債務者に対し、本件書籍の出版差止及び損害賠償請求の訴を提起する準備をしているが、しかし、本案判決をまっては差止の実効は得ず、また債権者らが回復し難い損害を被ることは必至である。
よって、債権者らは、さしあたり著作権者の地位を保全するため、本申立に及んだよって、債権者らは、さしあたり著作権者の地位を保全するため、本申立に及んだ次第である。
以 上
一、疎甲第一号証 債務者発行の別紙著作物目録記載の書籍
二、疎甲第二号証 債務者発行の書籍「MAC DE DESIGN Vol.2」
三、疎甲第三号証 五名の債権者ら作成の申入書及びその配達証明書の一、二
四、疎甲第四号証 債務者の代理人弁護士鳥飼重和ら作成の回答書
五、疎甲第五号証 債権者塚崎健吾作成の陳述書
六、疎甲第六号証 五名の債権者ら代理人弁護士柳原敏夫、劇画家平田弘史及びイラ
ストの一〜三 レーター加藤直之作成の呼びかけ文
一、委任状 二一通
一、会社の登記簿謄本 七通
平成一〇年二月三日
東京地方裁判所
民事部第二九部 御中
Copyright (C) daba