「エージー出版」無断複製事件

----資料5:支援者のメッセージ(加藤直之氏)----

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コメント

 これはイラストの無断出版事件という一見ありふれた著作権侵害事件のひとつにすぎないが、しかし、侵害の目的物がデジタル著作物という20世紀の最大の発明のひとつであったため、それを利用していかに悪辣なことができるか(といってもその全貌が明らかになった訳ではないが)を示した、その意味で、デジタル時代の先駈けを示すような象徴的な事件だった。

だから、この悪辣な事件の情報をできるだけ公開することは、すこぶる意味があると思い、ここに可能な限りの情報を公開する。
実際に、この資料の整理をしてくれたのは、被害者のイラストレーターのひとり塚崎健吾氏であり、この事件のビジュアルな紹介は、彼のホームページ《デジタル時代の著作権》を参照されたい。

このページは、97年12月に、この事件を知ったイラストレーター加藤直之氏(このホームページのメニューにある、私のイラストの作者でもある)が書いた支援のアピール文。


事件番号 東京地裁民事第29部 平成10年(ヨ)第22009号 著作権仮処分事件
当事者   債権者 叶精作ほか20名  
       債務者 株式会社エージー出版
            代表取締役 和田光太郎
                    
仮処分の申立  本年2月 3日
仮処分の決定      5月28日 



加藤直之氏のメッセージ

「MAC DE DESIGN Vol.2」に参加された皆さん、はじめまして。
私は、日本出版美術家連盟という、主にエディトリアルの世界でイラストを描いてい
る画家の組織で理事として、著作権や契約問題など、画家の権利を守るための活動を
しています。同時に、同じように、クリエーターの権利を守るために組織された、画
家、デザイナー、イラストレーターの各団体が参加する日本美術著作権連合の理事も
勤めています。もちろん、常に被害者というわけではなく、著作権そのものを広く世
間に認知してもらうために、写真家、小説家や脚本家、学者、CD-ROM制作者、そして
出版社(出版社にも守るべき著作権はあるのです)の組織とも連絡を取り合いなが
ら、著作権の啓蒙活動にも勤めています。

私自身も、個人として過去25年ほど、出版
の世界で仕事をしており、多くの雑誌や単行本、そして各種イベントで自分のノウハ
ウを公開しています。もちろん、中にはタイアップということでノーギャラで引き受
けたものもあり、今回の「MAC DE DESIGN Vol.2」のような仕事もありましたが、基
本的には、どれも、引き受ける時にきちんと条件を検討し、両者納得した上でのもの
であり、自分の知らない間に体裁が変えられて勝手に本が出版されていたなんてこと
はありませんでした。ふつう、力のある出版者は、本の出版も長いスパンで考え、最
初は赤字でも、長く売ることによって黒字に持っていったり、他のより売れる本で赤
字の穴埋めをしたりしてトータルで儲けを出すように経営していきます。しかし大手
でないところは、損益分岐点や粗利、純益が出るまでを、前もって計算し企画をたて
ます。今回、AG出版が最初に企画した「MAC DE DESIGN Vol.2」は定価を高くするこ
とで赤字にならないようにしています。しかし、作品を流用した「マックでデザイ
ン」は当然ながら編集代、製版代がいっさいかかりません。これは出版者にとっては
非常に「おいしい」話しです。私が過去に画集を出版してきた場合では、こういった
時、ロイヤリティ(印税率)がアップしました。今回の本を、作品の広告と考えてお
られる方にとっては関係ないかも知れませんが、著作権の使用料でもって生活してい
る方にとっては、それは財産権の侵害となります。今回、裁判に訴えようとしている
方たちの金銭面での要求は、正当な使用料の請求や著作者人格権侵害に対する慰謝料
だけとなっていますが、過去のこういった事例では、正当な著作権使用料だけでな
く、出版者の純利益分まで、著作者側に支払いを命じるそうです。出版者が持つ「出
版権』というのは、非常に強い権利として法律に定められておりますが、いったんそ
れを裏切った場合、重い罰を与えるようにも定められています。以下にその一部を紹介します。

出版者から著作者にロイヤリティ(ギャラ)が支払われる許諾契約なら出版者から著作者にロイヤリティ(ギャラ)が支払われる許諾契約なら

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著作権法第八一条(出版の義務)
二当該著作物を慣行に従い継続して出版する義務

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とあるように、出版の継続は正当な行為ですが、

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第八二条(著作物の修正増減)
(1)著作者は、その著作物を出版権者があらためて複製する場合には、正当な範囲内
において、その著作物に修正又は増減を加えることがbナきる。
(2)出版権者は、その出版権の目的である著作物をあらためて複製しようとするとき
は、そのつど、あらかじめ著作者にその旨を通知しなければならない。

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ともあります。私は、自分の作品がどういった媒体にどういったタイミングで発表さ
れるかを厳密に自分のコントロールの下においています。これはライバル関係にある
クライアントから複数、仕事を貰うための、過去の苦い経験から学んだ知識であり、
ノウハウであり、法律もそれを保証しているのです。無料での広告であるというな
ら、半年以上も経過していながら著作者の意思(住所情報も非常に大事な要素です)
を確認しないまま出版することは、広告主を裏切ることであり、自らの提案、約束
(ビジネス)を果たしていないことになります。実際に叶精作さんは出版の通知も受
けず、住所も古いものがそのまま印刷されていました。さらに今回の本が、掲載者の
作品の広告であるなら

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第八四条(出版権の消滅の請求)
(3)複製権者である著作者は、その著作物の内容が自己の確信に適合しなくなつたと
きは、その著作物の出版を廃絶するために、出版権者に通知してその出版権を消滅さ
せることができる。ただし、当該廃絶により出版権者に通常生ずべき損害をあらかじ
め賠償しない場合は、この限りでない。

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と条文にあるとしても、今回の本を広告と考えるのであれば、広告主は何の賠償金
も支払わずに、自分の広告を打ち切る権利を持っていると考えたいところです。出版
社や印刷所は、次の仕事の依頼を期待して、版を保管している場合が多いようです
が、それはあくまで、次の依頼が来たときのためのもので、依頼や新たな契約がない
のに、それを使用し、出版してしまうのは、非常に悪質な著作権財産権、著作者人格
権の侵害といえるでしょう。すでにこの件を日本美術著作権連合に報告し、所属団体
の理事の全員の賛同を得て、被害者の皆さんの応援をすることを決定しております。
今回の本を無料の広告と考える皆さんも、実際に侵害されて、被害を受けた方々の気
持ちを汲みとっていただいて協力くださるよう、ぜひお願いいたします。

SF画家         
日本SF作家クラブ会員
日本出版美術家連盟理事、日本美術著作権連合理事
                           加藤直之