「ときめきメモリアル・メモリーカード」事件(一審)

----平成9年11月27日大阪地裁判決----

11.27/97


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 一昨年96年11月27日、人気ゲームソフト「ときめきメモリアル」の内容が無断で変更されたとして、ゲームのデータを保存したメモリーカードを輸入販売した「スペックコンピュータ」を相手に、損害賠償と謝罪広告を求めて、大阪地裁に提訴
ちょうど、その1周年の97年11月27日、その判決があった。以下は、この裁判の判決全文。

事件番号 大阪地裁民事第21部 平成8年(ワ)第12221号 損害賠償等請求事件
当事者   原告  コナミ株式会社  
       被告 スペックコンピュータ株式会社
            
訴提起     96年11月27日
判  決      97年11月27日 


平成8年(ワ)第12221号 損害賠償等請求事件
                      判  決

兵庫県神戸市中央区港島中町七丁目三番地の二


原       告     コ ナ ミ 株式会社
右代表者代表取締役   上  月   景  正 
右訴訟代理人 弁護士   柳  原   敏  夫

福岡県福岡市中央区大名一丁目九番三三号

被       告    スペックコンピュータ株式会社
右代表者代表取締役  永  山    久
右訴訟代理人弁護士   山  本   紀  夫
        同      山  本   智  子
      同    高  崎   玄 太 朗

                       主  文
一 被告は、原告に対し、金一四万六〇〇〇円及びこれに対する平成八年一二月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用はこれを一〇分し、その一を被告の、その余を原告の各負担とする。
四 この判決は、第一項に限り仮に執行することができる。

                     事実及び理由
第一 請求の趣旨
 一 被告は原告に対し、金一〇一四万六〇〇〇円及びこれに対する平成八年一二月二七目(訴状送 達の目の翌目)から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
 二 被告は、朝目新聞(全国版)、読売新聞(全国版)、毎目新聞(全国版)及び日本経済新聞(全国版)にそれぞれ一回ずつ、別紙目録一記載の謝罪広告を別紙目録二記載の条件で掲載せよ。
 三 第一項につき仮執行宜言

第二 事案の概要
一 事実関係
1 原告は、コンピュータ用ゲームソフト及びその他のアミューズメント機器」を製作、販売することを主たる業務内容とする法人であり(争いがない)、その発意に基づき、従業員にコンピュータ用ゲームソフト「ときめきメモリアル」(以下「本件ゲームソフト」という)を職務上作成させ、平成六年五月二七日、ゲーム機「PCエンジン」用のゲームソフトとして、原告の著作名義の下に公表し、発売した。そして、その後、原告は、本件ゲームソフトにつき、平成七年一〇月一三日、「ときめきメモリアル〜forever with you〜」という題名でゲーム機「プレイステーション」版を、平成八年二月九日、「ときめきメモリアル〜伝説の樹の下で〜」という題名でゲーム機「スーパーファミコン」版を発売した(甲一の1・2、弁論の全趣旨)。
 原告が本件ゲームソフトについて著作者人格権及び著作権を有することは、当事者間に争いがない。
2 本件ゲームソフトの内容は、ゲームを行う者(以下「プレイヤー」という)が架空の高校「きらめき高校」の高校生となって、設定された登場人物の中から憧れの女生徒とする人物を選択し、卒業式の当目、伝説の樹の下でこの女生徒から愛の告白を受けること(ハッピーエンディング)を目指して、高校三年間の様々な出来事、行事等を通して、憧れの女生徒に相応しい能力を備えるための努力を積み重ねるという恋愛シミュレーションゲームである(争いがない)。
 本件ゲームソフトのプログラムを実行すると、次のような形でゲームが展開していく(甲一一、検甲一、二)。
 (1) 序(はじめ)
 まず、プレイヤーの名前(姓・名・あだ名)、誕生目及び血液型を入力する。
 プレイヤーの能力は、体調、文系、理系、芸術、運動、雑学、容姿、根性、ストレスの九つの要素について数値で表される(以下、この数値を「パラメータ」という)ところ、ゲームのスタート時点において、予めその初期値が体調100、文系40、理系40、芸術40、運動40、雑学32、容姿60、根性5、ストレス0に設定されている。
 (2) 破(中)
 憧れの女生徒から愛の告白を受けるという目的を達成するために、プレイヤーは高校三年問の間に、次のようなプレイを行う。
1一週間を一単位として、平目には、勉強(文系、理系、芸術)・運動・部活・おしやれ・遊び・休養の各コマンドのいずれかを選択して、憧れの女生徒に相応しい形でプレイヤー白身の能力を高める。その結果、ゲームのスタート時点で予め設定されているパラメータが上昇する(但し、ストレスのパラメータは、休養コマンドの選択により下降するが、その他のパラメータも変化する。例えば、文系のコマンドを選択すると、文系のパラメータは上昇するが、ストレスのパラメータも上昇する。また、休養のコマンドを選択すると、ストレスのパラメータは下降するが、容姿等のパラメータも下降する)。
2同じく一週間を一単位として、休目には、右1のコマンドの外、電話・デートの各コマンドのいずれかを選択することができる。デートのコマンドを選択した場合、相手の発言に対して返答を要する場面や行動を決定しなければならない場面が設定されていることがあり、その際のプレイヤーの選択の内容いかんによって、プレイヤーに対する女生徒の評価が変化する。
 その他、学校行事(テスト、体育祭、文化祭等)をきちんとこなすことによってもプレイヤーに対する女生徒の評価が変化する。
 また、平日に女生徒と一緒に下校したり(同伴下校)、女生徒の誕生目にプレゼントを渡すということも可能であり、その際のプレイヤーの選択の内容いかんによって、プレイヤーに対する女生徒の評価が変化する。
 なお、パラメータは、画面上部の「プレイヤーのステータス表示部」に表示され、常時確認することができるし、プレイヤーに対する女生徒の評価は、親友に電話をするというコマンドを選択し、親友から女生徒の問での評判を聞くという形で確認することができる。
  (3) 急(おわり)
 右(2)のプレイを続けた結果、憧れの女生徒から愛の告白を受けることができるか否かが判定される。判定に当たっては、@パラメータが憧れの女生徒に相応しい数値まで高まったかどうか、A「デートの回数・中身、学校行事(テスト、体育祭、文化祭等)への取組みの中身、健康状態(ノイローゼや病気のチェソク)、同伴下校やプレゼントの中身、他の女生徒の評価などの諸要素」が一定の条件を満たしているかどうかを総合して考慮され、条件を満たしていれば愛の告白を受けることができるという形(ハッピーエンディング)でゲームが終了するが、条件を満たしていなければ、親友と家路につくという形でゲームが終了することになる。
3 被告は、平成七年二一月頃から、「X−TERMINATOR PS版 第2号ときメモスペシヤル」という商品名のメモリーカード(以下「本件メモリーカード」という)を輸入し、目本国内で販売した(争いがない)。
 本件メモリーカードは、データの記憶単位であるブロヅクの1ないし13に、それぞれ本件ゲームソフトで使用される九種類のパラメータがデータとして収められたものであり、プレイヤーは、本件ゲームソフトのプログラムを実行するに当たり、本件メモリーカードの任意のブロック内のデータをゲーム機「プレイステーション」のハードウェアに読み込んで、そのデータを利用することができる。
二 原告の請求
  原告は、
1 本件メモリーカードは、本件ゲームソフトのストーリーの重要不可欠な骨格部分を著しく改変するものであり、その製作、輸入、販売行為は、本件ゲームソフトの映画の著作物としてのストーリーを改変し、原告の有する同一性保持権を侵害するものである(著作権法二〇条一項、一二二条一項二号)、
2 本件メモリーカードに保存されている「藤崎詩織」のキャラクターのアイコンは、原告が本件ゲームソフト用に作成した「藤崎詩織」のキャラクターのアイコンと同一であり、その使用につき原告の承諾を得ていないから、本件メモリーカードの製作、輸入、販売行為は原告の有する複製権を侵ものである(著作権法二一条、一一三条一項一号・二号)
と主張して、同一性保持権及び複製権の侵害につき民法七〇九条に基づき損害賠償を、同一性保持権の侵害につき著作権法一一五条に基づき別紙目録の謝罪広告を別紙目録二記載の条件で掲載することを求めるものである。
 なお、本件メモリーカードに保存されている「藤崎詩織」のキャラクターのアイコンが本件ゲームソフト用に作成された「藤崎詩織」のキャラクターのアイコンと同一であることは、当事者間に争いがない。

第三 争点
一 本件メモリーカードは、本件ゲームソフトの映画の著作物としてのストーリーを改変し、同一性保持権を侵害するものであるか。
二 右一の点が肯定されたとして、本件メモリーカードを輸入、販売した被告が、侵害行為の主体であるということができるか。
三 被告が同一性保持権、複製権侵害の不法行為責任を負う場合に、原告に対して暗償すべき損害の額等。

第四 争点に関する当事者の主張
 一 争点一(本件メモリーカードは、本件ゲームソフトの映画の著作物としてのストーリーを改変し、同一性保持権を侵害するものであるか)について
【原告の主張】
1 本件ゲームソフトのストーリーは、一面において、各プレイヤーの選択により、体調、文系、理系、芸術、運動、雑学、容姿、根性、ストレスの九つの要素についてのパラメータの変化の仕方、瞳れの女生徒として選択した登場人物とのデートの仕方、学校行事のクリアの仕方が様々に異なるものとなることは当初から予定されているものであるが、反面、このストーリーのうち、スタートが高校入学の時点(一九九五年四月四目)であり、高校三年間の様々な出来事を経て、ラストである卒業式当目(一九九八年三月一日)に至るという時間的な枠組みがあること、九種類のパラメータはスタート時において原告が予め設定した低い数値から始まることは、各プレイヤーの選択によっても異なることのない固定された部分として創作されたものに外ならないから、「予め設定された低い数値からスタートして、高校三年間の間、憧れの女生徒に相応しい形でプレイヤー白身の能力を高めるためのプレイを行い、それによって能力の数値を上昇させていく」という部分、及び「高校三年間の間、デートの回数・中身、学校行事(テスト、体育祭、文化祭等)への取組みの中身、健康状態(ノイローゼや病気のチェック)、同伴下校やプレゼントの中身、他の女生徒の評価などの諸要素について、憧れの女生徒に必要な水準にまで達するように工夫を凝らしてプレイする」という部分は、本件ゲームソフトの恋愛シミュレーションを楽しむ上で重要不可欠な骨格をなすものである。
2 本件ゲームソフトのプログラムを実行することにより、映像としてモニターに、音としてスピーカーに出力されるところのもの(アウトプット)は、映画の著作物に当たるところ、本件メモリーカードを使用することにより、次の(1)、(2)のとおり、ストーリーの右骨格部分が改変されるから、本件メモリーカードは、本件ゲームソフトの映画の著作物としての同一性保持権を侵害するものであることが明らかである。
(1)まず、本件メモリーカードのブロック1ないし11に収められているデータを使用することによって、本件ゲームソフトのストーリーのうち「序(はじめ)」の部分が改変される。
すなわち、前記のとおり、「序(はじめ)」において、プレイヤー白身の能力値を示す九種類のパラメータが予め低い数値に設定されているところ、本件メモリーカードのブロック1ないし11のデータを使用すると、これらのパラメータの数値が、プレイヤーが「破(中)」において殆どプレイをする必要がないくらい、憧れの女生徒に相応しい形で与えられる。例えば、憧れの女生徒が「藤崎詩織」である場合、ブロック1のデータを使用すれば、入学して一週間足らずの時点(一九九五年四月九目)において、体調999、文系999、理系999、芸術999、運動999、雑学899、容姿999、根性999、ストレス0というように、ストレスを除いて本件ゲームソフトがもともと設定している数値と比較して驚異的な高レベルの数値が与えられる。
憧れの女生徒が「藤崎詩織」以外である場合は、ブロック2から11までのデータを使用すると、各パラメータについて、それぞれの女生徒に相応しい数値が与えられる。このように、本件メモリーカードを使用することにより、ゲームのスタート時点で既に憧れの女生徒に相応しい形で必要な数値が与えられるのであり、それは、本件ゲームソフトが予定している「予め設定された低い数値からスタートして、高校三年間の間、憧れの女生徒に相応しい形でプレイヤー白身の能力を高めるためのプレイを行い、それによって能力の数値を上昇させていく」というストーリーの骨格部分を根本から破壊するものであるから、本件ゲームソフトが到底許容しえないストーリーの改変に外ならない。
 加えて、「序(はじめ)」においてプレイヤーの名前(姓・名・あだ名)を入力することは、主人公であるプレイヤーに個性を持たせ、プレイヤーの本件ゲームソフトに対する感情移入度を高め、ゲーム進行状況に応じて呼ばれ方が変わってくる(「姓」君→「名」君など)ため、プレイヤーにより高い現実性を与え、本件ゲームソフトに対する思い入れを深くするという意味があるところ、本件メモリーカードのブロック1から11までのデータを使用すると、主人公の名前とあだ名がそれぞれ「ときメモ」「コナミ」と既に設定されてしまうから、感情移入度を高める等のために主人公の名前とあだ名の決定はプレイヤーの自由に委ねるという本件ゲームソフトのストーリーの骨格にかかわる部分を改変しているものといわざるをえない。
(2)本件メモリーカードのブロック12、13に収められているデータを使用することによって、本件ゲームソフトのストーリーのうち「序(はじめ)」及び「破(中)」の部分が改変される。
 すなわち、本件メモリーカードのブロック12、13のデータを使用すると、ブロック1ないし11のデータを使用した場合と同様、「序(はじめ)」において、予め低い数値に設定されているプレイヤー白身の能力値を示す九種類のパラメータが、プレイヤーが「破(中)」において殆どプレイをする必要がないくらい、憧れの女生徒(ブロック12であれば「伊集院レイ」、ブロック13であれば「藤崎詩織」)に相応しい形で高レベルの数値が与えられる(例えば、ブロック13では、体調999、文系998、理系998、芸術998、運動997、雑学894、容姿868、根性987、ストレス0)。したがって、これは、本件ゲームソフトが予定している「予め設定された低い数値から出発して、高校三年間の間、憧れの女生徒に相応しい形でプレイヤー白身の能力を高めるためのプレイを行い、それによって能力の数値を上昇させていく」というストーリーの骨格部分を根本から破壊するものであるから、本件ゲームソフトが到底許容しえないストーリーの改変に外ならない。
 のみならず、ゲームのスタート時点が高校の卒業(一九九八年三月一目)間際の一九九八年二月二二目(ブロツク12)又は同月二五目(ブロック13)に飛び、残りの一週間を適当にプレイすれば、必ず憧れの女生徒(「伊集院レイ」又は「藤崎詩織」)から愛の告白を受けること(ハソビーエンディング)ができるようになっている。つまり、ブロツク12、13には、画面上には表示されないのでプレイヤーには見えないが、憧れの女生徒(「伊集院レイ」又は「藤崎詩織」)から愛の告白を受けるために必要な項目である「デートの回数・中身、学校行事(テスト、体育祭、文化祭等)への取組みの中身、健康状態(ノイローゼや病気のチェツク)、同伴下校やプレゼントの中身、他の女生徒の評価などの諸要素」について、一定の条件を満たすようにデータが収められているのである。したがって、これは、本来、本件ゲームソフトが最も魅力的なストーリーとして予定していた「高校三年間の間、デートの回数・中身、学校行事(テスト、体育祭、文化祭等)への取組みの中身、健康状態(ノイローゼや病気のチェック)、一同伴下校やプレゼントの中身、他の女生徒の評価往どの諸要素について、憧れの女生徒に必要な水準にまで達するように工夫をこらしてプレイする」という部分、つまり、プレイヤーにとって腕の見せどころであり、本件ゲームソフトの映画の著作物としてのストーリーの骨格中の骨格ともいうべき最重要部分を完全に骨抜きに(省略)するものであり、まさに本件ゲームソフトが絶対許容しえないストーリーの改変に外ならない。
3 本件メモリーカードが本件ゲームソフトの映画の著作物としてのストーリーを改変するものであることは、本件メモリーカードのパッケージ裏の「使用方法」の説明箇所に、「5、ひとつ、または複数のゲーム改造データが画面上に表示されます。」「7、これで改造されたゲームがプレイできます。」と記載され、同じくパッケージ裏の「注意事項」の説明箇所に「●X−TERMINATOR PS版内蔵のゲーム改造コードは、」「●X−TERMINATOR PS版を読み込んで改造ゲームプレーを行ったあと、」と記載されていることからも明らかである。
【被告の主張】
1 本件メモリーカードに収められているのは単なるゲームのデータであって、本件ゲームソフトのプログラムそれ白体に変更、切除その他の改変を加えるものではない(東京地裁平成七年七月一四目判決・判例時報一五三八号二〇三頁)。
2 原告は、本件メモリーカードを使用することによりストーリーの骨格部分が改変されるから、本件メモリーカードは本件ゲームソフトの映画の著作物としての同一性保持権を侵害するものであると主張する。
 しかしながら、シミュレーションゲームの場合、そもそも各種パラメータの組合せによって極めて多種多様なストーリーの展開が予定されている。本件メモリーカードに収められた各データを本件ゲームソフトの実行に当たって入力しても、プログラムが停止したり、暴走したりせずに、正常にゲームが進行できるのであるから、本件メモリーカードは本件ゲームソフトが本来的に許容する範囲内のデータを提供するに止まるのであり、その意味で、本件メモリーカードを使用して本件ゲームソフトを実行した結果は、本件ゲームソフトが予定した客観的に展開可能な多種多様のストーリーの範囲内にあるといえる。したがって、本件ゲームソフトの実行の結果展開されるストーリーが映画の著作物として認められるとしても、本件メモリーカードは、そのストーリーの無断改変行為として同一性保持権を侵害するものではない。
 先例のビデオゲーム「パックマン」の場合、「ビデオゲームの影像によって表現された思想、感情は、例えば諭説、小説、劇映画等に表現されたものと比べれば、著作者の人格との結びつきは比較的弱い」とされている(東京地裁平成六年一月三一目判決・判例時報一四九六号一一一頁)ところ、本件ゲームソフトは、右のとおりシミュレーションゲームであって、その実行の結果展開されるストーリーはそもそも多種多様であることが想定されているから、比較的単純なゲームであるビデオゲーム「パックマン」の場合以上に著作者の人格との結びつきは弱いというべきである。
 原告が主張するところは、ゲーム制作者がこのようにして遊んでほしいという主観的な「思い入れ」としては理解できるが、現実の間題として、ゲーム、とりわけシミュレーションゲームの場合、プレイヤーの主体的な参加なしではゲーム自体が成り立たず、プレイヤーによって多様なパラメータが入力されることが本来予定され可能である以上、プレイヤーがゲーム制作者の「思い入れ」と異なるパラメータを入力することをもってストーリーの改変であると評価することは相当でなく、そのような「思い入れ」は映画の著作物としての同一性保持権により保護されるべきものであるとまではいえない。
 本件は、劇映画、小説、音楽等の改変とは異なるのである。
二 争点二(右一の点が肯定されたとして、本件メモリーカードを輸入、販売した被告が、侵害行為の主体であるということができるか)について
【原告の主張】
1右一の【原告の主張】のとおり、本件メモリーカードは本件ゲームソフトのストーリーの骨格部分を改変し、本件ゲームソフトの映画の著作物としての同一性保持権を侵害するものであり、右改変により同一性保持権を侵害した者は本件メモリーカードの製作者であるから、これを輸入、販売した被告も著作権法一二二条一項一号・二号により同一性保持権侵害の責任を免れない。

(1)被告は、木件メモリー力ードを使用して本件ゲームソフトのプログラムを実行することが本件ゲームソフトの映画の著作物としての同一性保持権を侵害するものであるとしても、そのようなゲームを行っているのは個々一のプレイヤーであって本件メモリーカードを輸入、販売した被告ではないから、被告は侵害行為の主体ではないと主張するが、著作権法における侵害行為者は誰であるかについて、「現実の改変行為者=法律上の改変行為者」という観点に立った誤った解釈に外ならない。
被告は、著作権法における侵害行為者の意義をもっぱら即物的、現実的な観点から観察すれば足りると考えているようであるが、仮にその考え方に従うとすると、たとえば、キャバレーでバンドが著作権者に無断で演奏する場合に、著作権侵害者は実際に演奏しているバンドであって、キャバレーの営業主ではないということになってしまうし(しかし、「中部観光」事件名古屋高等裁判所昭和三五年四月二七目判決では、もちろんキヤバレーの営業主に責任を認めている)、出版仕が印刷所に対しいわゆる海賊版の印刷を発注する場合も、著作権侵害者は現実に複製行為を行っている印刷所であって、発注した出版社ではないということになってしまう。侵害行為者が誰であるかを考えるとき、事態をただ即物的、現実的に観察するのではなく、あくまでも、著作権法の理念・目的に照らして価値的。評価的に構成することが要請されるのである。すなわち、加戸守行(現行著作権法の起草の中心人物)著・著作権法逐条講義改訂新版五一六頁の記載からも明らかなように、著作権法上の侵害行為者は誰であるかを考えるに当たっては、事態をただ即物的、現実的に観察して、現実の行為者と法律上の行為者とが必ず一致する、と当然のように考えてはならず、@その行為について支配権を有しているのは誰かという観点、及びAその行為によって経済的利益が儒属する主体は誰かという観点から、侵害行為者の意義を)評価・構成する必要があるのである。こうして、著作権法における「侵害行為者」とは、「そういう観点から、著作権侵害の行為者として法律上評価されるのは、その行為について支配権を有しその行為による経済的利益が帰属する主体と解されましょう。」(右同頁)という正当な結諭が導かれるのである。
(2)本件の場合、@本件メモリーカードを使用して本件ゲームソフトのストーリーを改変している行為について支配権を有しているのは、これを製作、販売(輸出)している製作者であって、個々のプレイヤーではない。個々のプレイヤーは、本件メモリーカードを素材にして自由に修正・加工して、製作者が設定した使用方法とは別なプレイヤー独自の使用方法を実行しているわけではなく、単に本件メモリー力ードをそのままゲーム機に挿入して使うだけのことであり、あくまでも、製作者が設定した使用方法に従っその範囲内で楽しんでいるにすぎない。また、A本件メモリーカードの利用によって経済的利益が帰属する主体も、本件メモリーカードをビジネスとして製作、販売(輸出)している製作者である。
したがって、本件ゲームソフトの映画の著作物としてのストーリーの無断改変行為を行った者は、本件侵害行為について支配権を有し、本件侵害行為による経済的利益が帰属する主体である本件メモリーカードの製作者であるという外ない。それゆえ、著作権法一一二条一項一号・二号により、右製作者から本件メモリーカードを輸入し、これを国内で販売した被告もまた、著作者人格権侵害の責任を免れないのである。
(3)被告は、被告と個々のプレイヤーとの関係は、キヤバレーの営業主とそこで演奏しているバンドとの関係、出版仕と印刷所との関係とは明らかに異なる旨主張する。
しかし、著作権侵害の法律上の行為者と現実の行為者とが一致しないのは、キヤバレーの営業主とそこで演奏しているバンドのように雇用関係に立つ場合だけに限定されるものではなく、それ以外にも例えば印刷を発注する出版社と印刷所のように委託・受託の関係に立つ場合も含むのであって、その意味で、著作権侵害行為者とは、前記のとおり、あくまでも著作権法の理念・目的に照らして「その行為について支配権を有しその行為による経済的利益が帰属する主体」のことを指すのである。そして、「その行為について支配権を有しその行為による経済的利益が帰属する主体」の意義について、これを一般的に定義する必要は全くなく、あくまでもキヤバレーの営業主とそこで演奏しているバンドや、印刷を発注する出版仕と印刷所や、本件メモリーカードの製作・販売者と個々のプレイヤーという個々の事例において、そのいずれが、これに該当するかさえ判断できれば足りるのである。したがって、これら二者のうち、いずれがその侵害行為を実現するに当たって支配権(イニシアチブ)を有しているか、その侵害行為によって経済的利益を得ているかを考えさえすればよいのであり、本件では、本件メモリーカードの製作・販売者が侵害者であることは明らかである。
もし個々のプレイヤーが侵害者であるとすると、原告は全国に散らばる個々のプレイヤー一人一人を被告としてしらみつぶしに同一性保持権侵害による損害賠償請求等の訴訟を起こさざるをえなくなる。著作権法三〇条二項の規定の仕方から明らかなように、そのような途方もない大量の裁判を著作権法が予定しているとは到底考えられない。
(4)従前、音楽CDや映画ビデオについて著作者人格権の侵害が問題となるときには、現実の改変行為者と法律上の改変行為者とが一致しないケースはなかった。無断で改変された音楽あるいは映画そのものがCDやビデオに収録されて製作・販売され、現実の改変行為者=法律上の改変行為者であったからである。これは、CDプレーヤーやビデオカセヅトレコーダー等のこれまでの再生機器が音楽CDや映画ビデオの中身を直接再生処理するものであったことによる。ところが、著作者人格権の侵害が問題となった本件において現実の改変行為者と法律上の改変行為者とが一致しないケースが生じたのは、ひとえにコンビュータという新しい再生装置の特殊性のためである。すなわち、コンビュータは、プログラムの中身(命令やデータ)を、いったんRAM(Ramdom Access Memory)というメモリに保存し、その上でCPUにより演算処理するという、これまでの再生機器には見られない特異なシステムをとる。したがって、本件ゲームソフトと本件メモリーカードを同時に実行すると、RAM上には本件ゲームソフトを構成するプログラム(命令)と映像及び音のデータの外に、本件メモリーカードのデータも保存され、RAM上でこれらがCPUによって演算処理され、その結果が映像及び音としてモニターやスピーカーに出力される。そのため、本件ゲームソフトー白体には何らの改変を加えなくても、本件メモリーカードを同時に実行することによって、つまり、RAM上に本件メモリーカードのデータを追加)することによって、RAM上に保存される本件ゲームソフトの命令とデータの構造を改変することができ、その結果、モニターやスピーカーに出力される映像や音のレベルにおいて、本件ゲームソフトのみを実行したとき出力される映像や音とは異なるものが得られるのである。
このように、木件メモリーカードは、従来の再生機器ではありえなかった、RAMというメモリの特性をフルに活用した新しい改変のスタイルといえるが、それはゲームソフトの著作者にとって、古典的な改変の場合と同様、決して容認できない。なぜなら、ゲームソフトを作成する者にとって、でき上がった作品の意義は、あくまでプレイヤーが鑑賞するモニターやスピーカーに出力された映像や音のレベルにあり、それゆえ、著作者にとっては、音楽CDや映画ビデオにおける改変の場合のようにCDやビデオのレベルで改変が行われようが、本件のように(予めゲームソフトのレベルで改変されるのではなく)再生機器中のRAMというメモリのレベルで改変が行われようが、それがモニターやスピーカーに出力された映像や音を改変してしまうものである以上、等しく許し難いことだからである。
【被告の主張】
1 仮に原告の主張とおり本件メモリーカードを使用して本件ゲームソフトのプログラムを実行することが本件ゲームソフトの映画の著作物としての同一性保持権を侵害するものであるとしても、そのようなゲームを行っているのは個々のプレイヤーであって本件メモリーカードを輸入、販売した被告ではないから、被告は侵害行為の主体ではない。
2 被告と個々のプレイヤーとの関係は、原告の挙げるキャバレーの営業主とそこで演奏しているバンドとの関係とは明らかに異なる。キャバレーの営業主とそこで演奏しているバンドとの間には、事実上の支配従属、指揮監督の関係が認められるがゆえに、原告主張のようにバンドによる無断演奏につきキャバレーの営業主に著作権侵害の責任が認められるのである。出版仕と印刷所との関係も、印刷所は印刷内容について出版仕によって全面的に支配されているという点で、同じである。これに対して、被告と個々のプレイヤーとの間には、右のような関係がないことは明らかであり、個々のプレイヤーは、ゲームの進行について被告によって全面的に支配されてはいないのである。個々のプレイヤーが被告の施設内で、又は被告の所有するゲーム機を利用してゲームを行っているのであれば格別、被告が支配する施設とは全く無縁のところで、プレイヤー白身の所有するゲーム機を使用してゲームを行っているのであるから、原告の主張はその前提を欠くというべきである。
たとえ、個々のプレイヤーを被告として同一性保持権侵害による損害暗償請求等の訴訟を起こすことが煩雑であるとしても、右の結諭に何らの影響はない。権利者の一方的便宜のためだけに侵害者の定義を変えることはできないからである。
三 争点三(被告が同一性保持権、複製権侵害の不法行為責任を負う場合に、原告に対して賠償すべき損害の額等)について
【原告の主張】
1 原告は、被告による同一性保持権、複製権侵害の不法行為により、次のとおり、合計一〇一四万六〇〇〇円の損害を被った。)
(1)原告は、本件ゲームソフトの映画の著作物としてのストーリーを改変されたことにより、恋愛シミュレーションゲームとしての態をなさないまでに本件ゲームソフト本来のゲーム展開を著しく損なわれ、著しい精神的苦痛を被った。これを慰謝するに足る慰謝料の金額は一〇〇〇万円を下らない。
(2)本件ゲームソフトのキャラクターを他社が複製頒布して使用することを原告が許諾する場合、その使用料は通常、複製物一個当たり商品価格の七%であるから、「藤崎詩織」のキヤラクターの使用料相当額も、本件メモリーカード一個当たり二〇八・六円(商品価格二九八○円×七%)が相当であるところ、被告が現在までに輸入した本件メモリーカードは七〇〇本を下らないから、原告が被告に請求できる使用料相当額の損害は一四万六○○○円を下らない。
2 被告は、原告の有する著作者人格権(同一性保持権)を侵害したものであるから、原告は、右1(1)の損害賠償とともに、著作者としての名誉を回復するための措置として、朝目・読売・毎目・日本経済の各新聞に別紙目録一記載の謝罪広告を別紙目録二記載の条件で揚載することを求める。

第五 争点に関する当裁判所の判断
一 争点一(本件メモリーカードは、本件ゲームソフトの映画の著作物としてのストーリーを改変し、同一性保持権を侵害するものであるか)について
1 まず、証拠(検甲一、二)及び弁諭の全趣旨によれば、本件ゲームソフトのプログラムを実行することにより、映像としてモニターに、音としてスビーカーに出力されるところのものは、通常の映画と比べて映像の連続的な動きという点では格段に劣るものではあるが、一応「映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現され、かつ、物に固定されている」(著作権法二条三項)ということができるので、映画の著作物に準ずる著作物に当たるということができる。
2 前記第二の一2のとおり、本件ゲームソフトの内容は、ゲームを行うプレイヤーが架空の高校「きらめき高校」の高校生となって、設定された登場人物の中から憧れの女生徒とする人物を選択し、卒業式の当日、伝説の樹の下でこの女生徒から愛の告白を受けること(ハッピーエンディング)を目指して、高校三年間の様々な出来事、行事等を通して、憧れの女生徒に相応しい能力を備えるための努力を積み重ねるという恋愛シミュレーションゲームであり、本件ゲームソフトのプログラムを実行すると、同(1)ないし(3)のような形でゲームが展開していくものであるところ、証拠(甲六のー・2、検甲一ないし三)及び弁論の全趣旨によれぱ、その際本件メモリーカードを使用すれば、次のようにゲームが展開するものであることが認められる。
(1)本件メモリーカードのブロック1ないし11に収められているデータを使用すると、本来、一九九五年四月四目の高校入学の時点における初期値が体調100、文系40、理系40、芸術40、運動40、雑学
32、容姿60、根性5、ストレス0として設定されている九種類のパラメータの数値が、入学後一週間足らずの一九九五年四月九目の時点において、例えばブロック1のデータでは、「藤崎詩織」に合ったステータスでゲームをプレイできるとして、ストレス0以外はすべて999という形で与えられ、ブロック2のデータでは、「紐緒結奈」に合ったステータスでゲームをプレイできるとして、体調99、文系0、理系999、芸術O、運動O、雑学O、容姿999、根性O、ストレス0という形で与えられる。
 また、本来であれば、ゲームのスタート時点においてプレイヤーの名前(姓・名・あだ名)を入力することになるところ、本件メモリーカードのブロック1ないし11のデータを使用すると、プレイヤー
の名前が「ときメモ」、あだ名が「コナミ」として既に設定されている。
(2)本件メモリーカードのブロック12、13に収められているデータを使用すると、ゲームのスタート時点が高校の卒業(一九九八年三月一目)間際の一九九八年二月二二日(ブロツク12)又は同月二五日(ブロツク13)に飛び、その時点において、九種類のパラメータが、ブロック12のデータでは、「伊集院レイ」の「エンディング直前データ」として、体調999、文系998、理系999、芸術998、運動998、雑学873、容姿849、根性973、ストレス0という形で与えられ、ブロック13のデータでは、「藤崎詩織」の「エンディング直前データ」として、体調999、文系998、理系998、芸術998、運動997、雑学894、容姿868、根性987、ストレス0という形で与えられる。しかも、画面上には表示されないのでプレイヤーには見えないが、憧れの女生徒(「伊集院レイ」又は「藤崎詩織」)から愛の告白を受けるために必要な項目である「デートの回数・中身、学校行事(テスト、体育祭、文化祭等)への取組みの中身、健康状態(ノイローゼや病気のチェック)、同伴下校やプレゼントの中身、他の女生徒の評価などの諸要素」について、一定の条件を満たすようにデータが収められており、残りの一週間を適当にプレイすれば必ず憧れの女生徒(「伊集院レイ」又は「藤崎詩織」)から愛の告白を受けること(ハッピーエンディング)ができるようになっている。
 また、ブロック1ないし11に収められているデータを使用した場合と同様、プレイヤーの名前が「ときメモ」、あだ名が「コナミ」として既に設定されている。
 3
(1)  しかして、右2(1)のように、本件メモリーカードのブロック1ないし11に収められているデータを使用すると、本来、一九九五年四月四日の高校一入学の時点における初期値が体調100、文系40、理系40、芸術40、運動40、雑学32、容姿60、根性5、ストレス0として設定されている九種類のパラメータの数値が、入学後一週間足らずの一九九五年四月九日の時点において、例えばブロック1のデータでは、藤崎詩織に合ったステータスでゲームをプレイできるとして、ストレス0以外はすべて999という形で与えられ、ブロック2のデータでは、「紐緒結奈」に合ったステータスでゲームができるとして、体調99、文系O、理系999、芸術O、運動O、雑学O、容姿999、根性O、ストレス0という形で与えられることについて、原告は、本件メモリーカードを使用することにより、ゲームのスタート時点で既に憧れの女生徒に相応しい形で必要な数値が与えられるのであり、それは、本件ゲームソフトが予定している「予め設定された低い数値からスタートして、高校三年間の間、憧れの女生徒に相応しい形でプレイヤー自身の能力を高めるためのプレイを行い、それによって能力の数値を上昇させていく」というストーリーの骨格部分を根本から破壊するものであるから、本件ゲームソフトが到底許容しえないストーリーの改変に外ならないと主張する。
 しかしながら、本件メモリーカードにより、右のようなパラメータの数値についてのデータを本件ゲームソフトのプログラムの実行に当たって入力しても、本件ゲームソフトのプログラム白体が書き換えられるわけではなく、しかもプログラムが停止したり暴走したりすることなく、正常にゲ
ームを進行することできるから、本件メモリーカードに収められたデータは、本件ゲームソフトの
プログラムの許容する範囲内であるといわざるをえない。そして、本件ゲームソフトの内容は、前示のような恋愛シミュレーシヨンゲームであり、憧れの女生徒から愛の告白を受けることを目指して、プレイヤー白身が種々のコマンドを選択してゲームを進めていくというものであるから、本件ゲームソフトのプログラムを実行することにより展開されるところは、多種多様のものであることが本来予定されており、固定されたものではないところ、本件メモリーカードのブロック1ないし11に収められているデータを使用しても、プレイヤーは、一九九五年四月九日のスタート時点からほぼ三年間のプレイを行うのであり、しかも、前記第二の一2(3)のとおり、ゲームの最終局面において憧れの女生徒から愛の告白を受けることができるか否かの判定に当たっては、前記九種類のパラメータが憧れの女生徒に相応しい数値にまで高まったかどうか、という要素だけではなく、「デートの回数・中身、学校行事(テスト、体育祭、文化祭等)への取組みの中身、健康状態(ノイローゼや病気のチェック)、同伴下校やプレゼントの中身、他の女生徒の評価などの諸要素」が一定の条件を満たしているかどうかが総合して考慮されるのであるから、右のような一九九五年四月九日時点におけるパラメータの数値設定が、本件ゲームソフトのプログラムの実行による本来のゲーム展開にどのように影響し、これを変化させ、最終局面においてどのように右判定に影響するのか、本件全証拠によるも不明であり、結局、本件ゲームソフトが予定しているストーリーを改変するものであると認めるに足りる証拠はない。
また、本来であれば、ゲームのスタート時点においてプレイヤーの名前(姓・名・あだ名)を入力することになるところ、本件メモリーカードのブロック1ないし11に収められているデータを使用すると、プレイヤーの名前が「とき メモ」、あだ名が「コナミ」として既に設定されていることにつき、原告は、「序(はじめ)」においてプレイヤーの名前(姓・名・あだ名)を入力することは、主人公であるプレイヤーに個性を持たせ、プレイヤーの本件ゲームソフトに対する感情移入度を高め、ゲームの進行状況に応じて呼ばれ方が変わってくる(「姓」君→「名」君など)ため、プレイヤーにより高い現実性を与え、本件ゲームソフトに対する思い入れを深くするという意味があるため、主人公の名前とあだ名の決定はプレイヤーの白由に委ねるという本件ゲームソフトのストーリーの骨格にかかわる部分を改変している旨主張する。
しかしながら、証拠(甲一〇、一一、検甲一)及び弁論の全趣旨によれば、本件ゲームソフトの「プレイステーション」版に適応するゲーム機「プレイステーション」には、メモリーカードの挿入口が設けられ、これに挿入するメモリーカード(記憶単位が1から15まで一五ブロックある)も同時に市販されているところ、本件ゲームソフトは高校三年間という舞台設定によりプレイ時間が非常に長くなるため、プレイヤーが一時プレイを中断したいとき、このメモリーカードを使用すれば、それまでプレイした結果のデータを保存(セーブ)し、後刻ないし後日プレイを再開する際、メモリー力ードに保存されているデータをゲーム機で読み込む(口ード)ことにより、中断時の状況からプレイを続行することができることが認められる。したがって、既にプレイヤーの名前(姓・名・あだ名)が入力された状態でプレイを始める(再開する)ことは本件ゲームソフトの予定したところであり、そのプレイヤーの名前の入力を、プレイヤー自身によってメモリーカードに保存されたデータを読み込むことによってするか、他人によってメモリーカードに保存されたデータを読み込むことによってするかはプレイヤー自身の選択に委ねられているといわざるをえず、更に、その他人によってデータの保存されたメモリーカードとして、本件メモリーカードのように市販されたものを使用することも、プレイヤー自身の選択に委ねられているといわざるをえないから、本件メモリーカードのブロック1ないし11に収められているデータの使用によりプレイヤーの名前が「とき メモ」、あだ名が「コナミ」として既に設定されていることによって、本件ゲームソフトのストーリーを改変しているということはできない。
(2)前記2(2)のように、本件メモリーカードのブロツク12、13に収められているデータを使用すると、ゲームのスタート時点が高校の卒業(一九九八年三月一目)間際の一九九八年二月二二日(ブロ
ック12)又は同月二五日(ブロツクー13)に飛び、その時点において、九種類のパラメータが、ブロック12のデータでは、「伊集院レイ」の「エンディング直前データ」として、体調999、文系998、理系999、芸術998、運動998、雑学873、容姿849、根性973、ストレス0という形で与えられ、ブロック13のデータでは、「藤崎詩織」の「エンディング直前データ」として、体調999、文系998、理系998、芸術998、運動997、雑学894、容姿868、根性987、ストレス0という形で与えられ、しかも、画面上には表示されないのでプレイヤーには見えないが、憧れの女生徒(「伊集院レイ」又は「藤崎詩織」)から愛の告白を受けるために必要な項目である「デートの回数・中身、学校行事(テス卜、体育祭、文化祭等)への取組みの中身、健康状態(ノイローゼや病気のチェック)、同伴下校やプレゼントの中身、他の生徒徒の評価などの諸要素」について、一定の条件を満たすようにデータが収められており、
残りの一週間を適当にプレイすれば必ず憧れの女生徒(「伊集院レイ」又は「藤崎詩織」)から愛の告白を受けること(ハッピーエンデイング)ができるようになっていることにつき、原告は、右(1)冒頭の主張と同様の主張に加えて、これは、本来、本件ゲームソフトが最も魅力的なストーリーとして予定していた「高校三年間の間、デートの回数・中身、学校行事一テスト、体育祭、文化祭等)への取組みの中身、健康状態(ノイローゼや病気のチェック)、同伴下校やプレゼントの中欺、他の女生徒の評価などの諸要素について、憧れの女生徒に必要な水準にまで達するように工夫をこらしてプレイする」という部分、つまり、プレイヤーにとって腕の見せどころであり、本件ゲームソフトの映画の著作物としてのストーリーの骨格中の骨格ともいうべき最重要部分を完全に骨抜きに(省略)するものであり、まさに本件ゲームソフトが絶対許容しえないストーリーの改変に外ならないと主張する。
しかしながら、高校の卒業(一九九八年三月一目)間際の一九九八年二月二二目(ブロツク12)又は同月二五日(ブロツク13)の時点において、憧れの女生徒(「伊集院レイ」又は「藤崎詩織」)から愛の告白を受けるために必要な項目である「デートの回数・中身、学校行事(テスト、体育祭、文化祭等)への取組みの中身、健康状態(ノイローゼや病気のチェック)、同伴下校やプレゼントの中身、他の女生徒の評価などの諸要素」について、一定の条件を満たすようなデータになっており、残りの一週間を適当にプレイすれば必ず憧れの女生徒(「伊集院レイ」又は「藤崎詩織」)から愛の告白を受けること(ハッピーエンディング)ができるというゲームの展開状況は、本件ゲームソフトが予定している多種多様のゲーム展開のうちの一つとして当然予定されているところといわざるをえず、かかる時点、状況におけるデータをメモリカードに保存することも、そのようなハッビーエンディング直前のデータが既に入力された状態でプレイを始める(再開する)ことも本件ゲームソフトの当然予定したところであり、そのハッピーエンディング直前のデータの入力を、プレイヤー自身によってメモリーカードに保存されたデータを読み込むことによってするか、他人によってメモリーカードに保存されたデータを読み込むことによってするかはプレイヤー自身の選択に委ねられているといわざるをえず、更に、その他人によってデータの保存されたメモリーカードとして、本件メモリーカードのように市販されたものを使用することも、プレイヤー自身の選択に委ねられているといわざるをえないから、本件メモリーカードのブロック12、13に収められているデータを使用するとハッピーエンディング直前データが与えられることをもって、本件ゲームソフトのストーリーを改変しているということはできない(原告自身も、本件ゲームソフトの解説書〔甲一〇〕において、「エンディングを一度見た後も楽しみたいなら、システムファイルの保存をお薦めします。」と記載して、メモリーカードに保存することにより、高校三年間のゲームをプレイすることなくハッビーエンデイングのみを繰り返して楽しむ方法を明記しており、そのような本件ゲームソフトの使用の仕方を許容していることが明らかである)。
なお、本件メモリーカードのブロック12、13に収められているデータの使用によりプレイヤーの名前が「とき メモ」、あだ名が「コナミ」として既に設定されていることによって、本件ゲームソフトのストーリーを改変しているといえないことは、前記(1)末尾説示のとおりである。
4 以上のとおりであるから、本件メモリーカードは、本件ゲームソフトの映画の著作物としてのストーリーを改変し、同一性保持権を侵害するものであるとはいえない。したがって、右同一性保持権侵害の不法行為を理由として損害の賠償及び謝罪広告の掲載を求める請求は、争点二について検討するまでもなく、理由がないといわなけれぱならない。
二 争点三(被告が同一性保持権、複製権侵害の不法行為責任を負う場合に、原告に対して賠償すべき損害の額等)について
 本件ゲームソフト用に作成された「藤崎詩織」のキャラクターのアイコンは、本件ゲームソフトにおける「藤崎詩織」という人物の容ぼうを創作的に表現した著作物というべきところ、本件メモリーカードに保存されている「藤崎詩織」のキャラクターのアイコンは、右の本件ゲームソフト用に作成された「藤崎詩織」のキャラクターのアイコンと同一であることは、前記のとおり当事者間に争いがなく、証拠(甲九のー・2)及び弁論の全趣旨によれぱ、被告は、「藤崎詩織」のキャラクターのアイコンの使用について原告の許諾を得たものでないことを知りながら、一九九五年(平成七年)一二月一九日に四〇〇個、一九九六年(平成八年)一一月一八日に三〇〇個の本件メモリー力ードを輸入し、これを販売したものと認められるから、被告は、著作権法一二二条一項一号・二号により、原告の有する複製権を侵害したものとみなされ、原告に対して損害賠償責任を負うものといわなければならない。
そして、証拠(甲六の1、九のー)によれば、本件メモリーカードの販売価格は一個当たり二九八○円であることが認められ、また、弁論の全趣旨によれば、本件ゲームソフトのキャラクターを他社が使用することを原告が許諾する場合、その使用料は通常複製物一個当たり商品価格の七%であることが認められるから、被告は、原告に対して、使用料相当額の損害金として、原告の請求する合計一四万六〇〇〇円(二九八○円×七%×七〇〇個)を支払うべき義務があるというべきである。
第六 結論
よって、原告の請求は、複製権侵害の不法行為に基づき金一四万六〇〇〇円の賠償を求める範囲で認容し、その余は棄却することとし、主文のとおり判決する(なお、仮執行の宣言につき、仮執行免脱の宣言は相当でないから、その申立を却下することとする)。

大阪地方裁判所第二一民事部

         裁判長裁判官  水 野   武

              裁判官  田 中   俊

              裁判官  小 出  啓 子

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