著作権侵害仮処分決定の記者発表資料

----タイガーマスク無断続編作成事件----
東京地裁平成5年(ヨ)第2538号著作権侵害差止仮処分申請事件

7.01/94


コメント
 3年半前、漫画「タイガーマスク」の無断続編の企画が進められているという話を聞いたとき、「そんなアホな!」とまともに信じなかった。ところが、我々の警告にも関わらず、その後、その企画が実現されると言う話を聞いたとき、これは著作権ビジネスの世界の外側の連中の仕業なのではないかと、事態の容易ならざることを初めて思い知らされるに至ったのです。
 そのため、この事件は徹底的にやるしかないと思った。その詳細は、今後掲載するケーススタディ『「タイガーマスク」無断続編事件』(事件の分析)の中で取り上げますが、確か、審理の途中で、我々の主張を全面展開した準備書面を読んだ相手方代理人がつかつかと私の席に歩み寄ってきて、ニッコリ「センセエ、やりましたね」なんて、笑いかけられたのを憶えています。

 しかし、真の敵は裁判所であって、裁判所はいくら今回の事態がひどすぎるからといって、それだけで我々を勝たせるわけにはいかないという態度を表明したのです(法による裁判を義務づけられていて、情による裁判を禁じられている以上、当然のことではあるのですが)。
 まだ著作権事件の経験が浅かった本件の担当裁判官は、果して本件を翻案権侵害としていいのか分からないと率直に認め、そこで、もう相手方は白旗をあげておるというのに、双方に対して「あらゆる文献を引用して徹底的に論議したい」と申し出たのです。

 しかし、学界に引用するに値するような文献なんてひとつもなかったのです。こうして、裁判所のみならず、法曹界も学界も本件のようなキャラクターの利用が翻案権侵害に該当するかどうかの判断基準をまったく持ち合わせていないという、ちょうど11年前の大河ドラマの著作権侵害事件の時と同じような無法状態があらわにされたのです。
そこで、私としては、あの大河ドラマの著作権侵害事件の時と同じように、また例によって、漫画家の人の話を聞いたり、同じ翻案権侵害のドラマの時の翻案権侵害の判断基準を漫画に応用できないかと思案したりして(もっとも、絵の苦手な私はさすがに自分で漫画を書く修行までは積まなかった)、今度はキャラクターにおける翻案権侵害の判断基準なるものをでっち上げることに専念したのです。こうして、1年がすぎていったのです。
 しかし、裁判官はなかなか決断を下さなかった。そこで、最後のダメ押しをするしかないと腹を括って、現場の漫画家の人たちは本件の無断続編の作成のことを一体どう考えているかという「制作現場の人たちの無意識の確信」なるものを裁判所に伝えることにしたのです。ちばてつやさんたちの協力を得て、ニッポン中の漫画家に本件に対するアンケートの依頼をし、回収したアンケートを裁判所に提出して、最後の決断を迫ったのです。その結果が、出版差止という今回の仮処分の決定でした。
 こうして、裁判所が厳しい注文を突きつけてきたお陰で、はからずも最後の土壇場に至って、沢山の漫画家の人たちと協力・交流する機会を得ることになりました。
 決定が出た日、アンケートに協力してくれた漫画家の人たちと記者会見に臨み、そのあと、近くのホテルで祝杯をあげ、みんなで一緒に喜びを分かち合うという、最高の瞬間を味わいました。

 以下の文章は、当日、記者会見の前に、司法記者クラブに配布した文書です(この模様は、翌朝の各社新聞に載りました)。

事件番号 東京地裁民事第29部 平成5年(ヨ)第2538号 著作権侵害差止仮処分事件 
当事者 債権者 辻なおき
債務者 真樹日佐夫ほか2名
申立 93年 5月23日
決定 94年 7月 1日 申立を認める。
  


プロレス漫画の代表作 『 タ イ ガ ー マ ス ク 』の 無 断
続 編 作 成 行 為に対する 出 版 差 止の仮処分決定が出る !

《キャラクターの著作権保護に関する「サザエさん」事件以来の画期的判断》
《本日の記者会見には、石ノ森章太郎氏、ちばてつや氏らも出席》

1、記者会見の日時・場所
 本日午後3時より、司法記者クラブにて。
  出席者:辻なおき本人の外、いがらしゆみこ、石ノ森章太郎、上田トシコ、
     ちばてつや、水島新司、水野英子の各氏


2、著作権の画期的な仮処分決定
 本日1日(金)、東京地裁民事29部より、昨年5月21日に申立をした漫画 「タイガーマスク」の無断続編作成の禁止を求める仮処分事件に対して、1年余りの審理の末、出版差 止の決定が出ました。
 この決定は、漫画「タイガーマスク」の無断続編作成及び 出版行為を著作権侵害と認めたもので、わが国で、名作漫画などの無断続編作成 行為が著作権侵害となるか否かについての初の司法判断ということになります。
また同時に、キャラクターの著作権保護という点においても、これまで「サザエ さん」事件や「ポパイ」事件のように、たんなる1枚の漫画の利用をめぐるもの でしかなかったのに対し、今回は、続編という1つの作品全体の利用をめぐって 著作権侵害が認められたという意味でも、画期的な意義を有するものです。
 加えて、昨今、名作漫画の続編を漫画はもとより、小説や映画やファミコンな どによって無断で作成する悪質なケースが増えており、漫画家の著作権が侵害さ れる問題が深刻化しています。それだけに、この「タイガーマスク」事件は漫画 界全体が大きな関心を寄せてきた事件であり、漫画界は本仮処分決定をバネにし て、この種の悪質な無断続編作成行為を根絶していくものと思われます。
そこで、本日の記者会見には、「タイガーマスク」事件に深い関心と協力を寄 せてこられた、わが国を代表される漫画家の方々(いがらしゆみこ、石ノ森章太 郎、上田トシコ、ちばてつや、水島新司、水野英子の各氏)が出席され、今回の 重大な著作権侵害行為と裁判所の司法判断に対する見解を表明してもらう予定で す。


3、「タイガーマスク」事件の事実経過
 昨年3月11日に、ユニオンプレスという会社から、「タイガー・マスク」を 出版している講談社宛てに1枚のFAXが流されました。それは、故梶原一騎氏 の7回忌記念事業として「タイガー・マスク」「あしたのジョー」「愛と誠」の 続編を作成する予定であり、第1弾として「タイガー・マスク」の続編を翌4月 5日から故梶原一騎氏の実弟真樹日佐夫氏原作で東京スポーツに連載するという ものでした。
 さっそく講談社より、原作者故梶原一騎氏の著作権継承者と漫画家辻なおき氏 に連絡を入れたところ、両者とも「タイガー・マスク」の続編制作には絶対反対 ということでしたので、その旨ユニオンプレスに伝えました。にもかかわらず、 同社は連載の6日前になってはじめて辻氏に電話を入れ、続編制作の許諾を申し 入れましたが、辻氏に拒絶されるや、これを無視してそのまま予告通り4月5日 から続編「タイガー・マスクTHE STAR」を開始したのです。
 そこで、実際に連載された「タイガー・マスクTHE STAR」を検討して、これが 紛れもなく「タイガー・マスク」の人気にあやかってただ乗りした続編にほかな らないことを確信した辻氏は直ちにユニオンプレスとこれを連載した東京スポー ツに対し、直ちに連載を中止するように抗議文を送りました。しかし、先方から 何の連絡もなく、完全に無視されました。そこでやむなく、5月21日、続編の 連載中止を求めて東京地方裁判所に仮処分の裁判を起こしたのです。
 本裁判における争点は、ただひとつ、相手方が制作した「タイガー・マスク THE STAR」が「タイガー・マスク」の著作権を侵害するものかどうか、という点 でした。
 この点につき、相手方の主張のポイントは、次の通りでした。
1.「タイガー・マスクTHE STAR」のキャラクターの絵柄もストーリーも「タイガ ー・マスク」とは異なるから、「タイガー・マスク」の著作権を侵害すること にはならない。
2.従って、「タイガー・マスクTHE STAR」は「タイガー・マスク」の著作権者の 意思とは関係なく、完全に自由に制作できる。
3.従って、辻氏に連絡を入れたのも単なる道義的な事柄にすぎず、辻氏が反対し ようがこれに拘束されることは全くない。
 これに対し、辻氏の反論のポイントは、次の通りでした。
1.「タイガー・マスク」とキャラクターの絵柄もストーリーも同じ漫画、すな わち海賊版が許されないことは今更言うまでもないが、しかし、たとえストー リーが変えてあっても、主人公のキャラクターの特徴を真似て、なおかつその 続編であることをうたい文句にして宣伝しているような漫画も、やはり「タイ ガー・マスク」の著作権を侵害することになる。
 本件において、「タイガー・マスクTHE STAR」は、その主人公が「タイガー・ マスク」の主人公のキャラクターの特徴を真似ていることは一見して明らかで あり、相手方が「タイガー・マスク」の人気にあやかってその続編であること をうたい文句にして宣伝していることも明らかである。従って、「タイガー・ マスク」の著作権を侵害していると言わざるを得ない。
2.従って、「タイガー・マスクTHE STAR」は「タイガー・マスク」の著作権者の 許諾を得ないで、勝手に制作することはできない。
3.従って、辻氏が反対しているのにこれを無視して制作をすることは著作権侵害 の責任を免れない。
 ところで、本件が漫画のキャラクターをめぐる、全く新しい裁判であることか ら(これまでの裁判例はいずれも、「サザエさん」事件のように、1枚の絵の利 用という漫画のキャラクターの単純な複製・コピーが争われたものばかりで、本 件のように漫画のキャラクターの特徴を真似て、いわば続編を作成するという1 個の作品全体の著作権侵害が争われるというケースはなかったのです)、裁判所 は慎重な上に慎重な審理を行ない、当事者双方に可能な限りの主張・立証を尽く させ、1年1ケ月の審理を経て、ようやく本日の決定となったのです。


4、本決定の内容
  当初、辻氏は「タイガー・マスクTHE STAR」の連載中止を求めて、原作者 や東京スポーツを訴えましたが、裁判所の審理が予想外に長引いたため、その 間に本年4月に「タイガー・マスクTHE STAR」の連載が終了してしまいました。 そのため、本仮処分の決定としては、現在、「タイガー・マスクTHE STAR」の単 行本を出版している出版社ユニオンプレスに対してのみ、出版の差止を認めると いう形になりました。しかし、これはもちろん「タイガー・マスクTHE STAR」の 作成行為が著作権侵害に該当するということを前提としたものです。その意味 で、裁判所は、辻氏の言い分を100%認める判断を出したものです。


5、本決定の意義
 今回のように、1枚の漫画をめぐって著作権侵害が争われるという単純なケー スではなく、1個の作品全体をめぐって、しかも元の作品と絵柄もちがえば、ス トーリーもちがうような作品全体をめぐって著作権侵害が真正面から争われた難 しいケースはわが国では初めてであり(そのためむろん、これを論じたまともな 文献さえない状況であり)、その意味でも、これを著作権侵害と認めた今回の司 法判断はわが国では画期的なものになると思われます。
 ただ、本決定の法的評価をめぐっては、今後なお議論を重ねていく必要がある ところですが、辻代理人としては、今回の相手方の無断利用行為の特色が、いわ ば「タイガー・マスク」の主人公の人気キャラクターの翻案的利用(つまり、漫 画のキャラクターの単純な複製・コピーではなく、漫画のキャラクターの特徴部 分を真似て続編を作成したもの)という点にあるという立場から、相手方の行為 は複製権侵害ではなく、ズバリ翻案権侵害であると本裁判において一貫して主張 してき、裁判所もこれを認めてくれたものと理解しています。


6、今後への影響
 わが国の漫画のキャラクターの著作権保護の問題も、今や外国並みに「サザ エさん」事件や「ポパイ」事件のように、単純な1枚の漫画の利用をめぐるもの から、無断続編作成行為といった、1個の作品全体の利用をめぐるものへと次元 が広がってきています。現に、昨今、名作漫画の続編を無断で漫画化するケース はもとより、小説や映画やファミコンなどによって作成する悪質なケースが増え ており、新たな深刻な問題となっています。
 今回の決定は、こうしたキャラクター利用の新しい現象に対し、著作権法の法 規範をはじめて明確に打ち出したという意味で、極めて重要な意義を持つもので あります。それゆえ、今回の重要な決定が、今後、このような悪質なケースを根 絶するための警鐘・規範となることを願って止みません。

(文責:辻代理人弁護士 柳原敏夫)

Copyright (C) daba