アニメ「Wieβ Kreuz Giuhen」CS放送中止事件

----原作者の契約解除によるアニメ放送の中止----

 1.19/02


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今年の正月明け、愛知の大学で著作権の集中講義を終えて戻ってすぐ、私のサイトを見て相談に来たという、次のようなメールが飛び込んできました。

Subject: ○○と申します
Date: Wed, 16 Jan 2002 11:54:30 +0900

柳原様

はじめまして。
先ほど「××××法律事務所」の方にご相談のお電話を差し上げました、
○○△△と申します。

こういったことは初めてですので何かとお手数おかけするかと思いますが
なにとぞご容赦下さい。

私はイラストレーター、漫画などの仕事をしておりまして

‥‥‥‥

と始まって、長文の相談事が書いてありました。
そのただならぬ様子は、こうした文章にも現われていて、

もうここまでくると相談と言うより依頼になってしまいますが
似たようなことでどうしていいかわからず
泣き寝入りしている新人もたくさんいると思います。
私もこの企画に参与した時は新人で耐えに耐えてきましたが
この地獄がまた再開され何年もつづくのかと思うと手が震えて何もできません。
現に再三の無断使用を知ってから精神安定剤がないと夜も眠れず
通常の生活が送れなくなっています。
一時期、こんなことが続くならもうこの仕事をやめようと決心し、
仕事先へその旨を連絡してしまったこともありました。
先生、なにとぞお力をお貸し下さいませ。

これはほっとくと、自殺でもするのではないかという危惧から、本人に返事を書き、翌日、弁護士会で会うことにしました。

なにぶん、お互いに初対面で、弁護士会1階のロビーということだけで待っていたのですが、それらしき人物はなかなか現われない。
30分以上待って、とうとうしびれを切らして、帰ろうと思った時、携帯電話が鳴り、電話機を取ったら、ロビーの隅に怪訝な顔をしてこっちを見ている高校生みたいな女の子が携帯電話をかけていた‥‥。

ということで、相手は、私のことをてっきり弁護士ではないと思い込んでいたらしく(HPにちゃんとしたイラストがある)、私もまたこんな高校生みたいな子が依頼者とも思っていなかったため、対面するまで時間がかかってしまいました。

ともあれ、弁護士会で、彼女の言い分を詳しく聞き、それを元に、先方のアニメ制作会社に対して、原作使用契約の解除とアニメ放送の中止を求める通知書を送ることに決定。原稿をメールでチェックしてもらい、2日後に相手方に向けて発送。

そしたら、相手のアニメ制作会社はビックリ仰天して、さっそく担当者から社長から気を取り直して欲しいと申し出があり、さらには、CS放送のキッズステーションの代理人と代表取締役からも会って話を聞いて欲しいと(様々なインチキな誘惑を含めた)申し出がありました。

しかし、彼らの根本的な誤解は、こちらはお金が欲しいのだろうと思い込んでいることだった。そこで、「私たちの要求は、放送を止めてもらいたいことです。それ以上でもそれ以下でもありません」この真意を理解してもらうために、相手とのコミュニケーションをくり返し行い、最終的に、こじれずに、キッパリとCS放送を諦めてもらいました。

世間の一部では、右も左も分からない小娘がネットをあやつってテレビ放送を中止させたというので、いろいろと物議を醸し出したらしいが、そもそもこれがネットの可能性である。今まで、どうしてもつながることができなかった無数の人々をつなぐチャンスをもたらすのがネットの威力である。だから、今回のように、価値を作り出した源泉であるクリエーターに対する正当な評価と人間としての尊厳というものがまるっきりない制作会社に対する抗議を試みようとしたことに、ネットは媒体として意味ある役目を果してくれたと思う。
このようなことは、ネットがなかったら絶対あり得なかったことです。


ちなみに、彼女は、私と知り合う前に、友人から、この事件の弁護士費用を払うのに一生かけて払う覚悟でなくてはいけないと教わり(いったいどれほどの金額を言われたのか!)、私に対してもその覚悟で事件を依頼したらしい。だから、事件が済んで、私が費用を請求した時、彼女は絶句し、目を丸くしてこう言った−−先生、それで食えるんですか(^^;)

今、彼女は元気バリバリで仕事をしています。

以下は、その彼女が今回の事件の相手方であるアニメ制作会社と結んだ原作使用契約書を解除する旨の通知書です。


契 約 解 除 通 知 書


 拝啓、○○△△(筆名「●●▲▲」。以下通知人という)の依頼により通知人の代理人弁護士として、通知人と貴社との間で平成9年1月1日締結した「Wieβ」のキャラクターデザインおよび漫画に関する契約(以下本件契約という)の解除について、次の通り通知いたします。


申すまでもなく、通知人は、「Wieβ」のキャラクターおよび漫画(以下それぞれ本件キャラクター、本件漫画といい、両者を総称して本件著作物という)の著作者でありかつ著作権者であります。

ところで、本件契約には、第3条但書において、貴社の本件著作物の新たな利用に際しては、「必ず甲と事前に協議する」義務をうたってあるにもかかわらず、貴社は、契約締結後現在に至るまで、本件著作物の新たな利用について一度も通知人に連絡を取って事前協議をしたことがなく、いつも通知人がこうした利用を発見して貴社に抗議を申し入れ、見本品を請求(しかも、そうした見本品の請求すらしばしば無視され、いわば事後協議すら実行されないことが数多く続いた)するということのくり返しでした。

このような貴社の不誠実な態度のため、この間、通知人は筆舌に尽くし難い貴社への不信と苦しみを味わされ、精神安定剤なしには眠れぬ事態となり、平成10年には、貴社への不信の余り、貴社からの新規の依頼を受けることができない状態にまで達しました。

しかるに、今回、またしても、本件キャラクターの著作権者である通知人に事前に何の連絡・協議もないまま、本件キャラクターを使用した新たなアニメーション「Wieβ kreuz Giuhen」を制作し、放送する予定である事実を知りました。これもまた本件契約の第3条但書に違反する明白な契約違反であります。

つまり、貴社は、これまでに数限りなく同種の契約違反を重ねてきて、通知人の度重なる警告にもかかわらず、これに誠実に耳を傾けようとせず、契約無視の態度を全く改めようとしないまま、またしても今回の契約違反に出たもので、このような貴社の態度は、まさに契約当事者間の信頼関係を根本から破壊する卑劣なものと言わざるを得ません。


通知人は、貴社のこのような卑劣な態度をもはや絶対容認するわけには行かず、よって、ここに本件契約を即時に解除することを通知いたします。


従って、本通知書が到達した以後、貴社は、アニメーション「Wieβ kreuz Giuhen」は言うに及ばず、本件著作物を用いた著作物の一切の利用行為を禁じられることになります。にもかかわらず、万が一、貴社が、引き続き、本件著作物を用いた著作物を利用し続ける場合には、故意による著作権侵害行為として、単に民事のみならず、刑事の責任追及があり得ることを、なおかつ、こうした著作権侵害の利用行為を行なっているテレビ局などに対しても同様の民事・刑事の責任追及があり得ることを念のため申し添えます。


敬 具  

                  2002年1月19日


     東京都千代田区×××丁目×番地
          ××××××××
       ××××法律事務所
                 ○○△△ 代理人
                 弁護士 柳原敏夫



東京都×××××××××
株式会社 ××××××
代表取締役 ×××× 殿


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