著作権法の幻想について3
----著作権法の本質----
(ニフティの会議室での発言)

1.10/95



 私が著作権法に対し疑問に思った核心的なことは次のようなものでした。

「著作権法は、何よりもまず人間の創造性に着目し、これを重んじ、創作的な作品を制 作した著作者を保護しようとするものといわれるが、果たしてそうだろうか?」

 私はこの問題を、著作権法の起源を探る中で、少しでも明らかにしたいと思ったので す。そして、まあ我流の作業の中でですが、そこで明らかになったことは、

「著作権法の本質は決して創作的な作品を制作した著作者を保護しようとするものでは なく、あくまでも著作権ビジネスにかかわる産業資本家たちを保護するためのものだ」

ということです。つまり、これらの産業資本家たちは、自らの利益を確保するための手 段・方法として、著作者制度を掲げたにすぎないのであって、著作者は所詮、産業資本 家であるお釈迦様の手の内で踊っているに孫悟空にすぎないのです。
 だから、著作権法 は、ちゃんと著作者が産業資本家の手の内から暴れないように法人著作(著15条)の 制度で釘を差したり、さらに、従来ならば著作者の黒子として表に出なかった産業資本 家(レコード会社・放送局など)が、自らの権利確保のために著作権法上の権利が欲し いと望めば、隣接権者とかいう(ケッタイな)名目をつけて、著作権法上の権利者の列 に加えてあげたのです。さらに、著作者に生意気な権利主張をごちゃごちゃ言わせない ために、映画会社に映画の著作権を自動的に与える特別な制度(著29条)を設けて、 産業資本家を手厚く保護したのです。
 そもそも私がこのように考えたきっかけは、次のことからでした。つまり、もし、著 作権法が本当に人間の創作行為を尊重し、創作者の個人を尊重する気があるならば、そ れだったら、著作権法は、無断複製を禁ずる複製権等の権利を著作者に与える前に、ま ずは第一に、著作者の作品を複製等して世に送り出す産業資本家との間で、著作者の立 場が十分守られるような保障を考えるべきなのです。つまり、

‥‥明日の無断複製の心配よりも、今日のパンの保障を!


 実際のところ、労働者に対し、彼らの弱者たる地位を雇い主から守るためにちゃんと 労働基準法などの労働法があるように、また、借地・借家人に対し、彼らの弱者たる地 位を地主・家主から守るためにきちんと借地借家法があるように、著作者に対しても、 著作権法でそのような保護があって然るべきなのです。しかし、著作権法ができて百年 近くたった今日においても、未だに、労働基準法や借地借家法的な条文がひとつもない ということはほんとに驚くべきことです。しかし、見方を変えればそれは何ら驚くべき ことではないのです。なぜなら、もともと著作権法は著作者を保護するための制度なん かじゃないからです。だから、ちゃんと一貫しているとも言える。
 そして、人格権は別にして、複製権等の著作権を本当に必要としているのは、個々の 著作者ではなくて、海賊版の横行などで著作権ビジネスの産業秩序が乱れるのを何より 恐れる産業資本家にほかなりません。だから、著作権法は、いつも、著作権ビジネスの 産業秩序を乱す恐れのある「新しい複製可能なテクノロジー」が出現するごとに、産業 資本家の要請を速やかに受け入れて、「新しい複製可能なテクノロジー」による複製物 を取り締まる新しい権利を次々と増やしていったのです。だから、著作権の中身の拡大 をもたらしたのは、新しい文化の動きなんかでは全然なく、専ら「新しい複製可能なテ クノロジー」なのです。これまで、そうであったように、今もなおそうの筈です。その ことは加藤さんなんかが一番ビンビン感じておられる筈です。ホント、欺瞞的なやっち ゃあなあ、著作権法というやつは‥‥という風に。
 その意味で、今の著作権法の基本精神は、200年前のフランス革命のころの代物と 殆ど変わっていないでしょう。憲法も民法も刑法も、当時の産業資本家保護のイデオロ ギー的性格が暴かれて、20世紀には弱者である労働者や市民の保護を真書面から取り 上げて、その性格を根本的に変更せざるを得なかったのに、ひとり著作権法だけは、当 時の性格をそのまま残してぬくぬくと生き延びているわけです。許しがたい、と思うと 同時に、著作権法だけはその幻想的な性格を人一倍強く持っていたため、その正体を暴 かれずにきたのでしょうか、それとも、著作権法の主役に祭り上げられた著作者たち が、孫悟空みたいに少し頭が足りなかったのでしょうか(そこらへんはよう分からん)。


 しかし、少なくとも今後は、 加藤さんみたいにガンガン作品を作って同時にガンガンおかしいことをおかしいと叫び続けて止まない人が増えることが、この欺瞞的な著作権 法の埋葬にとってぜったい必要だと思いますね。

(続く)



加藤さんみたいに:事実、加藤さんたちは、この「弱者たる著作者の地位を横暴な雇い主から守るために」、実際に被害にあった仲間のイラストレーターの裁判を支援しています(コスモス事件)。

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