近況報告

6.10/01



さきごろ、研修所時代の同期のやつが裁判官をやめて晴れて弁護士になったというので、今週、そいつの開店祝いと、ついでに私の廃業祝いを兼ねて会を開きました(勿論、本当は、何も知らないでノコノコ弁護士になったそいつのことを憐れむために、そして廃業する私のことを心から祝福するために開いたものですが)。

そしたら、冒頭から、そいつが「騙された!」と連発するものですから「一体どうしたんだ?」と、内心は(おっ、始まったぞ)と興味しんしんで訳を尋ねると、そいつがいうことには
「○○(やはり同期の弁護士)が、オレに『お前、いつまで裁判所みたいなところにグジュグジュくすぶっているんだ。はやくやめてこっちに来いよ。東京の弁護士くらい人権擁護の活動ができて、その上金がガッポガッポ入るところはないぞ。』(ホ、ホ、ホタル来い。こっちの水は甘いぞ……というBGMが聞こえてくるような、インチキ極まりない話)と言うもんだから、それで『じゃあ、ひとつやってみるかあ』とやめたんだ。ところがどうだ!やめてみたら。毎日毎日、顔を合わせるのはきまって気違いか、さもなければヤクザじゃないか。そいつらと、延々と地上げの話をやるか、さもなければ際限のない愚痴話に相槌を打たされるかなんだ。こりゃあ、たまんないぜ!おかげでさ、毎晩、焼け酒だ」

一同、ニヤニヤしながら聞いている。(そうだろ、たまんないだろ。アハハハ……今まで役所でふんぞり返って、ああしろ、こうしろ、って好きなように命令していた分には、余計そうだろさ。第一、弁護士ってやつの正体はな、お前が考えているような名士でもなんでもなくて、あれはさしずめハゲタカかハイエナか、さもなけりゃヒルみたいなものなんだ。人の不幸に食らい付いて、おいしいところをむしり取る、この世で最もエゲツナイ人種だってことを、おまえも、この際きっちり学んだ訳なんだ。
ついでに教えてやると、弁護士が人権擁護の仕事をやるってことも、あれは、普段やっている醜態ごとで体中に蔓延した毒ガスを抜き出したい、腐り切った気分をを紛らしたい一念で御慰みのためにやっているのが大方の真相さ。つまり、あれはハゲタカのマスターベイションにほかならないんだ……)

とかなんとか話をしているうちに、例の○○が「やあやあ」とすっかりかっぷくのいい太った体で入ってきて、元裁判官のやつの憤懣にしきりに弁解を始め、「いやいや、君もあと3年しんぼうすれば大丈夫だよ。オレだつてさ、ここにきて、やっと売り上げが3000万を超えたんだから……
」なんだらかんだら、私にはさっぱり縁遠い世界の話になっていって、それから、売り上げを伸ばすためにはどうやったらよいか、依頼者をどうやってだまくらかして、どうやって手を抜いて仕事をするか等々、段々むかっ腹が立ってくるような話に熱がはいっていったので、つまり連中が弁護士になり立ての頃には一番軽蔑して止まなかった筈の、その話に連中自身がもうすっかり夢中になっているのを見て(もうここには用はないわな、精々金儲けとハゲタカのマスターベイションに励むがいいさ)と席を立った次第です。

とにかくここ何年間であの連中を支配してしまった精神というのは、仁義なき戦いと俺たちには明日はないというニヒリズムだけで(当面、彼らを見物している分には結構面白いのですが、以前のような彼らとの人間関係はもはや真っ平だ)、我が亡き後には洪水は来たれ、としか世界を見れないんだったら、それはそれでいい、だったら人権の擁護なんて見え透いた偽善者ぶりはいいかげんやめろよな!糞ったれ!超、ムカツク……こんなことを報告する積りではなかったのですが、申し訳ない。

今回、一番言いたかったことは、ひとつは数学を学ぶ自分流のやり方がこの間ようやく分かったということです。

その結論だけ言うと、かつてアインシュタインたちがやったように、今一度ひかりとか運動とか音とかの自然現象の謎と向き合うことにより、その法則を表現する最適な言葉として数学があることを追体験するというやり方です。

もうひとつは、自然現象の謎はこれまでのアインシュタインのような法則の探究というやり方では必ず壁にぶつかる、世界はかつてゲーテが、そして現在エンデが取り組んでいるような視点から再びその全体性を回復しなければならないことを、その重要性を、数学と取り組めば組むほど実感として再確認できたことです。

そして今週、衛星放送の黒澤明特集を見て、黒澤明がゲーテやエンデと同じ質の作家であることを発見し、彼の行き方に深い共感と可能性を見い出したことです。


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