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たまたま憲法が紛争の最終的解決機関はおめえだよと裁判所をご指名したもんだから、 法的紛争は猫も杓子も裁判所に持ち込まれ、彼の手にあまることこの上ない著
作権紛争までも否が応でも裁かざるを得ない羽目となった訳で、まあ考えてみ れば、裁判所もお気の毒なことである。
しかし、見方を変えば、裁判所にも、元々解決基準に則った解決が不可能な 紛争を無理やりにでも解決しようって無茶苦茶頑張るエリート裁判官がいて、
そういうとき裁判所って、普段なら凡そ想像不可能な人間くさ〜い姿がつい さらけ出ちゃうから、すっごく楽しい。
今回の裁判も、お互い一歩も譲らぬ泥 仕合の相を呈してきて、しかも当の裁判官もこれをどう評価して裁いていいか 皆目見当がつかないときたもんだから、万事窮した裁判官、ポロッと
「飽くまでここだけの話ですが、来月私は転勤でここを離れます(あっ、今か らそんなことバラシちゃいけないんだ!)。それで、もし今月中に和解ができ
ないのであれば、決定(裁判の一種)を出します。……ただ、決定が出ても相 手はきっと不服でしょうから、改めて裁判を起こしてくるでしょう。(ここで
、裁判官、ぐっと身を乗り出し)ですから、よおく考えると、本件はここで和 解しておくのが…お得ではないか……」
(当方、困惑の余り、思わず)「お得????(これは、むむっ、もしかしたら 東京銀行のCMの間違いではないか)」
しかし、思い起こせば、このとき裁判官が焼けのヤンパチで、渾身の力を振 り絞って放った最後のお言葉が、本件紛争物語における起死回生の名セリフと
なって、紛争関係者の心をぐっと捕え、めでたく一件落着を実現した訳ですか ら、やっぱ、人間言ってみるもんですね。
実は2ケ月前、私はこの裁判官のことを内心軽蔑してたんだけど、今ではなかなかの玉だと感心している。だって、普段、法服を 着込んでいる裁判官が「お得、得々」みたいな、名(迷?)セリフだがひとつ
間違うとこいつアホかと無能馬鹿呼ばわりされかねない訴訟指揮をするなんて、 こりゃあ相当タイミングと勇気がいるもんね。
2、映画の翻案権侵害をめぐる判断基準
それと、映画の翻案権侵害というのは理論上、原作と映画を比較して原作の 内面形式という構造が映画に再現されているかどうかを判断するもんですが、
しかし、こいつは「言うは易し行い難し」で、大体この比較は実際やっていくうち に、決まって大いなる混沌の様相を帯びざるをえない。そこで、このようなカ
オスの世界に陥ったとき、裁判官さんって、どういう態度をとると思います?
そうなんです、森センセはわかってると思いますが、裁判官って、こういう とき、事態をひたすらものすごく単純に捕えたがるのね。
今回の裁判も、裁判 官は原作と映画を比較をそんなにきちっとやっているとは思えない割りには、 訴えた作家の方の肩をわりかし持つんです。それで、これ、なんでかなあ、っ
て色々推理した時ふと、本件紛争を『男と女のもつれあい』と置き換えてみた
ら、俄然事態がよく見えてきたんです。
というのは、この件は、以前、一度映画会社から 作家のところに「原作にさしてほしい」と申し込んだことがあって、それがちょっ
としたあれがあって話がナシになったちゅういきさつがあったんです。裁判官 さん、どうもこのコミュニケートした事実に相当こだわっていたみたい。
私(映画会社側)は、最初、たとえ過去に色々いきさつがあろうとも現に映画製作
の際作家の作品を使用してなければ断固シロだ、それを一度でも原作申し込み
したという事実からクロのように決めつけるなんて、全く不条理だ!
っておおいに憤慨してたんだけど、しかし、本件紛争を「男と女のもつれあい」と置き換えてみると、不思議なことにこのコミュニケートした事実が、やっぱスゴク意味
深く思えてきたのね。男女の仲だって、最初の一夜がなんたって後々まで色々 意味持つしね。ましてや、男(映画会社)から女(作家)を熱心に口説いて一
夜を共にしながら、後からオレ知らないよ、ってのは通用しないわな。最低、 なんで御縁が切れたのか、ちゃんと釈明する義理がある。どうも、裁判官さん
、そういう意味での男(映画会社)の不義理を非難しているようなのね。
ちゅうわけで、本件紛争物語は、男女5人恋物語として幕を閉じた次第……
それにしても、「置き換え」という最も数学らしいこの思考方法は、紛争のイメージを理解する上でも極めて有力な武器になりますね。
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