「大河をめざすネット配信」に対して、流れる水がないのではないか?

−−作品の恐るべき質の低下に対して、何が可能なのか?−−

10.30/01


コメント
 以下の通り、第14回東京国際映画祭主催のシンポジウムがあり、そこでパネラーとして参加した際に用意したメモです。

 新藤兼人さんたちとの事前の打合せの中で、中心的な論点は明らかだった。−−−いくら、ネット配信のためのインフラ整備が進んでも、いわば川の護岸工事が完了しても、そこに流れるべき水がなければどうしょうもないではないか?つまり、今、日本映画界を襲っている、恐るべき作品の質の低下という問題(=流れる水の枯渇)をどう解決していったらいいのか?

 これについて、私見−−作品の質の回復という課題にとって、理念の復権が不可欠であると同時に、社会システムの見直しという作業もまた不可欠である=両者は、作品の質の回復にとって両輪の輪である−−を述べたもの。


【国際映像シンポジウム】

タイトル:「ネットワーク時代のコンテンツを守る」
日時:10月30日(火) 15:00〜18:00予定
会場:東急Bunkamura B1F リハーサルルーム

第一部:基調講演「コンテンツ保護の課題と展望」  安田浩  
第二部:パネルディスカッション「ネットワーク時代のコンテンツを守る」  
モデレータ 安田 浩(東京大学教授)
パネリスト 新藤 兼人(映画監督)
久保 雅一(小学館:映画「ポケットモンスター」エグゼクティブプロデューサー)
神山 征二郎(映画監督)
柳原 敏夫(弁護士)
岸本 周平(経済産業省課長)



★、 日本映画の危機が叫ばれて久しいが、それに対し、インターネットによる作品の配信というシステムは、何をもたらすことができるか?

その前に、法律家として、法律とくに著作権法は、この現状に対して、いかなる貢献ができるか?という問いについては、
→何もできない、単に、無力そのものを認めざるを得ない。

 なぜなら、今の著作権法の基本原理は、契約自由の原則であり、弱肉強食の世界をただ黙認するだけだから。

 しかし、思いがけない展開が突如、やってきたように思う。それがインターネットの出現。

 もともと軍事目的のために作られたシステムが、全く新しい可能性を秘めた道具として機能し始めた。
   EX.地雷防止の条約成立に貢献し、ノーベル平和賞を受賞したNGOの活動スタイル(←彼ら自身、インターネットがなかったら、自分たちの活動はあり得なかったと認めている)

★問題は、このインターネットの可能性をどこに見出すか?である。

→私見:2つあると思う。

A.ひとつは、独立の中小の生産者たちが、みずから生産と流通のコントロールを獲得するための極めて有力な道具として威力を発揮できる、ということ。

つまり、昔、ソニーの社長が「インターネットは、恐竜の絶滅になぞられる」と言ったが、それは間違い。そんなに溯ってはいけない。
むしろ、500年前の、それまでの流通システムを牛耳っていた伝統的な大商人たちが絶滅し、独立の中小の生産者たちが勃興してきて自ら生産と流通のコントロールを握った、古い封建時代が崩壊し、新しい近代社会を切り開かれていった時期になぞられるべき(マックス・ウェーバーや大塚久雄を参照)。

B.もうひとつは、インターネットという道具を使って生産と流通のシステムを見直すという実践が、クリエーターの理念を取戻すということと不可分一体の関係にある、ということ。

つまり、現代の日本映画の危機は、そのひとつとして、作品の質の恐るべき低下という問題があるが、その原因は、単に、撮影所崩壊のよる映画技術習得の困難さだけにあるのではない。それと並んで、否、それ以上に大きな問題として、クリエーター側に何としてでも表現したいという渇望を沸き起こすような理念というものが欠如していることにあるのではないか。
       ↓
この理念の復権は、単に頭の中の観念の世界だけで追求されることはできない。
なぜなら、もともと理念の復権は、今ある我々の社会システムへの見直しと不可分一体の関係にあるものだから。
       ↓
それを自ら実践しようとしたクリエーターが少なくともひとりはいた。それがミヒャエル・エンデ
彼は、本来、人は希望なしには生けていけないことを語り、同時に、自ら「貨幣」というシステムの見直しなしには我々の未来も希望も、また芸術家としてのエンデ自身の理念もあり得ないことを、晩年、執拗に訴え続けた(エンデの遺言)。
       ↓
そこから見れば、芸術作品の質の回復という課題にとって理念の復権が不可欠であると同時に、社会システムの見直しという作業もまた不可欠である=両者は、作品の質の回復にとって両輪の輪となるべきもの。

そして、この課題に、インターネットは、今まで考えられなかったような威力を発揮するだろう。

以上