脚本家荒井晴彦 外1名 VS 小説家絲山秋子
−−「やわらかい生活」裁判−−
自ら締結した契約を履行せず、脚本家の著作権を不当に抑圧する契約違反の事態を是正し、脚本家の本来の権利状態を回復するための脚本家たちの「インティファーダー」の闘い

since 2009. 7. 14
last update 2015. 4. 4

裁判記録の再アップ−−なぜ再アップしたのか−−

いま「ふくしま集団疎開裁判」の弁護団長をしているので、今年(2012年)5月にスイスから来日したバーゼル大学名誉教授のミシェル・フェルネクスさんから「福島の子どもたちを救いたいので会いたい」と言われ、会いました。開口一番彼は「チェルノブイリ人民法廷を知っているか」と尋ね、「知らない」と答える私に、「是非、見て欲しい。チェルノブイリの惨事と健康被害を裁いたものだから」と情熱を込めて語りました。

そんなすごい裁判が人民の手で開かれ、実行されていたことを初めて知り、にもかかわらず、それがネットで英語でも日本語でも公開されていないため、殆どの人たちが知らないことにショックを覚えました。これでは、努力してチェルノブイリ人民法廷をやった意味がないにひとしい、と。

これと同様、もし「やわらかい生活」裁判の記録が誰でも見れる形で公開されていなかったら、この裁判も存在しないにひとしい。

先週末の20日、渋谷で、「やわらかい生活」裁判を考える会があり、私も裁判報告のため参加して、依然、原作者と脚本家の権利関係の調整が脚本家の中心的問題のひとつであることを再確認しました。或る意味で、脚本家は、イスラエルという原作者に不当に領土を占領されてきたパレスチナ人と似ています。長期にわたる不法占拠の中で、心身ともに病まざるを得ないような状況にずっと置かれています。この不法占拠を正しい領土問題として解決しようと、初めてチャレンジしたのが「やわらかい生活」裁判です。しかし、それは「サイレントマジョリティ」の支持を得るまでには至らず、敗北に終わりました。その意味で、これは1987年にパレスチナ占領地区で初めてパレスチナ人が反乱を起こした「インティファーダー」を思い起こさせます。パレスチナ人たちは、40年近くに及ぶイスラエルの占領を耐え忍び、ついに忍耐袋の緒が切れて、「小石を投げる」という反抗をしたからです。「やわらかい生活」裁判は、イスラエル軍戦車に小石を投げたパレスチナの子供たちのようなものかもしれません。しかし、イスラエル軍戦車に小石を投げたパレスチナの子供たちのインティファーダーがパレスチナ問題の大きな転換をうながすことになったように、この裁判も不滅です。パレスチナ人の苦難とは比べることができませんが、必ず原作者の不法占拠が正しく改められる時が訪れます。

そこで、最終解決まで、この不滅の裁判がどんなものであったのか、改めて、その全貌を公開して、多くの人たちに、脚本家たちの「インティファーダー」の闘いを知ってもらおうと思いました。

まずは、一審(東京地裁)で提出された書面を以下の表に一覧にしました(その解説は改めて。ひとまず「一審判決の感想」だけアップします)。

一審判決の感想 柳原敏夫 2010.9.15)

(7.24/12 「やわらかい生活」裁判一審代理人 柳原敏夫)

速報−−提訴の報告−−

 今朝の予告通り、本日(2009年7月14日)午後1時、脚本家の荒井晴彦氏と社団法人シナリオ作家協会は、小説家の絲山秋子氏を相手に、出版妨害禁止、損害賠償請求等を求めて東京地裁に提訴しました。
 その結果、事件の担当部は、東京地裁民事40部に。

 本件事件の概要を年表としてまとめものは、こちら--->経過年表 (なお、冒頭の注の「脚本は甲1」とは、甲1号証として提出した荒井晴彦氏の脚本「やわらかい生活」のこと。「小説は甲4」とは、甲4号証として提出した、絲山秋子氏の小説「イッツ・オンリー・トーク」のこと)

 マスコミ各社の報道は以下の通り(アイウエオ順)。
朝日新聞   共同通信   産経新聞   時事通信   東京新聞   毎日新聞   読売新聞

(7.14/09 文責 原告荒井晴彦ら代理人 柳原敏夫


速報−−提訴のお知らせ−−

 本日(2009年7月14日)、脚本家の荒井晴彦氏と社団法人シナリオ作家協会は、小説家の絲山秋子氏を相手に提訴します。
 以下は、訴状の冒頭、本件訴訟の概要と本質のくだりです。

訴状の全文と荒井氏の陳述書、シナリオ作家協会の前会長の加藤正人氏の陳述書はこちらから --->訴状。 原告荒井陳述書。加藤陳述書。

(7.14/09 文責 原告荒井晴彦ら代理人 柳原敏夫


本件事件の概要と本質(訴状の冒頭より)

本件は《前代未聞の異常事態》(甲2。280頁)として始まった。すなわち、「毎年その年度を代表する10本のシナリオを掲載し後世に残していくことを目的としている」年鑑代表シナリオ集の2006年度に選ばれた脚本「やわらかい生活」が、2007年6月、その原作者である被告から掲載許諾を拒絶されたからである。

 これまで、原作者が著作権使用料の額などの経済的理由でDVDの販売など個別の二次使用を拒絶したケースは聞いたことがあっても、しかし、今回のように、完成した映画は劇場公開され、テレビ放送、DVDの販売・レンタル、海外セールスも順調に進行していた矢先、脚本の年鑑代表シナリオ集への収録・出版という商業的利用から最も遠い、文化的遺産としての意味をもつ利用だけが「シナリオを活字として残したくない」という理由で許諾拒否されたというのは過去に前例がない。

 そのため、原作者の「横暴」をめぐって、脚本家の間から異論が湧き上がったのは当然である。そして、原作と脚本という、映画著作物からみて共に原著作物に位置する2つの著作物の関係をめぐって、脚本家の間で激烈な芸術論争が巻き起こった。

 本件は芸術論としてみた場合、複雑多岐に渡るデリケートな議論を含んでいる。しかし法律論としては単純明快である。なぜなら、本件では、もともと原作者(被告)側で契約書のドラフトを用意し、締結した本件の原作使用契約の中に、いわゆる二次利用について「一般的な社会慣行並びに商習慣等に反する許諾拒否は行なわない」という、今日の映画製作・利用の実態に即した合理的な許諾のやり方を盛り込んでおきながら、自らそれを実行しなかったからであり、それゆえ、本件の唯一最大の争点は、「脚本の年鑑代表シナリオ集への収録・出版に対する原作者(被告)の許諾拒否が、一般的な社会慣行並びに商習慣等に反するかどうか」だからである。この点、原告両名は、被告の前記拒否は一般的な社会慣行並びに商習慣等に明らかに反すると考え、被告に対し円満解決のための交渉をくり返し申入れたが、被告からは一片の誠意もなく、交渉決裂となり、訴訟を余儀なくされたものである。

 脚本の出版は華々しい映画の二次利用の中において最も地味なものである。しかし、脚本こそ映画製作の要となる最も重要なものである。その脚本を、後世に残すことを目的とする年鑑代表シナリオ集に収録することは脚本家にとっては最も大切なことである。このような大切な権利の実現を、原作者の恣意と契約違反に弄ばれて妨害されることがないようにしたい、これが本裁判の目的である。

裁判の経過と提出書面の一覧表(一審)

月日

原 告 (荒井晴彦・社団法人シナリオ作家協会)

月日

被 告 (絲山秋子)

2009
7.14

訴状

          原告の請求
1、被告は、脚本「やわらかい生活」を年間代表シナリオ集に収録・出版することを妨害するな。
2、上記出版の被告に対する著作権使用料は3000円であることの確認。
3、被告は原告らに慰謝料として1円を支払え。
 
             目 次
第1、はじめに――本件訴訟の概要と本質――
第2、当事者
第3、権利の目的たる著作物及び著作権者
第4、被告の許諾拒否行為
第5、被告の許諾拒否の正当性の有無
第6、本脚本出版の合意の成立
第7、出版妨害禁止の請求
第8、原告両名の損害
 
 
 
同上
原告荒井晴彦の陳述書               目次
第1、略歴
第2、映画「やわらかい生活」の製作過程について
第3、「年鑑代表シナリオ集」へのシナリオ掲載の拒否問題



同上

社団法人シナリオ作家協会の前会長加藤正人の陳述書
              目次
第1  略歴
第2  社団法人シナリオ作家協会と年鑑代表シナリオ集について
第3  「やわらかい生活」年鑑代表シナリオ集掲載拒否の経緯
第4  映画製作における脚本の重要性について  
第5 結論に代えて




同上 社団法人シナリオ作家協会の「年鑑代表シナリオ集」編纂委員長(2007年当時)井上正子の陳述書               目次
1、 略歴
2、 原作者の掲載拒否は「一般的な社会慣行並びに商習慣等に反する許諾拒否」であることについて



同上 経過年表 本件紛争の発端からクライマックス、現在に至るまでを年表にまとめたもの。


同上 証拠説明書(1) 提訴と同時に提出した証拠の一覧





9.25 答弁書 何も答弁しないにひとしいカラ答弁書



10.2 準備書面(1)



証拠説明書(1)
10.2 第1回弁論
10.19 進行に関する回答書

(要旨)
1、審理の形式について
 
 本裁判のテーマは、被告シナリオ作家協会の会員(脚本家)全員にとって、我が身に関わる重要な問題である。
 よって、審理の進行上、準備手続でなければ困難な状況にならない限り、可能な限り、会員が傍聴できる公開の法廷で弁論をやって欲しいと強く希望する。

2、審理の内容について
 もとより原告は本裁判で芸術論争をする積りはない。但し、和解も視野に入れた審理を希望。和解成立のためには、なぜ本件のような紛争が発生したのか、その発生原因を理解しておく必要がある。それが本件では、被告が答弁書でも指摘していた「本脚本の評価」をめぐる原被告間のズレである(もちろん原告側の評価が映画界一般の評価と基本的に一致していることは、これまでに本脚本と本映画に与えられた社会的評価から明らか)。

よって、原告も、その限りで(あくまでも和解のための紛争の発生原因を裁判所に理解してもらうために)、「本脚本の評価」とりわけ被告の原作との関係で本脚本がどのように評価されるかをめぐって、一種の芸術論争にも言及する必要があると考えている。

以上の原告のスタンスを理解の上、進行を整理していただきたい。

11.11 準備書面(2)
11.11 第2回弁論



証拠説明書(2)



12.3 準備書面(3)
12.21 準備書面(1)



2010
1.6
原告荒井晴彦の陳述書(2)



1.7 証拠説明書(2)



1.13 第3回弁論
1.19 準備書面(2)






2.17 準備書面(4)



証拠説明書(3)
2.24 第4回弁論
4.8 原告荒井晴彦の陳述書(3)



4.14 第5回弁論
5.7 準備書面(4)
5.7 準備書面(5)



証拠説明書(4)
5.14 第6回弁論 審理を終了。
9.10 一審判決 原告の請求をすべて棄却。


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