論点2:対比表(原告と判決)

論点その2(大会の一般講演拒否について)

項目

原告(槌田敦)の主張

一審判決

論点

被告大会の場で、原告の本一般講演を《学術的講演ではない》という理由で拒否した行為は、その判断の基礎とされた本論文の基本的内容に関する事実認定に誤認があるから、裁量権の逸脱・濫用に当り、違法(不法行為)となるか。

結論

違法となる。

違法とならない。

理由1

被告会員は、被告に対して、被告大会で一般講演を求める権利もしくは法的利益を有するか。

一般論

★学会と会員間を規律する法律関係について

(1)、そもそも学会とは、団体のうち「学者相互の連絡、研究の促進、知識・情報の交換、学術の振興を図る協議などの事業を遂行するために組織する団体」(広辞苑 第五版)であり、個々の研究者にとって学会に参加する最大の目的はいうまでもなく「自己の研究の研鑚・進展」である。すなわち、個々の研究者は、「自己の研究の研鑚・進展」を目指して学会に参加するものであって、それを実現するために、自己の研究成果を学会機関誌や学会の大会などに発表し、この発表について同じ分野の研究者たちと意見交換をすることが最も重要となる。

(2)、従って、「自己の研究成果を学会機関誌や学会の大会などで発表する」ことは、個々の研究者にとって学会に参加する主要な目的「自己の研究の研鑚・進展」を達成する上でなくてはならない重要な手段であり、しかもこれと対価的な関係に立つ「会費を納入する義務」が会員にとって法律上の債務である以上、他方の「自己の研究成果を学会誌や学会の大会などで発表する」こともまた、学会にとって法律上の債務と考えるのが自然かつ合理的である。

(3)、但し、学問研究の性質上当然のことながら、会員の「自己の研究成果」がどんな内容であっても無条件で「学会機関誌や学会の大会などで発表することができる」訳ではない。そこには一定の水準を満たすことが求められる。その意味で、上記の「学会にとって法律上の債務」とは「研究成果が一定の水準を満たすこと」という条件付きの債務ということができる。

(4)、さらに、学会機関誌や学会の大会は無制限なものではあり得ず、誌面や会場のスペースなど物理的な条件がある。他方で、発表を希望する多数の会員同士の調整という事情もあり、そこで、特定の「物理的な条件」のもとで「会員同士の発表の調整」という理由で発表がやむを得ない制約を受けることがあるのは憲法の人権相互の衝突の調整の問題と同様の次元の問題である(被告細則の20条の「論文掲載の順序も編集委員会に一任される。」は、掲載することを前提にして「会員同士の発表の調整」を図った規定である)。

判断なし。

具体論

(1)、上記一般論は、被告と原告間を規律する法律関係についてもそっくり妥当する。
 すなわち、原告に限らず、そもそも個々の研究者が被告学会に参加するのは、被告学会の定款(甲22)8条に明記されている通り、「自己の研究成果を被告機関誌や被告大会などで発表する」という特典を有するからであり、だからこそ、会費を納入する義務(債務)を履行してこの特典を享受しようとするのである。

(2)、従って、「会費を納入する義務」が原告(会員)にとって法律上の債務である以上、これと対価的な関係に立つ他方の「自己の研究成果を学会誌や学会の大会などで発表する」こともまた、被告学会にとって法律上の債務である。

(1)、被告定款82号は、被告会員は「この法人の催す各種の学術的会合に参加すること」ができると規定しているから、被告の会員には、学術的会合に参加する権利があるということができる。そして、学術的会合に参加する権利とは、学術的会合に出席するという意味での具体的権利をいうにとどまり、被告会員旨らが研究発表を行うことについては全く触れられていないから、自益権として研究発表の具体的権利あるいはその法的利益が保障されているということはできない。

(2)、「2009年度春季大会の告示」において、講演を申し込むに当たって提出された予稿の内容によっては講演を認めないことがあると記載した箇所があるが、定款・細則にはそのような内容の規定がないことからしても、上記記載内容は、あくまで被告が講演を拒否することがあるということを例示的に示したものであるにすぎず、原告の主張する権利若しくは法的利益の根拠とはならない。

(3)、次に、会員数からみて講演の機会を与えられるのは会員のごく一部であることは明らかであり、各学術的会合ごとに研究発表をする機会が与えられると期待することが法的保護に値するともいえない。

(4)、さらに、上記認定事実のとおり、原告は本件講演と同内容の講演を過去に3回行っていることが認められるが、これは被告が自由な裁量に基づき原告に講演の機会を与えたものにすぎず、原告の主張する権利若しくは法的利益の根拠とはならない。

(5)、むしろ、同趣旨の講演が過去に3回行われていることは、それ以上、講演の機会を与える必要がないとの判断の根拠ともなり得るものであるし、今回の「人為的CO.2温暖化説を撤回し、科学者は社会に詫びる必要がある」という題目からすれば、原告ら自らの「C02濃度の増加は自然現象」とする見解の発表のみにとどまらず、自らの研究を発表するという範囲を超え、反対説である人為的C02温暖化説を社会的に非難し、その見解を撤回させることに今回の講演申込みの目的があるとも窺えるから、被告の本件拒否行為2には、何ら問題がないというべきである。

(6)、よって、その余の点について検討するまでもなく、本件拒否行為2が債務不履行又は不法行為に該当するとの原告の主張には理由がない。(1516行目〜1618行目)

理由2

被告の講演拒否行為は、裁量権の逸脱・濫用に当るか。

一般論

★裁量権の逸脱・濫用について

裁量行為(講演拒否行為)の判断の基礎とされた重要な事実に誤認がある場合には、当該行為は裁量権の逸脱・濫用として違法となる。

 

 

判断なし。

 

 

 

具体論

(1)、被告の講演拒否行為の構造 
 被告の講演拒否行為という判断は、本一般講演は《学術的講演ではない》と認定し(以下、本認定という)、この認定を理由にして拒否したものである。

(2)、本一般講演の基本的内容
 主たる内容は本論文(甲4)そのものであり、本論文の査読者から高いレベルの科学的論文としての評価を受けており、本一般講演が《学術的講演》であることは火を見るよりも明らか。

(3)、これまでの一般講演の経緯
 原告はこれまでに、下記の通り、被告学会主催の大会に、温暖化に関する通説を批判する一般講演を申し込み、いずれも実現しており(甲21の1〜3)、同じく通説を批判する本一般講演だけ拒否される合理的な理由は全く存在しない。
                        
200710 2007年秋季大会で、一般講演「CO2温暖化説は間違っている」
2008 5月  2008年春季大会で、一般講演「CO2温暖化説は間違っている(2)
同年
11月  2008年秋季大会で、一般講演「CO2温暖化説は間違っている(3)

(4)、「科学者の社会的責任」に言及している部分について
ア、もともと科学者の社会的責任とは、科学者の研究の意味を最後まで真面目に考え抜いたときに自ずと直面するテーマのことであり、これまで、アインシュタイン、湯川秀樹、朝永振一郎などの物理学者(核戦争に関するパグウォッシュ会議)や生命科学者(遺伝子組換え技術に関するアシュロマ会議)の行動などでよく知られていることである。
イ、本件では、温暖化に関する通説が現代の社会経済やエネルギー政策に深刻な影響を及ぼしている以上、温暖化に関する通説が誤まりではないかどうかについて真摯な吟味を行なうことは気象学者にとって避けて通れない問題であり、気象学者の社会的責任を果すことである。本一般講演ではそのことの重要性を指摘したものにほかならない。
ウ、だからといって、本一般講演が紛れもない《学術的講演》であることは、ちょうど、夏目漱石の小説中に文明批評が含まれているのを当時の通説(自然主義)から「不純だ」と不評を買ったが、だからといって漱石の作品が紛れもない「小説」であるのと同様である。

(3)、従って、被告の本認定は明らかに事実誤認である。

(4).しかも、被告の本認定は、「被告の講演拒否行為という判断の基礎とされた本一般講演の基本的内容に関する事実認定」に該当する。

(5).よって、そのような本認定に誤認がある場合には、被告の講演拒否行為は裁量権の逸脱・濫用として違法となる。

判断なし。

 


ホームへ