原告主張と判決の対比表

論点その1(論文の掲載拒否について)

項目

原告(槌田敦)の主張

一審判決

論点

本論文を被告機関誌に掲載拒否した被告の行為は、その判断の基礎とされた本論文の基本的内容に関する事実認定に誤認があるから、裁量権の逸脱・濫用に当り、違法(不法行為)となるか。

結論

違法となる。

違法とならない。

理由

   
  

一般論

裁量行為(掲載拒否行為)の判断の基礎とされた重要な事実に誤認がある場合には、当該行為は裁量権の逸脱・濫用として違法となる。

投稿された論文が「天気」に掲載されなかったことが不法行為に該当するためには、編集委員会において、一般の論文について採用している査読制度によらず、当該分野の専門家である査読者の意見を聞くことなく採用を拒否したり、査読者が採用を求めているのに科学的根拠を欠いたまま拒否するなど、およそ科学的根拠と無関係な理由により、すなわち、「論文の内容」と無関係に論文の掲載牽拒否し、「論文の内容によって」採否を決すべきものとしている細則の規定の趣旨に明らかに反するような場合に限り、不法行為が成立するというべきである。すなわち、仮に当該掲載拒否の理由について、投稿者からみて科学的には異論が十分にあり得たとしても、拒否行為が相応の科学的根拠に基づく以上、不法行為は成立しない。(141020行目)

具体論

(1)、被告の掲載拒否行為の構造 
 被告の掲載拒否行為という判断は、《原稿では、数年スケールの変動において、気温変動がCO2の変動よりも先行する(位相が進んでいる)ことが指摘され、これを根拠にして、長期的なトレンドにおいても気温上昇がCO2増加の原因であるとの主張がなされておりますが、》(甲10)という風に本論文内容を認定し(以下、本認定という)、この事実認定を前提にして、《数年スケール変動における因果関係と、長期トレンドにおける因果関係が同じであるとする根拠はなく、原稿中ではその点においての説得力のある論拠が示されていません》(同上)という理由で掲載を拒否したものである。
(2)、本論の基本的内容 
 しかし、本論文は、1969年から2003年までの35年間という長期の変動そのものを分析したものであって(甲2の第4図または甲3の第5図参照)、被告が認定したような「数年規模の短期の変動」から35年の長期の変動を導き出すような分析は全く行っていない。
(3)、従って、被告の本認定は明らかに事実誤認である。
(4)、しかも、被告の本認定は、「被告の掲載拒否行為という判断の基礎とされた本論文の基本的内容に関する事実認定」に該当する。
(5)、よって、そのような本認定に誤認がある場合には、被告の掲載拒否行為は裁量権の逸脱・濫用として違法となる。

この観点から、本件拒否行為をみるに、被告の編集委員会が、専門家である査読者2名の意見を聞き、査読者が、2名とも原告の本件論文には科学的に論拠が不足しているとし、細部にわたって問題点を指摘したことを受け、2度にわたり原告に原稿を書き直す機会を与えた上で、相応の科学的根拠をもって掲載することはできないと判断したものであるから、不法行為の成立を認めることはできない。
 よって、本件拒否行為が不法行為に該当するとの原告の主張には理由がない。(14頁下から5行目〜15頁2行目)


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